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【映画感想文】ゲームの映画かと思ったら80年代カルチャーの映画だった - 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』監督:アーロン・ホーバス、 マイケル・イェレニック

 初詣のため、鎌倉の鶴岡八幡宮に行ったら、参道に大きなモニターが設置されていた。もちろん、普段はそんなものない。参拝に来た人たちの行列をターゲットに特設されたものだろう。そこでCMが延々流れていた。

 風情がないと言ってしまったら、それまでだけど、既存の領域に新しいビジネスを生み出すという視点では面白かった。

 子どもの頃、星新一の『無料の電話機』という作品を読み、あらゆるところで広告が流れるようになり、便利な技術を無料で使える未来社会の予想を読み、なるほどなぁと驚愕したことを思い出した。

 テレビからはじまり、ネットの世界では広告を見ることでサービスを無料で受けられることはすっかり当たり前になっている。初詣にしたって、こんな風に広告を見ることで、神社やお寺の収益が確保され、施設の維持管理費の足しになるのであれば、毎年、ちょっとした小銭しか投げ入れていないわたしとしては万々歳。喜んで視聴させて頂く。

 だいたい、人が密集しているせいで、スマホが接続が悪かったこともあり、CMと言えども暇つぶしには助かった。内容はバラエティに富んで楽しかった。たぶん、JO1のファンの方が川尻蓮くんを応援する広告を出稿していたり、『大ピンチずかん2』という本の宣伝にお笑い芸人・やす子のラップが使われていたり、みんな、盛り上がっていた。

 そんな中、Amazonプライムで『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が見放題になったことを知らせる動画が流れ、そう言えば、見たいと思って見ていなかったことを思い出した。

 帰宅後、令和6年能登半島地震の情報を追いかけ続け、深夜二時をまわって布団に入ったはいいものの、いろいろ思考が落ち着かなくて、全然眠ることができなかった。それで、なんとなく、iPadでアプリを起動し、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』を見ることにした。

 なんというか、とてもちょうどいい映画だった。難しいことを考える必要はなく、ただ、画面で起きていることを追っていけば世界観を十二分に堪能できる。まさに王道のエンターテイメントであり、つらい現実で押しつぶされそうな心には、これでもかってよく効いた。

 マリオが映画化すると聞いたとき、正直、絶対に失敗すると思っていた。というのも、小学生のとき、『スーパーマリオ64』にハマり、マリオシリーズをずっとやってきた経験で言わせてもらえば、どの作品もゲームのためにストーリーがあるだけ。正直、まともな脚本が仕上がるイメージは微塵も湧かなかった。

 もちろん、そこに批判的なニュアンスは込められていない。あくまで、マリオはゲーム界における金字塔であり、毎回設定が変わる大味なところも含めて、プレイする喜びを優先した最適な構成であるのは周知の通りだ。

 なので、ゲームとしてのマリオを映画化するとしたら、きっと上手くはいかないだろうと危惧していた。

 しかし、そこはさすがの宮本茂。わたしの心配なんて、簡単に解決してしまう。なにせ、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はゲームの映画ではなく、80年代カルチャーを総括するような映画なのだから。

 冒頭から痺れてしまう。マリオとルイージがRun-D.M.C.を彷彿とさせるラップで登場。その後、ブルックリンの街並みを横スクロールで走り抜けるシーンでは、ビースティ・ボーイズの『No Sleep Till Brooklyn』(1986年)がBGMで流れる。

 ストーリーにしても、現実世界のマリオとルイージがひょんなことからクッパやピーチ姫のいる異世界に飛ばされる。まるで『ネバーエンディング・ストーリー』(1984年)のような展開ではないか。

 マリオの特訓も『ベスト・キッド』(1984年)だし、そのときの音楽はボニー・タイラーの『Holding Out For Hero』(1984年)で決めている。マリオカートを再現したところではa-haの『Take On Me』(1985年)が選ばれるなど、もはやMTV(1981年開局)を見ているような感覚に陥ってくる。

 わたしはマリオをゲームとしてしか見てこなかった。でも、考えてみれば、80年代のポップカルチャーのど真ん中にファミコンがあり、その象徴こそ『スーパーマリオブラザーズ』に違いなかった。それはビートルズがバンドという存在を超えて、60年代そのものであるのと一緒だった。

 してみると、むしろ、アイコンとしてのマリオで80年代を振り返ることほど、映画らしい映画はないわけで、全世界興収がアニメ史上2位となったのも納得だ。

 そして、その視点で振り返ってみると、世界観を固定することなく、その都度、一から設定を作り直せるマリオという汎用性の高いキャラクターは、ミッキーマウスの特性とあまりにも共通していることに気付かされる。

 キングコングの西野亮廣は日本のディズニーを目指すと言っているけれど、実際のところ、宮本茂こそ、すでに日本のウォルトなのかもしれない。いや、日本どころの話じゃない。世界レベルの偉人である。二十一世紀のウォルト・ディズニーと言っても過言ではないだろう。

 ぜひとも、この流れで、『ゼルダの伝説』の映画化も見事に成功させてほしい!




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