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【映画感想】ダウン・バイ・ロー

感想の前に、20代前半に勤めていた職場で上司だった人に関する話です。その上司とは今では中々会うことはありませんが、それでも1年に1回くらいの頻度で連絡が来ます。たまの連絡では僕のことを気にかけてくれますし、久しぶりに会ってお酒を飲めば、昔の話をしながら楽しい時間を過ごします。

そんな上司ですが、当時は大っ嫌いでした。嫌いであった理由となるエピソードはいくつかありますが愚痴っぽくなるので今回は割愛します。とにかく人として嫌いでした。

しかし人間不思議なモノで、あれだけ嫌っていた人間とでも仲良くお酒を酌み交わす日がやってくるのですね。

映画の感想と謳いつつも、僕の身の上話からスタートしてしまいました。失礼しました。ただ、この話がダウン・バイ・ローを観た感想とつながっていきます。


ダウン・バイ・ローはジム・ジャームッシュ監督の初期の作品としても有名な作品です。大胆なあらすじで言うと、ザック(トム・ウェイツ)とジャック(ジョン・ルーリー)がそれぞれ冤罪で逮捕され同じ房に入れこまれ、後にロベルト(ロベルト・ベニーニ)が殺人の罪で同じ房へと入れ込まれる。そこから3人は脱獄し、ヘロヘロになりながら逃げた先でとあるカフェに辿り着く。こんなストーリーです。

楽天的で人懐っこいロベルトに対して、ザックとジャックは馬が合わず常にいがみ合っていますが、そんな二人が別れるラストシーンはなんだか友情のような感覚を覚えますし、二人の別れが寂しくも感じます。この友情や寂しさといった感覚はラストシーンでいきなり現れてきました。

ダウン・バイ・ローで最後に感じたこの感覚。自分の人生においても同じような感覚を味わったことがあります。まさしく前述した元上司と働いていた職場を退職する時の感覚です。

馬が合わない友人や、面倒臭い上司、そんな人と過ごしている時間は苦痛以外の何物でもありません。しかし同じ時間を共有してきたという事実はことのほか大きくて、共有してきた時間が長く内容が濃いほど、いざその相手との時間が途切れてしまうといった時に寂しさや愛おしさという感覚が心をかすめていきます。

これは相手と苦痛な時間を過ごしている瞬間は辛くとも、いったんその時間が過去になってしまうと何故か笑い話になってしまったり懐かしい過去になってしまうからです。特に僕はこの機能が強いようで、ほとんどの過去は脳内で美化されてしまい、過去の苦痛は現在の酒の肴となってしまいます。

ダウン・バイ・ローという映画のラストシーンで感じた感覚と、自分がこれまでに感じていた別れ際の感覚が一致しました。

そう思うと人間便利なモノですね。ある程度の過去は脳みそが勝手に美化してくれるのだから。去年の悩みを悩みの種であった本人と一緒に懐かしみ笑い合うことだってできるのだから。つまり人間の脳は過去の時間が一番長くなる人生の終わりにおいて、人生を振り返った時に幸せだったと感じることができるようにプログラミングされているということですね。

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