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小説シリーズ

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2020年5月の記事一覧

いつかの、(邂逅)

いつかの、(邂逅)

 毎朝五時に目が覚める。それまでは大抵、何かに追いかけられる夢を見ている。おとといは雪山だった。幼なじみと三人で中腹に穴を掘ってビバークしていると、下の方から大きな音が聞こえた。悲鳴に混じって唸り声が響く。わたしはこれが夢だと分かっているので、そこでぱちりと目を開ける。時計の針は五時を指している。

 低血圧のせいなのか、いつも頭が重い。口呼吸気味のため起き抜けは喉がカラカラで、珪藻土に水を掛ける

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いつかの、(春に)

いつかの、(春に)

四章
 春の泊。桜はまだつぼんだまま、人々の期待をシャワーみたいに浴びせられている。海良さんは三年生になり、わたしは変わらず同じ教室へ登校する。新入生たちとは付かず離れずの距離を保ちつつ、昼休みは屋上へと向かう。海良さんは大抵、アルカイック・スマイルを浮かべながらわたしを待っている。海良さんは四月一日生まれだったらしく、一日早く生まれただけで(そしてわたしの留年のせいで)二つも学年が違うのは不思議

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