見出し画像

動かないタコ【ショートショートnote杯⑪】

江梨子は、竹細工職人を目指していた。会社を辞め、母方の田舎に越してきて、ぼんやりと日々を過ごすうちに、近所の職人さんから声をかけてもらったのだ。もう、3年になる。

師匠の名は、望という。情が深くて、もの柔らかで、人としての芯をきちんと持っている。江梨子は、師匠のことを心から慕っている。

江梨子は、器用で。そして、何より根気強かった。その腕はメキメキと上達していった。だが、お客様のオーダーを任されたことは、今までに、まだ、無かった。

ある日、望が手を怪我してしまい、納期がピンチになった。

「江梨子、この凧、仕上げをやってみて。」

江梨子は、突然の師匠の提案に従い、仕上げ、完成品をお客様に手渡すと、その家の子供がすぐに凧揚げに公園に走り出た。


ほんのしばらくして、その子供が大騒ぎで駆け戻ってきた。

外に出ると凧が、高い空中で完全に静止している。


その後。望と江梨子は、世界唯一の超高層静止凧職人となり、世界中に名を轟かせたという。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?