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今日のジャズ: 3月13日、1995年@ニューヨーク

Mar. 13, 1995 “My Romance”
By Brad Mehldau, Larry Grenadier & Jorge Rossy At Power Station for Warner Bros. (Introducing Brad Mehldau)

九十年代に登場した新世代派のピアニスト、ブラッドメルドーによるロジャースとハーツの名コンビが手掛けたスタンダードのトリオ演奏。

若干、古めかしく感じられがちなスタイルの楽曲を冒頭から斬新な感覚とタッチで新たな息を吹き込んでいる。それを気張る事なく、サラリとやってのけるところが、天賦の才能。

90年代にジャズの再興の一役を担ったワーナーブラザーズによるニューヨーク録音で、冷たい空気ながら春の暖かみを帯びた日差しが垣間見えるような雰囲気のある演奏。これを皮切りに新たな感覚で、ロジカルで哲学的な思索アプローチを取るメルドーがベテラン達に評価されて出世街道を歩んでゆく。

この演奏では、導入のピアノソロの旋律が、何の曲で何処に向かうのか分からないような進行で、これがトリオ演奏に入る瞬間からマイロマンスのメロディーが始まるという、最初から計算されたような、とはいえ納得の笑みが溢れてしまうような展開。

ベースは後に現代ジャズギターの第一人者パットメセニーとも共演する若手の出世頭で、硬派なビートが特徴のラリーグレナディア。トリオは、スペイン人ドラマーで軽快感が印象的なホルヘロッシーと共に名を成していく。

アルバムは、このレギュラートリオと、当時の若手筆頭格のベースのクリスチャンマクブライドとドラムのブライアンブレイドとの組み合わせの半々で構成されていて、CDの曲順同様に前者が先に録音されたものと独断で解釈した。後者は後に各々のリーダー作品やチックコリアトリオの鉄板リズムセクション等で活躍して行く。

録音は、著名作品を多数排出しているマンハッタン屈指のスタジオ、Power Station(現Avatar Studio)。その名前は、同建物が以前、発電所だった事に由来する。ジョンボンジョビの従兄弟の音楽プロデューサーが改修して録音スタジオになったそう。

そのスタジオで制作されたスティングによる2016年発売アルバムの”57th & 9th”は、スティングが同スタジオに向かう途中のロケーションから名付けられている。

新世代のメルドーのスタイルとしては、日常の一部となったロックの大いに影響を受けていて、積極的に取り上げて自然に弾きこなすのも新感覚の源泉で、断裂的なリフ、変拍子や変調を使いこなす。

変拍子については、カナダ出身のプログレッシブバンド、Rushに多大なる影響を受けたと語り、その音楽をテーマとしたアルバムの中でカバー曲も手掛けている。

最近のピアノソロのライブでは、ビートルズ、ジミヘンドリクス、デビッドボウイやレディオヘッドの曲を自らの思索的な解釈でアドリブを交えて演奏している。

プロデューサーは、同世代のテナーサックス代表格であり、メルドーとも組んだジョシュアレッドマン等を手がけたマットピアソン。手掛けた諸作のカバージャケットから(以下リンク)、本人の個性と作品の風貌を捉えた一貫性が垣間見える。それはまた、アーティストの個性を突き詰めるという作風にも通じているようだ。

このアルバムでは、本人がお洒落なカフェで、ボール皿で飲み物を飲む写真。いかにもインテリっぽいが、理論派で哲学と文学好きというメルドーの人柄が分かると、なるほど、と合点がいく。このトリオ作品は好評を博してライブ版を含めて計五作作成された。

メルドーはこの後に、リーコニッツ、チャールズロイド、ウェインショーターやパットメセニーといった世代を超える大御所と共演、現在ジャズの最前線で活躍している。

パワーステーションで約12年前の一月に収録された演奏は、こちらから。演奏者、演奏曲、レーベル、季節の空気感、時代の違いを掴み取ることが出来るかもしれない。

先に紹介したメルドーが手掛けた、1981年リリースのRushの原曲がこちら。変拍子と刺激的なリフが印象に残るプログレッシブロックの名盤からの代表曲。このドラマー、ニールパートは、ロック界屈指の実力者。ジャズにも造詣が深く、白人ジャズドラマーの最高峰に位置付けられるバディリッチのトリビュートアルバムを敏腕ドラマーを多数起用して、バディリッチバンドと共に二枚プロデュースしている。それはまた別の機会に紹介したい。

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