ガチ中華でバイトしたい [絶対ファミ中編]
イケてるガチ中華、通称(イケ中)の面接のために1時間かけて新宿までやってきた僕だったが、イケ中のあまりの本場感に圧倒されていた。
ビルのワンフロア丸ごと利用したスケール感と、行き交う客・店員共に中国人であることが期待と不安を増幅させ、さながら身ひとつで中国にやってきたようである。我がリスニング力も虚しく、店員間での会話で唯一聞き取れたのが「面试!(面接だって!)」だった。
高級感のある個室に通され責任者を待つよう言われたのだが10分経ってもそれらしき人物はやって来ないので、10人がけの円卓で大人しく中国語勉強を始めた。(語学学習者の鑑)
ふと気づけば45分経っていた。小学校の授業の一コマに相当する。
これは文化の違いで済ませられる待ち時間ではないと判断し、不安な面持ちで個室を抜け出して近くにいた店員に弱々しく「面试…」と呟いた。
彼はすぐさまインカムで責任者を呼んでくれたのだが、僕は嫌な予感を抑えることができなかった。
まず、45分間ほったらかされたのも普通にムカついたし、そうなってしまうほど忙しい現場というのなら嫌だし、何より店員が一人残らず装着しているインカムの存在に恐れ慄いた。
インカム、それは機敏さと確実性が求められるシビアな現場で使用されるアイテムだからだ。バイトをすれば就活時に一目置かれると囁かれる某ファストファッションの店舗でも店員はインカムで何やらコミュニケーションを取ってバタバタしているのを僕は幾度となく目撃してきた。
実際にそこでバイトをしていた友人は全員が聞いているとは知らず、インカムで社員の悪口を話してしまい大変なことになったそうだ。恐るべし、インカム。
すぐに責任者が部屋にやってきて面接が始まった。責任者は日本人で、金髪に鼻ピアスといったファンキーな風貌の彼女は遅れてしまったことを謝りつつ僕の履歴書に目を落としていた。話し方も少々ギャルっぽかった。
彼女はまず鼻ピアスあたりをポリポリとかき、「ウチはマジで厳しいょ?」と言い放った。聞けば、顧客に最高のサービスを提供するために業務がかなりシビアに取り決められていて、一挙一動にマニュアルが存在し(しかもそのマニュアルは全て中国語!)そのマニュアルも週ごとに変わっていくから先週のルールが今週では全く適用されないことなどザラなのだそう。
加えて責任者が各スタッフの動向を管理・監視し、仕事の出来具合やクレームの有無等により時給が変動する仕組みを導入していると彼女はいう。ディストピア小説等に登場する飲食店から制度を引っ張ってきたのかと問いたい衝動に引かれたが、笑顔だけは絶やさなかった。
また、店内は想像を絶する忙しさなので体力が人並み以上にないと厳しいらしく、ダブルワークに適さないが本当に大丈夫なのか?と聞いてくるではないか。
このイケ中ネキ、怖すぎる。
ここまで矢継ぎ早にネガティブキャンペーンを喰らった僕に、当初の「ここで働かせてください!」などという意志は笑顔と共に消え失せていた。
僕が千尋だったらすぐに諦めて大人しく豚になっていたと思う。
「それでもここで働けると思うなら、今度身分証明書とか持ってウチに来てくんね?」と、面试を締め括られ店を出た僕は、すぐさまファミ中(ファミレスみたいな中華)に電話をかけた。アルバイトの意志があり、平日の昼でも入れると話すと電話口の中国人店長は「やった〜🎶」と言っていた。彼女の反応を聞いた僕が心底ホッとしたのは言うまでもない。
ファミ中にはすでにラインを交換した男子が在籍しているし、老板(店長)も良い人そうだし、しかも家から徒歩圏内ときた。
湧き上がる中華熱を感じ、中国語学習により一層力が入るのだった。
次回、ガチ中華でバイトしたい [これが私のアナザースカイ編]へ続く。
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