見出し画像

その3ごく個人的な偶然に満ちた「哀れなるものたち」の読書メモとイングランド&スコットランド旅行記 (ハイランドへ 島国の民は大陸を見る)

その1はこちら
その2はこちら

■旅は4日目。エジンバラで車を借りて、ここからはドライブ旅のはじまり。セントアンドリュースに住む友達に会いに行き、そこからさらにハイランドに向かって北上していく。

□「哀れなるものたち」のベラ・バクスターは、若く健康な女性の身体に、赤ん坊の脳をすげかえられて生まれた人造人間。子供の純粋さと大人の女性の身体を持ち合わせ、自分の欲求を素直にさらけ出す危なっかしい存在として描かれている。世界を、人間を、喜びを知るためにベラは世界を旅する。最初はゴドウィンに引率されて、2回目は自分の意思で。世界を見に旅に出て、人と出会い、世間を学んでスコットランドに戻って来る。戻って来たベラは自立を望み、医師になって売春婦や若い女性を助けたいとという夢を持つ大人の女性になっている。


アラスターグレイは画家でもあり、
ゴスおしゃれな挿絵は彼によるもの

■私はベラの目を借りるように、初めてのスコットランドを見る。

スコットランドは、エジンバラやグラスゴーなどの大都市のある南部のローランドと、北部に広がるハイランドに分かれていることを今回の旅で知った。ローランドはイングランドとの接していることもあり政治、経済、産業の機能などが集まる都会。そして、ハイランドは野蛮で、スコットランド独立を求め、大英帝国にも反逆した荒くれ者たちの大地・・・とざっくりと解説。(多分にハリウッドの作ったスコットランド人イメージに毒されてる自覚あり)

■本格的なハイランドエリアの前に、エジンバラから車で1時間ほどの離れたセントアンドリュースのCambo gardenで、ボタニストとして働いている友達に会いにいく。ガーデンの中の素敵なカフェでランチ。たくさんの花が咲いていて土のいいにおいがする。久しぶりの再開。ほとんど地球の裏側のこの場所までやって来て、ほんとに彼女が働いてた。嘘みたい、とお互い言い合った。
 

クリスマスローズ
ムスカリ
また行きたい

Pitlochry ピトロクリーという童話に出てきそうな可愛い古い家の立ち並ぶ小さな町の、紳士的なおじさまがオーナーをやっているB&B Craigroyston Houseに一泊する。

フライフィッシングを楽しむ人達が点々と見える清流沿いを散歩する。これぞ英国紳士のカントリーライフのあるべき姿・・・

田園ライフ



■夕方、B&Bでのんびりしていたら、夫が「あれっバッグが無い!」と騒ぎだした。トランクと別の手荷物用の黒いカバン。しばらく車を探して戻ってきたがやっぱりないという。あちこちに電話をして、ディナーのあいだ中、イライラしっぱなしの夫。パスポートはジャケットに入れてたのが不幸中の幸い。
ディナーのあと「私も一応探してみるよ…」と車のハッチバックを開けると、トランクの横壁にピッタリ張り付いて、黒いカバンがそこにある。メガネメガネか。魔法か。

■5日目。ピトロホリーをチェックアウトして、すぐそばのBlair castle ブレア城に。お城は12代目まで続く地元の貴族のお城で、とんでもない量の猟銃や斧、鹿の角、贅沢極まりない調度品、など見応え充分。

ここが自宅という人生
こんなベッドで夜中に目が覚めて
ラーメンたべたくなったらどうしよう
金に糸目はつけない 。
言ってみたいセリフNo1

現在の城主で12代目。歴代当主の展示パネルがあった。10代目まではスコットランド貴族!という感じの肖像画なのに直近の二人の後継者がめちゃ面白かった。


スコットランドの伝統を大切にする10代目。

10代目まではよかった。ガチハイランダー貴族


11代目になると、急に現代アート。俺流。

11代目 急に興味失せた

12代目に至ってはピンボケのスナップ写真w 
伝統?あ、もういいっすわ、と声が聞こえそうw  11代目も12代目も、南アフリカ住まい。そっちはそっちですごそう。そっちの家にも遊びに行っていい?

12代目 写真送っときます

■このお城の中の展示でもう一つおもしろかったのはこのお城に住んでいた「ダッチェス・キティ」の展示。キティは1874年に生まれ、このブレア城の城主に嫁いだ貴族の女性。キティはこのお城のガーデンパーティにお母さんとともに招待されてやってきたけど「つまんねー」と持参した自転車を庭で乗り回したり本読んだりしてたところ、城主が「なにあの子!」と惚れた。いい話。

「ガーデンパーティとかダサ〜」のキティ姉(左)
そのパーティの主催者(右)


そんなキティはアクティビスト。いち早くヒトラーの著書を読んで、あいつは危ない!!と警告を発したり、女子割礼の文化を廃止するように訴えたり。死ぬまで政治的な発信を続けたという。キティかっこいい!
どんな時代にもかっこいいパイセン女子がいる。
ちょっとベラ・バクスターみたいだと思った。

姫様たちのジュエリー素敵
姫様たちのジュエリー買えますか


■ブレア城からどんどん北上し、アイル・オブ・スカイ(スカイ島)へと向かう。
だんだんと景色が荒涼とした感じになってきた・・・・
今にも馬に乗った長髪のケルトの民がでてきそう・・・そしてケルト音楽(aka 無印良品の音楽を思い出してください)が聞こえてきそう・・・



スコットランド人って、なんでそんなに荒くれイメージなんだろう、と色々気になった。歴史的に彼らはピクト人とゲール人の融合から生まれ、南を接していたブリトン人を組み込むだけでなく、アングロ・サクソン人ノース人のような侵入してきたゲルマン系の諸族も取り込んでいったそうだ。攻めたり、攻め込まれたりの歴史を繰り返し、スコットランド人は複雑でさまざまなDNAをもつ人々となった。

確かに、ハイランドの最大の都市インヴァネスからは、ロンドンとあまり変わらない距離で、海の向こうにノルウエーやデンマークなどがある。バイキングがどかすか攻めてきて戦ったり、結局居ついたりしたのだった。


エジンバラやグラスゴーなどスコットランド南部ローランドの都会人がイギリスとの勢力争いや合従連衡でわちゃわちゃやってたときも、ハイランドの民は、海の向こうの大陸を見ていた。敵は陸からだけじゃない、冷たい海の乗り超えたところからもやってくる…!
そして作物の育たなそうな荒地と長い冬…
エジンバラやロンドンの弱っちいやつらなんか知るかよ。おれら北の闘いは過酷なんだよ。ワイルドじゃないと生きていけないわけ!!わかる!?
とハイランダーの気持ちになって崖に立つわたし(知らんけど)。

そりゃースコッチウィスキーの醸造がんばるわな…

作物は育たなそうだけど、羊たちはいっぱいいる。

子羊達が生まれる春。
もうラムは食べられない
なんていい巻き
すみません、すぐ出ます

◻︎ベラも海を渡って、世界を見てきて、大人になって帰ってきた。海の向こうの大陸は未知の世界。

■ハイランダーたちも、海に出たり、海の向こうの敵を迎え撃ったり。

わたしも地球半周してこんなところまできて、ハイランダーになったり、ベラになったり、自分になったり、忙しい。

見たことのない景色ばかり。世界はまだまだ広い。
その4へつづく




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?