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小説シリーズ

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2020年4月の記事一覧

いつかの、(幻肢)

いつかの、(幻肢)



 わたしは寒気を覚えた。わたしはきっと、この世界と完全に断絶することなどできない。外の世界と繋がっていなければ、わたしは呼吸を続けることすらできないのだ。わたしが食らった食物も水もぜんぶぜんぶ、わたしの外側からやってきたものだった。たとえアメリカの一戸建てにあるようなシェルターに閉じ籠もったとしても、[現時点で][生きるために]外部との接触(たとえそれが人とのつながりを排除したものだとしても

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いつかの、(春待ち)

いつかの、(春待ち)

三章

 気が付くと二月になっていた。ベージュのコートはわたしを日々包んでくれたけれど、誰もわたしを抱きしめてはくれなかった。寒い。オイルヒーターのある壁際へ席が替わってもなお、わたしの寒さはわたしのもののままだった。

 自転車は修理に出す踏ん切りが付かず、アパートの駐輪場で眠っている。へにゃへにゃの前輪はなんだか愛らしく見えるけれど、それはわたしの加虐趣味のせいかもしれない。バスの定期を買う気

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