見出し画像

その4 ごく個人的な偶然に満ちた「哀れなるものたち」の読書メモとイングランド&スコットランド旅行記 (スカイ島、奔放なファムファタールは結局ディスられる)


その1はこちら
その2はこちら
その3はこちら

□「哀れなるものたち」を読み進みながら、ハイランドのスカイ島(Isle of Skye)を巡る。

私がこの本を買おうと思ったのは、この本を原作とした映画でエマ・ストーンがアカデミー賞の主演女優賞を取ったからだった。この文を読む人は、映画を見てこの文章を読むのだろうか。それとも原作を読んで、この文章を読むのだろうか。私はまだ映画を見てない。正直言ってみるのが怖い。

映像は、本の始まりから私が脳の中で描いてきた想像のベラやバクスターやマッキャンドルスを、固定する。
本の中では何度も何度もひっくり返されて、実像がぼやけてくるそれらのキャラクター。映像を一度見てしまえば、同じようにぼやかすことは出来ないだろう。一度フィルムに焼き付けられた映像は、私たちの脳のように結んだ像の輪郭をゆるゆるさせたりさできないだろう。言葉の世界の私たちの脳のほうがよほど無限で高性能なのだ。

だから私がこの映画を見るときは、この小説の読書体験の終わりでもある。ああ、見たいけど見たくない。

■それにしても、スカイ島の美しさときたらどうだ。
獰猛なようで、可愛らしいような。
Quirangという場所は絶景すぎて、呆然とする。一枚目。部分でごめん。もっともっと壮大なの、だから自分の目で見て欲しい。

Quirang
The old man of Storr
Portree
満月 in the Skye
夜9時すぎても明るい
The old man of Storr 遠景



□若かりし日のベラは成熟した女性の身体に、自分の性的な欲望を追求するあどけなさをもちあわせ、出会う男をみんな虜にするファム・ファタールとして描かれた。

彼女を作り出した父であり神であったゴドウィン(ゴッド)は、本の1/3辺り、ベラが大人になるにつれ独立心を持ち、自分の考えで行動しようとしはじめたあたりから、怪しくなってくる。

本来ならば、ベラの中から救い出した胎児を赤ん坊のままで生かしてやればよかったのに、大人の身体に赤ん坊の脳を移植してしまった!と自分の医者としての腕を悔やみながら


「それなのに忌まわしい性的欲望からわたしは自分の医学技術を利用して、彼女の道を誤らせ、ウェダバーンの餌食にしてしまった。くそ、ダンカン・ウェダバーンめ!」

と、ベラが駆け落ちした相手に 逆恨み。
こわ…こわー。ゴッド。

思い通りになる女(の子)を自分の手で作り、
思い通りに育てる。
性的な対象としてはっきり認識した上で。


◻︎自由で奔放で、自分の欲求をのびのびと明かし、あちこちで男たちを夢中にしたファムファタールのベラ。

売春婦や女性たち、貧しい人たちを助け、最新の避妊法を教える医師になりたい、そして自分で独立を手に入れようと闘った、プログレッシブで強い女性であるベラ。

しかしストーリーの後半、医師になり、大人の女性として、意思をもち連れて、貧困女性の支援や、堕胎賛成、産児制限、などを提唱し、世間からメディアからちょっと頭のおかしいおばさん扱い、バッド・フェミニストとして激しくディスられる。

アラスターグレイがこの本を書いたのは30年も前なのだから、2024年地点から私がいきなり作者に文句言うのもいかがなものかと思いつつ、アラスター・グレイにわたしは言いたい。

分かってて書いただろう、お前。
どっちもしっかり書けてたもんな。

実験対象から、愛玩対象から、理想のスコットランド娘から、淑女から、聖女から、性的な対象から、冒険のバディから、独立した女性から、disりまくれるクソフェミ役から、おいこらてめえベラに全部おっかぶせやがって。

美しいスカイ島の景色を眺めながら、読者を混乱に叩き込む、アラスター・グレイのやりたい放題感にまじでイライラした。これぞ作者の思うツボ。

ムカつく。マジで。ファムファタールは、男たちが興味がうせると、殺されるか、憎まれるかの運命をたどることが多い。男の都合で。

◾️スカイ島では、Brakenhide hotel という山の斜面に立つコテージの連なるホテルに泊まる。あんまりよく調べず予約したらとんでもない斜面にコテージが立ってて、毎回駐車場からコテージまでちょっとした山登り。膝が痛いオットに悪いことした。

でもホテルのメイン棟は素敵なレストランとウィスキーバーもあり、ウィスキーフライトというテイスティングを楽しんだ。真ん中には口の中をリフレッシュする炭酸水。

飲んじゃったあと。ごめん
Whiskey bar

だいたい、旅の中で一回か二回は、ハッとするほど美味しいものに出会う。

スコットランドの名物料理Haggisやblack puddingがパッとしなかったため、それからはひたすらムール貝や生牡蠣をたべまくる。そして、今回のスコットランド旅のベストはこれ。Loch Ryan というところでとれるカキ。

カラが丸っこく、貝柱が大きくて味わい深い。めちゃうまい!毎日ダース食べしたいほど。


3種の食べ比べで出ててきた。
左右の丸っこいやつがLoch Ryan
どこかでまた食べられる日はあるのか

風景の美しさ、スコッチウィスキーと生牡蠣のおいしさに震えつつ、「哀れなるものたち」を読み進み、男たちの身勝手極まりないベラへの対応に怒りながら、スカイ島の満月の夜はふける。

誰にも頼まれてないのに連載も四回目。

次回最終回。その5です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?