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承諾書

次女は、大学でもスポーツを続けている。蔓延るウィルスの影響で、緊急事態宣言が出る少し前から、試合はもちろん練習も休止となり、自宅待機となった。

次女は小学校1年生からチームに属していて、中学、高校と青春時代をほぼスポーツ一色で過ごしてきた。今までの人生において、オフと言われる期間は、実質、ほとんど無かったように思う。

次女の今までの夢は、暇で暇で仕方の無い生活を送ることであった。ところがそれが、期せずして突然訪れたのである。

春の遠征、合宿、天皇皇后杯、春期リーグ、インカレも、ことごとく中止となった。

次女は、オフとなった暫くの間は、ノビノビと笑顔で、夢の「暇」を満喫していた。だが、2週間もしないうちにだんだんと飽きてきて、特に、仲間と会えないことに苛立ちを抱えるようになってきているようだった。

練習でも何でも良いから、外に出たい。友達に会いたい。

それが、彼女の新しい夢になった。

5月からは、ネットでつないでの全体トレーニングが始まった。6月の中旬、キャプテンから練習再開の打診があり、先週、保護者宛ということで監督から私に一通の手紙が届いた。

封を開けると、練習参加の承諾書が添えられていた。

練習前に複数のスタッフが体温計測、ヒアリングを施し体調チェックを万全にして参加可否を決める。チーム全体で即座に結果を共有する。練習中、マスク着用、手洗い、うがい、消毒、換気を徹底し、人数を減らして分散練習をする。つまり、ウィルス対策は考え得る限りのことを対策して練習を再開する。当面、参加を強制せず任意練習とする。そういう内容だった。

私と家内は、もちろんの事ながら、承諾し押印して即座に返送した。

7月1日。今日から練習が再開される。待ちに待った練習再開だ。ここから、ようやくにして20年度が始まるのだ。

昨晩、バイトから帰宅して晩御飯を食べている次女に声をかけた。

練習再開、おめでとう。嬉しいだろう?

……

次女は、うつむきながら黙って首を横に2、3回、振った。

え?あれだけ仲間に会いたいって言ってたじゃないか。練習している方がマシだって、言ったじゃないか。

次女は、いつの間にか練習再開ブルーに陥っていた。

それでも、今朝、早朝のバイトから帰宅して朝食をとり、オンライン講義用パソコンを抱えて、数ヶ月ぶりの大学に出掛けて行った。

当面、練習は、週に3回ある。秋季リーグは、流行の無観客で行われるらしい。


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