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ウェルビーイングな世界観の多様性の夢と課題

ウェルネス、ウェルビーイングという言葉を見聞きすることが増えた。経済成長や実利を追い求めるだけではなく人間らしい生き方を社会で見直す動きが起きている。
そのこと自体は素晴らしい。

ただ直感的に「過去や性別を感じないな」と思い、良い点と、ウェルビーイングというカタカナをそのまま日本で使うのことに、やや疑問を持つ点を、さまざまなデザインや社会の事象をつなげて考えてみた。

ウェルビーイングについての、ブランドコミュニケーションやプロダクトやサービスの世界観づくりの参考までに。

ウェルビーイングの定義は言葉を直訳すると、幸福や健康と関連するライフスタイルについての言葉。
(日本は国連発表の世界幸福度ランキング 2019で58位/156カ国)

・身体的健康
・精神的健康
・対人関係の良好
・社会的に良好な状態

が包括される。
SDGs、「ホモ・デウス」の世界的ブームを考えるとうなづける。
ウェルビーイングを全てつなげていくと衣食住、健康、スポーツ、福祉、趣味、教育、家族、仕事、金銭的安全、コミュニケーション、街づくり、自然環境などキリがない。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ウェルビーイング

ビジネスとしてウェルビーイングに特化したプロダクトを提供するブランドpatternなど色々でてきている。

ファッション

現代社会の変化を可視化するファション。数年前のノームコアを経て、性別にとらわれない、気取らない着心地の良さや、長く着られることや機能性が重視されるようになってきて。

ユニクロは安いけどダサいものではなく、生活ニーズにちょうど合った人とおしゃれを競わなくていいブランドになっている。


働き方

働く場でのウェルビーイングは、HRテックの第一人者のジョシュ・バーシン氏(Josh Bersin・Bersin™ by Deloitte創設者兼社長)が提唱していることで、ビジネスの文脈でも健康経営とセットでよく聞かれる。
人事面で保険料抑制、燃え尽き症候群抑制、人材定着、パフォーマンスにつながる健康や幸福度が重視されている。

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HR Technology 2019: A Wild New World BY JOSH BERSIN

働き方改革でもウェルビーイング認証といえる建築に関する規定でオフィス空間の設計を人が働きやすく、環境を配慮するガイドラインもできている。

プロダクトの話では、SaaSで人事評価を行うGustoはユニコーン企業(評価額10億ドル以上)で、さまざまな人事業務を一括管理できるサービスとして、ウェルビーイングに配慮した管理ができ、業務管理でも堅くならない多様性を表現したクリエイティブ。

健康

フィットネスブームは言わずもがなだけど、ウェルビーイングで健康を指すとき、スポーツだけでなく感性や心理についても触れられる。

世界保健機関(World Health Organization: WHO)の「10 FACTS ON MENTAL HEALTH – Mental health: a state of well-being」でも心の健康は重視されている。
・世界経済は、うつ病や不安のために、年間約1兆ドル(Amazonの2020年時価総額、約110兆円)の生産性を失っている。
・世界の子どもや青年の5人に約1人が精神障害を患っている。
・重度の精神障害を持つ人々は、一般人口よりも10〜20年早く死亡。
など。

例えば日本でも人気で、多額の資金調達をしたマインドフルネスアプリclamは、多様性と未来も過去もなく禅の「今だけみること」を表現している。


セルフケア

今、話題のD2C(Direct-to-Consumer)の先駆け的なアメリカのブランドDNVB(Digitally Native Vertical Brand)といわれる流派の数々を支援してきたGinLane社(現在はPattern)。
そこが手がけたブランドhimsは、男性向けのコンプレックス商材と言われる分野(スキンケア、薄毛対策、ED対策など)をデザインの力でポジティブなブランドに転換し、累計で約220億円近く資金調達している。

男性向け商品ではあるが、パステルで愛嬌のあるトーンになっている。


スマートシティなどの街づくり

最近では、CES2020にてトヨタが発表したスマートシティ構想が大きく話題になったが、中国で、ドバイ、シンガポール、トロントですでに開発が進んでいる。
デジタル先端技術を駆使した近未来的都市で、環境に配慮しつつ人々のQOL (クオリティ オブ ライフ)を向上させ、経済的にも持続可能な発展をするものとして注目されている。

Googleの親会社であるAlphabetがトロントで立ち上げたユートピア的都市構想Sidewalk Labsは先駆けともいえる。
イノベーションという観点からいうと、今までにない都市ができる期待値はあるが、一方で古くからの地元民からは、公的資金を使って過去の文化を作り変える必要はあるのかという批判の声が出ている。

数多くのステークホルダーが協業しプロジェクトは進行中。

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欧米的ウェルビーイングには過去がない?

