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2020年6月の記事一覧

いつかの、(病熱)

いつかの、(病熱)

五章
 この国では、死者はどこへ行くのだろう。閉ざされたこの国で。賽の河原へも、天国へも、わたしたちはきっと、どこへも行けない。
あの日から三週間、北国の遅い花盛り。街は桜祭りで賑わっている。わたしは自転車を修理に出した。それなりに出費はあったものの、虐待されたみたいな前輪は美しい真円を描き、わたしの元へ戻ってきた。やっぱりあのホイール、処分されたんだ。わたしの自転車にはもう、打撲痕は残っていなか

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