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今日のジャズ: 5月6日、1964年@ニュージャージーRVG

May 6, 1964 “Night and Day”
by Stan Getz & Bill Evans with Ron Carter & Elvin Jones at Rudy Van Gelder Studio Englewood Cliffs for Verve (Stan Getz & Bill Evans)
※5月5日に投稿しましたが、本演奏は5月6日の録音と判明したため日付を訂正しました

ジャズの巨人同士が正面から対峙した共演をすると、どうなるか。4月24日紹介のエバンスとジムホールのデュオ作品も巨人同士の録音ではあるが双頭リーダーシップ的なアプローチに対して、本作録音当時は前年リリースして大ヒットしたボサノバアルバム(以下)で存在感を示したスタンゲッツの方が格上で名前もエバンスより前に記載され、リーダーシップを握っている。

フレッドアステア初演のミュージカル「陽気な離婚」からの名作曲家コールポーター作曲作品。コルトレーンの名盤”Love Supreme”録音と同年で脂の乗った重量級ドラムのエルビンジョーンズを交えたカルテット作品。

両者一歩も譲る気は無い雰囲気だがペースは完全にゲッツ。ゲッツが主旋律を自分のペースで先に吹き、エバンスが焦るかのように追随するという、エバンスには殆ど見られない貴重な記録。

その意味では、1:03からのゲッツを除くエバンスがリードするトリオ演奏はエバンスのリードによるものだから興味深く聴く事が出来る。

ゲッツが戻った後は、再び容赦無くマイペースで吹きまくり、普段はペースを乱す事のない、むしろこの演奏でのゲッツのように強力に牽引するエバンスが、背後から追っかけてゆく貴重な演奏が聞けるのが本盤の素晴らしさ。珍しく伴奏でも余裕が少ないような頑張った感が見受けられる。

そして、本盤は録音されてから10年近くお蔵入りとなったが、その理由として、この二人が演奏に満足していなかったという説があるのも頷ける。

本演奏での聴きどころは、漁夫の利的に誰よりも、独特の粘りとうねりのあるリズムを鋭く重いシンバルで刻みながら我が道を行くドラムのエルビンジョーンズだったりする。冒頭のエルビン独特の音圧と共に迫り来るポリリズム、何処かで似たような迫り来るパターンを耳にした事があると思って記憶を辿ったら、先の”Love Supreme”の冒頭曲だった(以下)。それは本作から7ヶ月後に録音されているので、共通項が見出せるのかもしれない。エルビンの、ゲッツやベースのロンカーターとの相性は悪くないし、共演歴も複数あるので、指名したのは恐らくゲッツで比較的自由に演奏させているように見受けられる。

一方、キレ系で軽快な清音派ドラマーとの演奏が多いエバンスには、粘りのゴリゴリ系濁音派ドラマーの最上位に座するエルビンとの相性は今ひとつのように感じられる。そのせいか、これ以外に両者の共演作品は見当たらなかった。

ロンカーターのベースの音色は総じて比較的軽めで音程がファジーな印象が強いが、ここではずっしりと重量級に捉えられていて、特にベースとドラムソロの箇所の演奏に好感が持てる。本アルバムに登場する、もう一人の重量級ベーシスト、リチャードデイビスを彷彿させるのだ。オーディオ的には、このベースの太さとエルビンの迫力ある、特に耳に突き刺さって来るようなシンバルを何処まで生々しく再現できるか、で真価が問われる。

アルバムジャケットは、1988年のリイッシューのもの。当時の写真すら残っていないのか、二人の演奏を模した油絵になっている。その二人の間の背景の中央に名盤「エラアンドルイ」のアルバムジャケット写真が鎮座している。同じヴァーヴレーベルだからなせる仕業か。エラとルイとは、ゲッツもエバンスも共演歴が見当たらなかったし、リイッシュー時にエバンスはこの世にいなかったから、勝手に推測するに、この二人の意思ではなくて、プロデューサーかレーベルの商業的な意図があったのだろう。

そのプロデューサーは、後にCTIレーベルを立ち上げ、先のボサノバアルバムをはじめとして数多くの名盤に携わったクリードテイラー。その辣腕振りを発揮して大物同士の作品収録までは漕ぎ着けたものの、残念ながら本人達の許諾が取れず、塩漬け状態になった。二人に劣らず大物のクリードテイラーにとっても、この演奏の出来なら、それも仕方無し、という受け止め方になるのかも知れない。本作を通じてリーダーは一人に絞るべき、という得難い貴重な教訓を得たのではないか。

しかしながら、長い時を経て発掘されたお陰で、ジャズとジャズミュージシャンの本質が窺い知れるのが、本作の記録としての希少価値。

本作での相性は今ひとつも、時を経て十年後の1974年にビルエバンストリオにスタンゲッツがゲストとして参加したライブ録音が残されていて、そちらはエバンスの土俵にゲッツが乗っかる形で成熟した調和があり、安心感を持って聴くことが出来る。

いつ、どのタイミングで誰と何を演奏するのか、がリーダーシップとプロデューサーは大前提として、ジャズの名演奏を導き出す重要な要素ということが分かる。本作品収録アルバムと、ライブ録音で同じジャズスタンダード曲”But Beautiful”を演奏しているので聴き比べて、その違いを感じ取ってみるのが一つの娯しみ方。本アルバムのこの曲での巨匠二人の歩み寄り具合と、バンド全体の調和感は、とても良いし、その十年後の共演も和声やスタイルがモダン化、進化していて好ましい。

エバンスとギターのジムホールという、同じくジャズの巨人同士が対峙した作品にご興味があれば、こちらもどうぞ。こちらは協調的なアプローチ。

更にゲッツを聴きたい方には、上記再会演奏の二年前、ピアノの気鋭チックコリアを迎えたハードボイルド演奏をどうぞ。

耽美なエバンスを聴きたい方には、こちらのフルートを交えたカルテット演奏をどうぞ。やはりエバンスには清音派ドラマーが合う。

最後に、軽めでファジーなロンカーターのベースに興味があれば、こちらをどうぞ。本演奏と同じルディバンゲルダー録音でクリードテイラーのプロデュースによるものだが、その意図で、これ程にも音が様変わりしている事が分かる。

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