【68‘メキシコ学生運動】今だから聞ける当事者の貴重な話《後編》
前回からの続きになります。
前編では、1968年のメキシコの学生運動の簡単な情報。
そして、トラテロルコの大量虐殺事件を体験された先生のお話の内「前提知識」「本当の意図」について記載した。
後編の今回は、
＊トラテロルコが世界的に注目される理由。
＊歴史本の在り方
＊学生活動家のその後、そして 1982 年の出来事
＊68 年 10 月 2 日の実体験
＊先生が今でも忘れることのできない二つの出来事。
＊今でも学生運動は続いている。
先生がお話しされた上記の6つについて記載していく。
まだ、前編を読んでいない方はこちらから。👇
＊トラテロルコが世界的に注目される理由。
世界中の数多く起こった学生運動の中で、何故トラテロルコの学生運動は世界的に注目さ
れる出来事であったのか？
それは、当時メキシコでオリンピックが開催予定であったこと。
そして、当時の学生運動の中で唯一ジェノサイドが起きた事例であったからである。（その
後、1989 年に中国の天安門事件もあるが。 ）
当時、メキシコシティでオリンピックを開催するにあたってメインの会場で収容人数が多
くメキシコを象徴するような競技場というのは、UNAM の敷地内にある「(現)Estadio
Olimpico/オリンピックスタジアム」だけであった。
そして、UNAM の敷地内は当時学生運動を行っていた学生たちの本拠地でもあった。
その会場を使用するため、学生運動を収束するための二つの理由から政府はＣ・Ｕ（Ciudad
Universitaria/学園都市）を軍や警察を用いて占拠したのだ。
オリンピックを行う開催地としての当時のメキシコの状態は国際社会からすると、あってはならないことであった。
その為、国際社会から事実を隠ぺいするために情報統制を行っていた。
（実際ニュースではトラテロルコの事件は報道されなかった、その他のストライキも頭の
おかしい学生たちの暴動として報道されただけ。 ）
そして、前述したように学生運動を統制するために武力を用いてジェノサイドを起こした
事例は当時の国際社会において極めて稀有な出来事であったからだ。
＊歴史本の在り方
先生は 68 年の学生運動の専門家である上に 19 世紀の歴史の専門家でもある。
そして、先生は教授である以前に自らを歴史の証人でありそれを次の世代につなぐ必要性があるとおっしゃっていた。
その為に25 年教授されていた歴史家としての仕事辞め、メキシコ国立自治大学（ＵＮＡＭ）にて 68 年の歴史の授業を行うことにした。
そんな彼女は歴史本のあるべき姿についておっしゃっていた。
実際に歴史本を書くことができる人物とは、その出来事に実際に関わっている人物。
または、その出来事と類似した体験を経験した人物のみ。
なぜなら、その出来事に関わった当事者としての感情が一文字一文字に強く刻み込まれているからである。
そして、その当時の出来事をすぐに言語化しなければ、 所詮は人間の脳なのでどこかで忘れてしまったり、 誇張して表現してしまう。 なので、歴史本にある証言なども当時に書かれているものでないと本来の効力を持たない。
これらの歴史本の在り方を呈されたうえで、改めてエレナ・ポニアトウスカ著の 『La nochede Tlatelolco/トラテロルコの夜』を称賛されていた。
なぜなら、著者は新聞記者でありトラテロルコに居た実際の証人たちに情報統制の中、秘密裡に取材をしたり、獄中からの手紙を受け取ったりして証言を集めていたからである。
実際に本が初版されたのが２００5 年。著者の並みならぬ努力と政府による情報統制の残酷さが垣間見える。
＊学生活動家のその後、そして 1982 年の出来事
トラテロルコでの事件以降、学生グループは二分化したという。
一つは、引き続き共産主義の教えを元に政府と戦った者たち。
そして、沈静化して元の生活に戻った者たち。
先生は引き続き戦われ続けたのだが、その努力が実を結び 14 年後の 1982 年 6 月 26 日の土曜日に当初の最終目的であったソカロ広場での講義演説を行うことに成功した。
先生は人生の中でその時ほどうれしく思ったことはないそうだ。
＊68年10月2日の実体験
当時先生は 16 歳。17 歳の女性の友人と、18 歳の兄とトラテロルコの三文化広場にいたそうだ。ミーティングには遅れて参加したそうで、実際に軍が広場に来る約 10 分前に到着したそうだ。
先生と友人は広場の中心に居て、兄は広場の横にある建物「Edificio Chihuahua/チワワ棟」の 3 階にいたそうだ。