ウェルビーイングな概念や、それを打ち出す企業の見せ方はボーダレスで素敵だが、私が少しウェルビーイングにもやもやする点がある。
Sidewalk Labsで批判が出ていることをあげたが、欧米式ウェルビーイングの多様性あるリベラルな世界観には過去がない。

世界市場を対象としたウェルビーイングなブランド構築者(デザインコンサル会社も含む)は、死角ゼロになるような多様性へのポリティカル・コレクトネスの究極的態度をとっているところが多い、

・ブランドに関わる人にも行動規範が課せられる。
・オンライン、オフライン、会議、私生活も平等と公平を両立させ、バイアスのない多様かつ包括的な態度。
・あらゆるジェンダー、障がい、年齢、宗教、外見などの側面で差別しない。
・多様性用語集を規定している。

世界を対象にした「ウェルビーイング」は、すべての個人の自由選択を最大化し、多様性にはそれぞれの人の出自、属性を詮索しない心地よい文脈のなさが美徳になる。
フラットな世界観は、ブランディングの肝でもある「差別化要素」は二律背反なトレードオフでもあり、他との違いを出すのは深い洞察と機能競争になる。

会社員なので、あまり政治的な話は避けたいが、フラットの進む先のアンカルチャー(文化が薄らぐこと)について、良い指摘だと思ったので引用してみる。

ペルーの小説家マリオ・バルガス=リョサが書いているように、「だれもこうまではっきり口にしようとする者はいないが、文化という概念が広がりすぎたあまりに消えてしまっている。種々雑多で捉えどころのない、幽霊のようなものになっているのだ」
 
リベラリズムは、連続する時間からの解放は人間の本性の基本的特徴であると強調する。
そしてゆえに人々をひとつにまとめる伝統的な制度や構造、慣習を、制約を受けない個性の実現への障害とみなす。
 
永遠の現在以外の時間への「獣とかわらぬ無関心」の罠にはまることになる。
リベラリズムはなぜ失敗したのか』パトリック・J・デニーン


アジア的ウェルビーイング

一方で、文脈を重んじたアジア的ウェルビーイングの考え方を持った良いものがある。

中国の人気vloggerは、バーでDJやってたギャルだったが、古式ゆかしい山生活の淡々とした姿は、丹念にブランディングされテクノロジーを駆使して配信されている。この伝統回帰する姿もウェルビーイングである。

また、同じ東アジアでは台湾でクリエイティブ産業を政府が支援する文化戦略として「文化創意(文創)」という考え方がある。

それを体現したものとしてよくあげられる台湾の人気店「誠品書店」は、古き良き文化基盤と新しいものを調和させ、本だけではなくライフスタイルに必要なものが揃っている。食、生活雑貨、体験、(台湾では映画館や劇場もある)を提供している。

日本ではコンマリが禅的なコーチング、セルフケアの文脈で人気になった。(ECサイト立ち上げでミニマリスト路線から外れたが)

先にあげたhimsを手がけた会社が作った、こんまり的お片づけグッズブランドは、禅のマインドフルネス的文脈。輸入しているのでブランドとしての文脈が薄い。(ビジネスとして成功はあり得るけど)

和(Wa)、場(Ba)、所(Topkoro)、間(Ma)といった言葉も使われる。


日本的なウェルビーイングの在り方

欧米成功モデルの「ウェルビーイング」を日本に適応しても、受け手への洞察(インサイト)が足りず、ブランドの立ち位置と、戦略、接点の設計、体験がすべてぶれてしまう可能性が高い。
日本人はそこまでグローバル基準の多様性を欲していないかもしれない。

前提条件として、ウェルビーイングを謳えるのは、経済的にある程度余裕のある国であることも大きい。経済成長の先細りを考えると、これからの日本で機能させる工夫は必要。

とはいえ、グローバルリサーチした海外事例を日本に適応する際、タイムマシン経営的な考え方で事業に活かすのは、良いやり方ではある。

まずはウェルビーイングを日本語で定義したいところ。

二番煎じにならず、社会にインパクトを与える革新と、ちょうど良い日本の文脈に沿わせるバランスのとれたコンセプトは、洞察を重ねればどこかにあるはず。

<まとめ>
・欧米やグローバルに展開しているものと、日本でのものは異なったコンセプト策定が必要
・世界で展開したいとき、ポリティカル・コレクトネスを意識してクリエイティブと機能面で研ぎ澄ます
・日本の持ち味を活かすと海外展開でも受け入れられる余地はあり。

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https://twitter.com/nakama_desu


<関連note>
東洋の養生文化についてのnoteはこちら


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