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ゼムクリ

ある夜、家内が、いきなりミッションを発動してきたのである。

折り畳み式携帯ハサミが開かないという


私の目の前には、いつもの、マイクロテープが置かれている。

お疲れ様。コジくん。


今回のミッションは、女王陛下(注1)の携帯用のハサミを修復することである。どうも、開かなくなったらしい。原因をつきとめ、修復して女王陛下にお返しすること。

分かっているとは思うが、途中で挫折したり、ハサミを意図的に廃棄したりして証拠隠滅を図るような、エージェントにあるまじき行為だけは、決してしないように。

例によって、君、もしくは君のメンバーが捕えられ、あるいは殺されても、当局は一切関知しないからそのつもりで。


プシュ〜。


マイクロテープは。消え失せた。


少しのあいだ、ハサミを確認したが、どうも、何かが挟まっている。えいやっ !と、少し強引にハサミの先を引っ張ると、こんなものが出てきた。

ゼムクリップだ。

なんだ、ゼムクリが引っかかってたか


私は、瞬時にミッションをコンプリートし、ハサミを家内に渡しながら、こう言った。

ゼムクリが、挟まっていたよ。


すると、リビングに、たまたまいた長男が鋭く反応した。

ゼムクリ!

なんじゃ、そりゃ!


私は丁寧に、ゼムクリップのことだと解説したが、長男が半ば失笑しながらこう続けるのである。

コジ、いやいや、そうじゃないんだよ。

ゼムクリップを省略して、ゼムクリと言っていいのは、Z世代だけだ。

コジのような人が、そういう物言いをしてはいけない。


歳もあるけど、ジジイのコジが、言っちゃいけない。違和感がありすぎる。



ゼット世代とは、10代から20代の前半くらいの世代で。デジタルネイティブ、スマホネイティブ、SNSネイティブという、生まれたときからそれらを自然に使いこなしている世代のことらしい。

コスパという言葉をご存知だろうか。コストパフォーマンスのことは、いろんな人が、だいたい、知っているだろう。

だが、このゼット世代は、タムパなんだという。タイムパフォーマンス、つまり、それに費やした時間に見合った満足が得られるかどうかが、重要だと考えるらしい。



心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

聞くからに、コジとは別物だな。ゼット世代は。


長男は20代後半。長女は20代中盤。次女が20代前半。辛うじて、次女が、世代としては、ゼット世代だ。

だが、長男や長女に言わせると、もう、次女も、ゼット世代ではないという。


省略して、タムパを追い求めるとは、私のような、デジタル化されていない人間には、そぐわないらしい。


ソファーの方を振り返ろうとしたら、わざわざ長男が来て。こう、釘を刺した。


コジ、悪いことは言わない。コジのために言っておく。ゼムクリは、やめよう。


マッサージをする前に、出足を挫かれた感が満載なのだが、家内がそれに追い打ちをかけてきた。


コジくん、悪いことは言わない。若者から見て違和感があることは、やめたほうがいい。恥ずかしいから。


……。


心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

ゼット世代なんか〜っ!


それとは裏腹に、私は、おとなしく、「はい」と返事をした。


マッサージをすると、家内は、上機嫌になる。

家内が上機嫌だと、我が家は、明るくて平和である。


だから。


これで、いいのだ。


(注1)女王陛下とは、家内のことである。私に、ときどき、ミッションを与える、指揮命令系統の最上位者なので、ときに、家内のことを、そう呼ぶ。


■追記■
面ゆるって、なに?
それは、これ。西尾さんはじめ、みんな、面白い作品をあげていて。
私は、そこそこの過去記事をあげています。
もしも、お時間があれば、みんなの作品、読んで頂けたら幸いです。

■追記②■
また、スタエフで配信します。もしも御時間があれば、お付き合いください。アーカイブも、後日、貼り付けます。

西尾さん主催で。みんな、面白い方々です
ライブも、アーカイブも、ながらラジオでお聞きください


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