18:00を少し過ぎた頃突然、ヘリコプターと放たれた閃光と共に多くの軍人が広場にやってきて広場にいた学生を取り囲んだ。それが、警察が侵入する合図だったようで証言によると 2 つのヘリコプターが来たようだが先生はそのうちの１つしか見えなかったそうだ。
その後すぐにチワワ棟から警察が姿を現し学生たちに拡声器で 「無駄な抵抗をするな」といったのちに、一人の警官が銃を片手に挙げて放ったそうだ。
そこから、広場で銃声がひろがり次々と人々は倒れていった。広場の外側にいた人々は逃げることに成功したようだが、広場の中央にいた先生とその友人は多くの人がいた為逃げ場を探すことができなかった。
さらに人々が多く打たれ、死んでいく中でその遺体が自然と幾重にも積み重なって肉壁による障害ができ人々の退路を妨害した。
その瞬間先生はその肉壁に身を隠していたのだが、走馬灯がよぎったそうだ。
当時、16 歳。走馬灯は一瞬にしてよぎったそうなのだが、16 歳という若さの為もあってか本当に短かったようで。その時に、死を覚悟したそう。
しかし、すぐそばで人々が逃げ道を無理やり作ったことによって目と鼻の先に逃げ場が確保された。
逃げ場を見出したのも束の間、目の前には足腰の悪いおばあさんが倒れていて助けるほかなかったという。その、おばあさんを友人と共に担ぎ上げた。
そして、逃げようとしたところ警官がそばに寄ってきて「これから、現場はもっと悲惨になる」と言われたそう。
それを聞いた先生は、事態を察知し早急に逃げたのだが逃げきったと同時に複数台の戦車が広場に侵入したそう。先生はその時に初めて、銃を持った軍隊と戦車を見たそうだ。
トラテロルコでチワワ棟にいた兄はというと、事前に学生活動家に変装してチワワ棟に潜伏していた警官に逮捕されたようだ。 そして、 その時に家族に自分の安否を知らせるために、その場にいた人に自分の学生証を渡したそうだ。
兄の安否を先生が知ったのは次の日、様々な役所に問い合わせたところ刑務所に収監されていたそうだ。
この後、学生たちは服を脱がされ数時間にもわたる拷問をその場で受けたのちに逮捕された。
そして、先生の兄曰くトラテロルコの現場に居合わせた住人、 ボールペンを買いに外に出た少年、チュロス売りのおじいさんなど全く事件に関与していない人物までもが逮捕されたようだ。そんな兄が釈放されるのは 3 年後の話。
トラテロルコ事件の内容がビデオで説明された動画👆
＊先生が今でも忘れることのできない二つの出来事。
先生が人生の中で忘れられない出来事の中で、1982 年 6 月 26 日の土曜日に当初の最終目的であったソカロ広場での講義演説を挙げられたが。
もう一つ、生涯忘れることができない悲しい出来事があったそうだ。
それは、先生が 2018 年にトラテロルコの虐殺から半世紀経ったイベントにて、政府から一つの紙を受け取ったとき。その紙には、先生の個人情報と共に先生が中学生の時に撮影した写真が貼られていたそうだ。
その紙とは当時の秘密警察が作成した危険人物リストの 1 ページ。
本来渡るはずのない写真が政府に何らかの形によって渡されていたのだ。 先生は、中学校が渡したのか、あるいはＵＮＡＭに入学した際に証明写真として渡したときの写真が政府に流れたかのどっちかだと推測している。
そして、当時 16 歳であった少女が危険人物としてリストに上がっていたことに対して憤りを感じたようだ。
＊今でも学生運動は続いている。
今でも、68 年から派生された学生運動は続いていて時代や当時との意味合いは違えども、多くの若者は自分たちの環境をより良いものに変えるため、アイデンティティを守るため、そして社会や政府に抗議するためにストライキやデモを行っている。
このような環境を持続、そしてトラテロルコのようなジェノサイドを再び起こさない為にも 68 年の出来事を次の世代へと受け繋いでいく必要性がある。
それが、先生が現在ＵＮＡＭで教鞭をとっている理由であり使命であるそうだ。
＊その他メモしていた内容
学生運動の作戦会議はどこでも行われた、街中、バスの中、道。
そして、トラテロルコの三文化広場。
当時はもちろん SNS などがないので伝達方法は、口伝えであったり、バスに赤のスプレー缶で「Hoy Meeting en Tlatelolco/本日のミーティングはトラテロルコ」と書かれ伝達された。
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