幻影旅団のチームマネジメントのすばらしさとそれでも鎖野郎に半壊させられた理由を考察する
こんにちは、悪の組織愛好家のなべはるです。2019年の初めに、下記の記事を書きました。
悪の組織の心理的安全性ランキングの栄えある1位はハンターハンターの幻影旅団です!
幻影旅団はほんとうに良いチームなのですが、ここでふと疑問に思うことがあります。それは、「ヨークシンシティ編で鎖野郎に半壊させられてるじゃん」というもの。この疑問に答えるべく、筆をとりました。
というわけでこの記事では、幻影旅団のチームマネジメントがいかに優れているか?と、優れたチームマネジメントにもかかわらずなぜ鎖野郎に半壊させられたのか?をチームビルディングの観点から考察します。ヨークシンシティ編のネタバレありまくりなので、ご了承ください。
団員どうしの仲が良く、リーダーは親しみやすい
幻影旅団が他の悪の組織と大きく異なるユニークな点は、上下関係なく団員どうしの仲が良いことです。
例えば下記の描写。
団員のウヴォーギンがマフィア相手に無双しているときのひまつぶしにトランプ(ダウト)しています。
「ウヴォーが無双しててヒマだからトランプでもしようか」「なにする?」「またダウトでいい?」みたいな会話が聞こえてきそうです。仲良しかよ。
余談ですが、この小さな一コマだけで
・シャルナークは頭脳派に見えるけどダウトでは弱い
・見た目が怖いフランクリンもいっしょに遊ぶ
・フェイタンはトランプに興味なし
と複数のキャラ性を多重的に演出していて、冨樫先生の漫画力やべぇなと思います。
上記の描写以外にも、オフにはいっしょに買い物したりオークションに参加したりゲームしたりと、仲良し描写はとても多いです。
また、多くの団員が団長であるクロロにタメ口で話しかけ、気安い関係であることがみてとれます。
悪の組織のリーダーは厳格かつ冷酷で、気軽に部下と話さず、少しでも逆らったら処分される…というイメージがあると思うのですが、幻影旅団はその真逆ですね。
上下関係はないけど、”ロール”は明確に定める
このようにメンバー間の仲が良い幻影旅団ですが、ただ仲が良いだけでは良い組織とは言えません。
一見好き勝手に動いているような幻影旅団も1人1人のロール(役割)は明確に定めており、団員はそのロールを全うすることを求められています。
ここでポイントなのは、リーダーはロール(役割)であって上下関係ではないことです。
リーダーはクロロなので、クロロの命令は絶対だし重要な決定はすべてクロロが行いますが、それはクロロがリーダーというロールを担っているからであって、クロロが絶対的な存在だからではないんですよね。
リーダーの命令は絶対だけれど、リーダーが絶対的な存在なわけではない…この区別がしっかりしているので、チームとしてのまとまりや意思決定のスピードを保ちながら、和気あいあいと仲良しな人間関係を両立できるのだと思います。
命令の理由と背景をていねいに説明する
幻影旅団のチーム運営を語るうえで外せないエピソードがあります。
それは、ヨークシンシティ編での団長クロロからノブナガへの命令。
ウヴォーを倒した鎖野郎は放っておいて引き上げようと命令するクロロに対して、ウヴォーの仇をとりたいノブナガが反論します。
それに対してクロロは、
という命令の背景や理由を(9ページにもわたって)ていねいに説明し、納得させています。
リーダーの命令は絶対とはいえ、命令の理由や背景を説明しなくていいわけではありません。メンバーが納得できるよう、ていねいに命令の理由や背景を説明する姿勢はとても参考にになります。
マイクロマネジメントせず、戦闘は信じて任せる
幻影旅団は、チームの方針や戦略は団長のクロロがすべて決定しますが、ひとたび戦闘に入ればやり方は団員に任せ細かく口出ししません。
陰獣戦のウヴォーギンや、ザザン戦のフェイタンが多少苦戦していても仲間は平然としたものでした。プロフェッショナルとして任せている信頼関係がみてとれます。
団長が唯一細かい指示を出したのは、ウヴォーギンを弔うために「大暴れ」を命じた下記のシーンのみ。
幻影旅団のような、リーダーは大枠の戦略だけ決め、個別の戦闘はメンバーに信じて任せるやり方は、環境変化の激しい現代のチームマネジメントにおいて重要なポイントですね。
最低限守るべきルールはある
このように、メンバーの裁量が大きく、各メンバーが自由にふるまうことができる幻影旅団ですが、ルールがまったくないわけではありません。
作中では、
の2つのルールがたびたび登場しています。
メンバーの裁量に任せつつも、組織が崩壊しないよう最低限のルールを定めるやり方はいまでいうホラクラシー組織にも似た、先端のチームマネジメント手法です。
メンバーがリファラル採用に熱心
メンバーも組織づくりに主体的に関わるチームは良いチームですよね。
ヨークシンシティ編で、ノブナガがゴンを勧誘…今でいうリファラル採用をしています。
その後のノブナガの「団長に推薦する」という口ぶりをみるに、おそらく各団員はリファラルで声をかける権限が与えられていて、勧誘後の採用プロセスも明確になっているようです。
いまトレンドの採用手法を20年前から制度化して実践していた幻影旅団、おそるべし…!
組織のルールを遵守できていれば…
…と、このように優れたマネジメント手法を取り入れて雰囲気も良い幻影旅団ですが、ヨークシンシティ編で鎖野郎に半壊させられてしまいます。
原作既読者ならご存知のように、(旅団の生命線である)パクノダが命を落とし・団長が能力を失い・なおかつ鎖野郎を逃がしてしまうという最悪の結果になったのは上記で定めた組織のルールを守れなかったためです。
団長の定めたルールを守り、鎖野郎の指示を無視していればパクノダと団長どちらかの犠牲は避けられないにしても、鎖野郎をしとめることはできたんですよね。
1人を犠牲にして鎖野郎という旅団存続の危険因子を排除するというのは、間違いなくクロロが望んだ選択でしょうし、こんなときに団員が迷わないようルールを定めていたのだと思います。
クロロにとって誤算だったのは、ルールは完璧であってもそれを判断し実行するのは1人の人間だということ。人間なので判断には情も入ります。
パクノダ、マチ、ノブナガ、コルトピはクロロを犠牲にするという選択肢を選ぶことができませんでした。この判断には、団長を蜘蛛の一部ではなく1人の人間として慕っていたことがみてとれます。
優れたタレントをそろえ、完ぺきと思えるチームマネジメントで良い雰囲気を保ちながらプロフェッショナルとして成果を出してきた幻影旅団ですが、メンバーがルールよりも情を優先したことが理由で組織存続の危機に立たされてしまいます。
メンバーの情と、リーダーが慕われていたことが失敗の理由なんて…幻影旅団からはチーム運営の難しさを改めて教えてくれます。
考察は以上です!読んでいただきありがとうございました。
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