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呼び捨て

我が家で、私は、「コジ」と、呼ばれている。

もっと正確にいうと、家内は、「コジくん」。子供たちは、「コジ」である。

どうしてこうなったかというと、いちばん最初のきっかけは、長女である。赤ちゃんの、まだ喋れない時から、私のことを、どういうわけか、

コッジ、コッジ

と、呼んでいたのである。

一方、かなり早いタイミングから、家内のことは、

ママ

と、呼んでいた。

本当に、「コッジ」とか「コジ」と、呼んでいたわけは、ないのだろうが、そう、大人たちには、聞こえたのである。

それがきっかけで、私の、我が家での呼び名は、「コジ」に、なった。

長男は、最初、私のことを、「おとうさん」と、呼んでいた。だから、長男にとっては、私のことを「コジ」と呼ぶのは、最初の頃は、抵抗があったはずだ。だが、長女がそのまんま「コジ」と呼び続けて大きくなっていくので、自然に、長男も、「コジ」と、呼ぶようになったのである。

長男も、長女も、私のことを呼び捨てにするので、次女は、否応なしに、私のことを「コジ」と呼ぶようになった。

若い頃、社宅に住んでいた。長男の友達、長女の友達、次女の友達。子供たちは、みんな、私のことを、「コジくん」と呼ぶようになった。そして、そのお父さん、特にお母さんも、つられて、私のことを「コジくん」と呼んでいた。

この日本の社会において、家族や近隣の人々に、名前で呼ばれる大人が、どれくらい、いるだろうか。

そう思うと、なんとも不思議な話である。

考えてみれば、世の中に、「お父さん」や「お母さん」、あるいは、「パパ」や「ママ」は、たくさんいる。だが、そう呼ばれているが、みんな、違う人だ。それとは違いがある呼称で、いいところ、「○○ちゃんママ」「○○ちゃんパパ」くらいだろうか。

そう思えば、私は、固有名詞を呼ばれているわけだから、なんの根拠も無いが、ちょっと、誇らしい気がしてきた。

だが、いつだったか、小学生の高学年くらいのときに、次女が言った。

お父さんに、コジなんて呼び捨ては、おかしい。キモい。

私は、真意を図りかねた。

すると、家内が、私の耳元で囁いた。

あの子は、おとうさんとか、パパって、本当は、呼びたいのよ。

わたしは、なるほど、と、思った。

今、私は、家族に、呼び捨てにされている。呼び捨てという文字面は、一見、良くないようにも思えるが、私は、この呼び捨てが、実は、気に入っている。

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