私は本音を話せない。
(ブログの再掲)
<恋窓-koimado-へのご相談>
彼に本音を話せません。どうしたらいいのでしょうか?(30代女性)
心理学では自己開示self-disclosureという概念があります。端的に言えば,相手に自分のことを伝える行為です。「本音を話す」とは自己開示の一種かなと思いますので,この観点から今回のお悩みにお答えしてみたいと思います。
自己開示をしにくい理由は何か?
自己開示は我々の心身の健康にとって重要であると言われています。嫌な出来事に関して自己開示をすることで,気持ちがスッキリしたり,免疫機能が高まったりするそうです。
しかし,いついかなるときでも自己開示ができるかと言うとそうでもないと思います。自己開示をするのがためらわれたり,抑制されたりするときもあるかもしれません。これを自己開示抵抗感とか自己開示抑制と呼んでいます。
自己開示をしにくい理由,つまりどのような理由から抵抗感を感じるかについて,ある研究では5つのものがあるとされています。
1. 開示内容に関わる抵抗感:
人にあまり理解してもらえないから,恥ずかしいからなど
2. 時間・解決策に関する抵抗感:
解決しようがないから,時間がたたないと話せないからなど
3. 評価懸念:
話すと嫌われるかもしれないから,相手に失礼だからなど
4. 否定的感情表出に関わる抵抗感:
不安を人に出したくないからなど
5. 開示者特性に帰属されることへの抵抗感:
プライドが高いと思われるから,内向的な人だと思われるからなど
また,嫌な出来事の開示(ストレス開示)を抑制する理由も,5つあるとされています。
1. 弱みの隠蔽:弱みを見せないようにしている
2. 自己解消:相手に頼らなくても自分のストレスを解消できる
3. 相手への配慮:つらい話をしたら,相手の気持ちも沈むと思う
4. あきらめ:自分の悩みごとを言っても,何も変わらないと思う
5. 気晴らし希求:相手といるときは気分を晴らしたい
このように具体的な理由はいろいろありえますが,大きく分けると,対他的要因(他者との関係がかかわるもの)と対自的要因(開示者自身にかかわるもの)とに分けられるそうです。
ですので,本音を言えない理由が何なのか(対自的?対他的?)によってどのように対処したらいいのかというのも若干変わってくるかもしれません。今回のお悩みではそこまで具体的に書かれていませんでしたので,どのような理由で本音を言えなくなっているのかはわかりません(※)。何らかの理由で言えなくなっている,だけど彼に本音を言えるようになりたい,ということだと思いますので,どうしたら本音を言えるようになるのか,私なりに考えてみました。
(※)裏話
実は,相談者さんと少しだけやりとりをさせてもらい,相談者さん自身で本音を言えない理由に気づきました。ですので,私も「なぜ本音を言えないのか」その理由はわかっていますが,当初の悩みからはそれを読み取れませんでしたので,ここでは伏せておきます。あくまで理由はわからないことを前提とした上で,書き進めていきますが,以下で書く内容は相談者さんが抱える問題の解決も意識した内容になっています。
自己開示をしやすい状況をつくる
自己開示に抵抗を感じる,あるいは抑制してしまう理由は,対自的要因と対他的要因があると述べました。しかし,自己開示のしやすさ(しにくさ)は,他者との関係や自分自身だけの問題だけではありません。たとえば,彼氏との深刻な悩みを友人に相談しようと思ったとき,電車の中ではなかなか相談しづらいかと思いますが,家の中とか居酒屋の個室とかであれば相談しやすいかと思います。
このように,場所によっても自己開示をしやすかったり,しにくかったりします。というのも我々は,自己開示をするときに,この人ならこの話をしてもいいとか,この場所ならこの話をしてもいいとか,この人とこの場所でならこの話をしてもいいといったように,いろいろなことを加味しながら,自己開示の適切性を判断しているためです。言い換えると,状況を踏まえて自己開示をしているわけです。状況によって自己開示をしやすかったりしにくかったりするということは,逆から考えると,状況を自分でつくってしまえば,自己開示がしにくい状態を自己開示がしやすい状態に変えられるということでもあると思います。
おそらく相談者さんは彼氏さんには本音を話しづらいけれど,私には(たぶん)本音をお話ししてくれたように,本音を話しやすい人と話しにくい人がいるはずです。また,彼氏さんと二人だから話しにくいということもあるかもしれません。
ですので,友だちを紹介するとか,あるいは,彼氏さんの友だちを紹介してもらうとか,二人ではない環境で本音を話しやすい人も一緒に彼氏さんと話してみるといいかもしれません。そうしたら本音が言いやすくなるかもしれませんし,もしかしたら偶然にも,本音に関する質問を友だちがしてくれるかもしれません。たとえば,彼氏さんの友人が「相談者さん,彼氏さんに何か不満ないの?」みたいな感じで尋ねてくれれば,やんわりと本音を伝えられるかもしれません。
あるいは,もっと大胆に,信頼できる友人にお願いして,本音を伝える場をセッティングしてもらうというのも一つの手かもしれません。
大切な人に本音を言えないというのはなかなかつらいと思います。そして,そのように相手の様子をうかがって関係性を築いていくと,二人の関係性にとっても悪影響ですし,自分の気持ちにも悪影響です。ですので,本音を言い合えるような関係を目指して,本音を言えるような状況を自らつくってみるといいのかなと思います。
ちなみに,カップルの行く末を正確に予測できるのは「彼女の友人」と言われています。その点からみても,自分の友人を連れて彼氏と食事会を開くのは,今後の関係を占う上でなかなか良いのではないかと思います。
参考文献
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金政 祐司・相馬 敏彦・谷口 淳一(2010).史上最強よくわかる恋愛心理学 ナツメ社
片山 美由紀(1996).否定的内容の自己開示への抵抗感と自尊心の関連 心理学研究,67,351-358.
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