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個人事業主として生きる

社会人になって2年目に入った頃だった。
今から、20年も前のことだ。

「個人事業主として生きる」ことを教えてくれた人がいた。


当時私は、新卒で入った人材派遣会社の営業として働いていた。
就職活動をしていた学生の私には、「人材派遣」という働き方はまだ新しく、可能性に満ちて見えていた。

―― 多くの人が生き生きと働くことをサポートしたい

そんな希望に満ちて入った会社だった。
でも、入社2年目の頃には業界の様子がわかってきた。

日本では、正社員はとても優遇されている。すぐに退職させることもできないので、基本的に一度雇ったら何年も何十年も働くことが前提となる制度設計となっていた。

派遣社員は、特定職種について期間限定で雇う/働くことのできる形態だ。学生だったころの私には、個人にとってよい働き方だと見えていた。でも、実際は、企業にとって都合のよい契約形態だった。

私が担当していた企業は、大手企業の子会社。働く人は、多くの人が各派遣会社から派遣されたスタッフたちだ。正社員は、派遣スタッフの上司として働く一部の人のみしかいない。その派遣スタッフはみな、3カ月ごとの短いスパンで契約を行い、最長3年同じ仕事に従事する。会社からも評価されているスタッフが裏技を使って、3年以上同じ仕事に従事することもあるが、派遣スタッフのままであり正社員にはなれない。

※2003年当時の状況であり、今の派遣業界はまた状況は変わっていると思います。

男性スタッフTさんも、そんな職場で働くベテランの派遣社員だった。多くの残業をこなし、仕事ぶりもよく派遣先からも高く評価されている。派遣スタッフの仕事だけではなく夜間の別のアルバイトも掛け持ちしているという。

忙しそうに働く彼から話を聞いて、まだ社会人なりたての私にはどうしてそんなに頑張るのか、全くわからなかった。お金が必要なのだろうか?それとも働くのが好き?

その月も、規定の残業時間ギリギリまで多くの残業をしたようだった彼に、「どうしてそんなに働くのか」という不躾な質問を私はした。

「僕は個人事業主だと思って、働いているんです」

Tさんは、そう少し胸をはったように思った。

残業は会社から命じられてやるもの。実際仕事があるから残業ができる訳で、そういう面もあったはずだ。でも、Tさんは残業を自分の意志で選択していた。その独立した心持は、ただ言われたことを一生懸命こなしながらも自分の仕事に疑問を持ち始めていた私にぐっさり刺さった。

その後、私は新卒で務めた派遣会社を3年で退職。専門学校でWEB制作の勉強をした後、WEB制作会社に就職。子供が3歳になったタイミングでWEB制作会社を退職し、フリーランスになった。

文字通り「個人事業主」になったわけだ。
個人事業主になりたくて走ってきた訳ではない。でも、心のどこかにいつもTさんの「個人事業主として生きる」という心持はあった。

――働く心持ちは自分で決められる

20年経った今も、自分を鼓舞してくれる。そんな言葉。




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