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今日のジャズ: 5月22-24日、1967年@ニュージャージーRVG

May 22-24, 1967 “Wave”
by Antonio Carlos Jobim, Urbie Green, Jimmy Cleveland, Jerome Richardson, Ron Carter & etc at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for A&M (Wave)

今日の東京のような清々しい春の日に手にしたくなるボサノバアルバム。その創始者の一人、アントニオカルロスジョビンによるオリジナルでジャズスタンダード化した名曲の米国ミュージシャンを交えた録音。

5月16日に紹介したボサノバ作品と録音場所は同じだが、こちらはオーケストラ編成。ルディバンゲルダースタジオはジャズ録音のメッカだが、1959年夏にニュージャージー州のハッケンサックにある自宅スタジオから車で二十分程の距離にある同州のイングルウッドに新設したスタジオに移設している。

その移設には物理的な制約だった狭い空間の問題を解消する意図があったとの話。その結果、引っ越して、この楽曲のようにオーケストラ録音ができるようになった。そんな背景もあって、このような作品も手掛けるようになる。

両親の自宅内にあった旧スタジオの外観
旧スタジオは狭く天井も低い濃厚な密接サウンド
移設後のスタジオの外観
内観、天井も高く反響対策が施してある

ジャズの大物プロデューサー、クリードテイラーが属する大手レーベルのA&Mから立ち上げたCTI Recordsからの一作。志向は純ジャズではなく、より大衆的な音楽でクロスオーバー的なフュージョン等を交えて、その敏腕もあって躍進していく。

その意図に沿って、オーケストラを従えたジョビンの軽快なピアノの旋律が耳心地の良い、ラウンジミュージックのような音作りと編成で進行していく。本曲は僅か三分弱の長さであっという間だが、親しみやすい爽快感のあるメロディーが、しっかりと記憶に残るのは、流石、ボサノバの開祖。

ボサノバにはトロンボーンのふくよかで性急ではないスムーズな音色が合う。5月16日紹介作品でも起用されている事から間違い無く相性が良い。この奏者アービーグリーンは、1956年公開映画「ベニイグッドマン物語」にも登場している実力者。

そして終始アクセントとなっているギターは、ジョビンによるもの。ピアノと兼ねているので、多重録音されていて、この頃になると複数のテープを重ねて音楽を作り出す手法が駆使されるようになり、このような仕掛けも活用されて行く。

ベースはあのマイルス黄金のクインテット第二世代のロンカーター。この曲には冒頭のベースから軽快感や個性的なファジー感も含めて絶妙にマッチしている。

音楽もさることながら、カラフルな色使いをする写真が主体のスタイリッシュなアルバムジャケットも大変個性的で、既存のジャズレーベルとは異なる路線を象徴している。

本アルバムは、大草原の地平線を背景にキリンがポツリと一頭、という構図の写真。これは、CTI御用達のピートターナーというカラー写真の大家によるもので、当時のLPジャケットに印象的な写真を提供してレコード店でのアルバムの存在感に大きく寄与したことは間違いなさそう。因みに、赤地と緑地のバージョンが存在している(タイトル写真と動画画面をご覧ください)。緑は、まさかの印刷ミスが、それを気に入ったターナーが許諾した事によって生きながらえている。

そのキリンはボサノバ発祥の地、ブラジルには生息していないので、なぜ採用されたのか、大いなる謎が残る。アルバムタイトル名も”Wave”なので海のはずなのに、敢えて草原を選んで仕掛けたということか。

ターナーのインタビューを見つけて謎が解けた。テイラーは、CTIレーベル立ち上げ初期に、従来の顔から上写真のジャケットとはまるで異なるスタイルの、リビングに飾れるようなアルバムカバーを模索している中でターナーに話が持ちかけられた。テイラーは音楽には触れずにジョビンの名前と題名だけ”Wave”と告げて、更に一言、「日本画の波だけは持ってくるな」と指示したそう。

この指令を受けてターナーは自らの作品を幾つかピックアップした中で、本作がテイラーの目に留まり、即採用が決定したという。つまり、プロデューサーの直感と独断で決まった、ということのようだ。もしかすると、先のテイラーの「(ありきたりの)日本の波の絵を持ってくるな」という言葉がターナーの脳裏に焼き付いて、まるで異なるアフリカのケニアで撮った写真がピックアップされた、という憶測が出来そうだ。その点では、このアルバムジャケット誕生の消去法的な観点において、日本が少し貢献したのかもしれない。

さて、主要ジャズレーベルにアルバムジャケットの名物デザイナーがいるように、CTIにはピートターナーという存在が居た。以下CTIのアルバムジャケットのほぼ大半がターナー作品。大胆な構成とコントラストの効いた鮮明な色使いに特徴がある。

ジョビンがピアノで、ジルベルトとゲッツと組んだ歴史的名演のボサノバを更に聴きたい方は、こちらもどうぞ。

ジョビンとシナトラの共演作は、こちらからどうぞ。本作と同じアレンジャーが手掛けています。

本作と同じターナーとバンゲルダーが加わったCTI作品にご興味がある方は、こちらもどうぞ。

最後に、骨太のロンカーターのベースを聴きたい方は、こちらをどうぞ。本作と同じバンゲルダー録音ですが、同じベースとは想像し難いレベル。


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