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【読書コラム】「始めに言葉ありき - 『情動はこうしてつくられる: 脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』リサ・フェルドマン・バレット (著)高橋 洋 (翻訳)

常識をひっくり返すような本で面白かった。感情は反射ではなく、思考による反応なんだとか。

名前の知らない感情を人は感じることができない。つまりは「始めに言葉ありき」。

実際、その言語にしか存在しない感情はいろいろある。

例えば、柴田元幸と小島敬太の『中国・アメリカ 謎SF』の一編、『深海巨大症』の中に「ラペル・デュ・ヴィド」という印象的な言葉が出てきた。

なんでもフランス語で、高いところから飛び降りたくなる衝動を意味しているらしい。

L'appel du vide

直訳すると、虚無の呼びかけ。

地上が手招きしている感覚なのだろうか? わかるようでわからない。

でも、フランス語だとこの感覚をL'appel du videと言えば簡単に共有できるのだろう。

パペポTVで、笑福亭鶴瓶が上岡龍太郎に対して、うまいこと自分の体験したことを説明できないときに、「わかるやろ、だいたい」と言っていた。

わたしは視聴者として、鶴瓶ってバカだなぁ、なんて笑っていた。

でも、実際のところ、鶴瓶はもの凄く高度なことをしていたのかもしれない。

きっと、言葉を選んで喋れば伝わるようにすることなんて簡単なのだろう。

プログラミングを書くように、決まり切った表現で決まり切った感情を伝達すれば、予想通りの意味を相手に認識してもらうことはできるのだから。

でも、それだと、予想通りを超えてこない。

「わかるやろ、だいたい」の「だいたい」をどう表現するかにその人間の面白さが滲み出るし、予想を超えた何かが起こる可能性がある。

そして、それが裏切りになり、笑いだったり悲しみだったり、新たな感情を作り出すのだ。

フロベールは紋切り型を嫌った。

紋切り型には裏切りがないからだろう。

松本人志は「笑いは裏切りやからね」とよく言うけれど、きっと、裏切りは笑いに限らず、新しい感情にすべからく必要な要素である。

そのことは直感として、みんなわかっているとは思うが、リサ・フェルドマン・バレットの示す構成主義的情動理論は、それを論理的に説明してくれる。

一昨日のM-1を見ていても思ったが、全員最強に面白いのだけれど、バシンと感情を構成していくフレーズを決めたコンビは、一際大きな波を起こしていたなぁと。

肉うどん!
ひーざ!

ランジャタイにそういうワードが一つでもあれば、とんでもないことになっていたかもしれない。


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