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蛇口

少し前のことである。

次女が、内定選手としてある実業団チームに合流することになり。職場や練習場、遠征先まで車通勤になるので、次女用の自家用車を契約することになった。このご時世、納期がかかるということで、昨年の秋から注文し、ようやく納車となったのが、2月の末のことだ。

次女は、1月の末、まだ、卒論の要旨を提出する前にチームに合流したのだが、ギリギリ自動教習所での卒検。免許センターでの試験に合格し、ほとんど運転の練習もできずに、家を出た。

それが、そろそろ車を持ってきて、自分で運転して移動していくようにとの要請もあり、納車と同時に、次女の住む街に、車を持っていくことに、急遽、なったのである。

金曜日の夕方、少しの間、3日間だけ休みを取った家内と二人で車で出て。深夜に現地に到着。次女の、新たな住まいに転がり込んだ。


次女の同期が次女を含めて3名いて。当初、一つの部屋に、便宜上同居していたのだが、さすがに狭いということで、3人バラバラの部屋に越すことになったのである。

その金曜日に、電気と水道は開通する。ガスは、また後日ということで、私たちふたりはホテルをとってはいたものの、部屋の状況も確かめないといけないということで、わざわざ、次女の、まだ一度も入ったことがないという部屋に、家内と泊まることにしたのだ。

もちろん、今回の旅は、次女に車を届けるということである。

とりあえず、現地に到着は、した。

次女の現在の住まいにたどりつき、鍵を受け取った。そして、何かの礼のつもりだろう。イチゴも、ついてきた。

受け取ると、甘い香りがした

次女に聞くと、住所はわからない。アパートの名前は知っているという。


家内は、それを聞いてズッコケていたが、心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

Google Mapで、調べたら?


すると、難なく出てきた。そしてすぐに車に乗り、現地を目指した。次女の今の住まいからは、3kmも離れていない。


そして現地に着くと。街灯が極端に少なく、似たようなアパートが建ち並び、どれが目指すアパートかが、皆目わからない。

それでも、目を凝らして、探し回り。ひとつひとつ、マンション名をしらみつぶしに確認していくこと、約1時間。最後に、マンション名が書いていないアパートを割り出した。

そして、部屋番号を、これも、ほぼ書いていないので、番号から類推し、ここだろうという部屋を、ようやくにして割り出した。

もう、深夜だ。部屋を間違えたら、とんでもないことになる。恐る恐る、鍵穴に鍵を入れた。


カチッ。


なんとか、鍵が開いた。スイッチを入れると、電気はついた。エアコンも、リモコンからスイッチを入れると、温風が出てきた。

ひとまずホッとして、車に戻り、家内に報告。手持ちの最低限の荷物を持ち、なんとかねぐらを確保し、部屋の真ん中にどっかと荷物を置いた。

よく見ると、カーテンが掛かっていない。


心の中の、リトルkojuroが、ボソリと、つぶやいた。

こりゃ、丸見えだ。



家内と、まあ、寝るときは電気を消すのだから、今夜はこれで我慢しようと話し合い、寝袋を広げた。

手を洗い、歯を磨こうと蛇口をひねると……。


なんと、水が出ない。


家内が、ちょっと怒り気味に次女へ、チャットを入れると、こんな呑気なコメントが返ってきた。

まるで他人事だ


もう、ジタバタしても仕方がないので、寝る前に食料調達とトイレに行こうということになり。一番近くのコンビニまで、1km往復した。


這々ほうほうていでねぐらに帰り、家内の目を見つめると、こう、返ってきた。


コジくん。今日は、マッサージは良いから。明日は、朝から、調達と荷物運びに精を出してね。


本当は、マッサージをすると、家内は上機嫌になる。

家内が上機嫌になると、我が家は、平和で、明るくなる。


電灯を消すと、家内は、すぐに寝息を立て始めた。平和な夜が、やってきたのだ。



だから。



これで、良いのだ。



■追記■
面ゆるって、なに?
それは、これ。西尾さんはじめ、みんな、面白い作品をあげていて。
私は、だいたい土曜日の夜に、そこそこの過去記事をあげています。
もしも、お時間があれば、みんなの作品、読んで頂けたら幸いです。


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