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ブルース・スプリングスティーン「ボーン・イン・ザ・USA」:売れたアルバム検証シリーズ⑤

過去シリーズ記事はこちら。→ マドンナヒューイ・ルイス&ザ・ニュースフットルースティアーズ・フォー・フィアーズ

大スターによる大ヒット・アルバム

1984年の時点でブルース・スプリングスティーンは既にアメリカン・ロックを代表する存在でした。75年のサード「明日なき暴走」で時代の寵児となり、その後はマネジャー絡みでの裁判で新作が出せず、ようやく78年になって登場した「闇に吠える街」はセンセーショナルと言えるほどの注目を集め、80年の2枚組「ザ・リヴァー」は一旦「タイズ・ザット・バインド」として制作されるも作り直された苦心作でした。さらに82年の「ネブラスカ」はEストリート・バンドと制作しようとしたものの、結局4トラックのデモがそのままアルバム(「エレクトリック・ネブラスカ」が存在するらしい)となるなど、名声は高まるものの、スムーズにアルバムが出ることはまずない人。そんなブルースが一部「ネブラスカ」のデモ曲も入れながら比較的スムーズに作り上げた(とはいえ、「ネブラスカ」の経緯から録音には結局2年以上かかっている)アルバムが「ボーン・イン・ザ・USA」。
…というのは全て後追いで知った情報で、私のリアルタイム・アルバムはこれ。よって、当時は「何やら大物がアルバムを出したらしい」くらいにしか思わず。ところがこのアルバムからヒット・シングルが出るわ出るわで、12曲中7曲がシングルカット、アルバムは当たり前のように全米1位を獲得し、その人気がイギリスにも飛び火して過去のアルバムもチャートインするという状況に。
ここで当時のヒット状況をまとめておきましょう。

アルバム:米・英1位、年間チャートは米28位(84年)・1位(85年)16位(86年)、英37位(84年)・4位(85年)
シングル:
Dancing in the Dark(米2位・英4位)
Cover Me(米7位・英16位)
Born in the USA(米9位・英5位)
I'm on Fire (米6位・英5位)
Glory Days(米5位・英17位)
I'm Goin' Down(米9位)
My Hometown(米6位・英9位)

このようにアルバムはもちろんのこと、シングルは全て米チャートでトップ10入り、英でも非常に売れていたことがわかるモンスターアルバムでした。

Born in the U.S.A.

アルバムのタイトル・トラックでThe Riverのツアーの頃に書かれた曲。ファンファーレのようなリフが印象的ですが、この曲の凄さはといえば、実はこの曲、メロディーのフレーズが2つしかないこと。つまりブルースの歌い回しだけで変化をつけているということで、なかなかこんな曲は他にないかと。名曲というより傑作といって良いでしょう。

Cover Me

アルバムからのセカンド・シングルですが、割と地味なイメージがあるかも。個人的には大好きな曲で、少し翳りのあるメロディフレーズが印象的。なんと元々はドナ・サマーに提供される予定だったそうで、プロデューサーのジョン・ランドゥがそれを止めたらしい。曖昧な記憶ですが、当時MVが作られてなかったのかなと。YouTubeでもMVは見当たらず。

Darlington County

いかにもアメリカン・ロック的なややレイドバックしたロック・ナンバー。サビはみんなで合唱できそう。シングルカットされなかった5曲のうちの一つ。元々は「闇に吠える街」の頃に書かれた曲だそう。

Working on the Highway

前曲に続き、シングルカットされなかった曲ですが、working, highwayとブルースらしいテーマが盛り込まれたイメージ。曲調はシンプルなロカビリーで、ストレイ・キャッツあたりがやっても違和感はない曲。

Downbound Train

これもノンシングル。歌い回しがThe Riverあたりを彷彿させる佳曲。少しメランコリーな雰囲気があるところもThe Riverっぽい。キース・リチャーズっぽいとの指摘があるように。確かにリフはJumpin' Jack Flashに似ているところも。個人的には好きな曲の一つ。

I'm on Fire

アルバムを代表するバラッド2曲のうちの1つ。彼には珍しい演奏シーンがないMVも話題に。本アルバムの中で最初に録音された曲だそう。

No Surrender

ファンの間では人気が高く、当時「なんでシングル・カットされないんだ?」という声があったほどの隠れた名曲。ブルースのパブリック・イメージ通りの爽快なロック・ナンバー。2000年代後半以降、カバーも多い人気曲。

Bobby Jean

シングルカットされなかった曲ですが、これもいかにもブルースらしい曲。というかこのアルバムそのものがブルースっぽさ満載なわけで、それはこういうノンシングル曲ですらそれが濃厚なところがこのアルバムの人気につながっているのかも。アルバム最後の録音曲のうちの一つだそう。 

I'm Goin' Down

「まだシングル・カットするの?それもこの曲を?」と当時思った曲。6枚目のシングルで、これもトップ10入り。当時のブルースは面倒だったのか興味がなかったのか、ツアーで忙しかったのかこの曲もMVなし。Nevraskaのときにデモが作られ、その後バンドでも録音された初期ヴァージョンがネットで聴けます(完成版と大きくは変わらない)。シンプルなロック・ナンバーでサビもシンプルで覚えやすい。

Glory Days

こちらは逆にMVが作られたシングル。ブルースが野球でピッチャーをする場面があるわけですが、そのあまりにギクシャクしたフォームから「ブルースって野球できないんじゃね?」疑惑が起こったのも懐かしい曲。ミドル・テンポのロック・ナンバーで、この曲を聴くとブライアン・アダムスのSummer of '69と並んで85年の夏を思い出します。

Dancing in the Dark

アルバムからのリード・シングル。80年代ポップスファンには大人気でブルース・ファンにはあまり評判が良くないという不思議な曲(笑)。思うにポップ過ぎたのか。またアップテンポの割に盛り上がりそうでサビがスーっと流れてしまうあたりもコアなファンにはあまり評判がよくない理由かも。ブルースもその辺りを自覚しているのか、3枚組ライヴ盤「Live 1975-1985」にも収録されず。そういえばMVも当時あまり評判が良くなくて、ファンと踊るシーンがダサいとか、そもそもブルースがギター弾いてないとかいったことも言われていた思い出が。

My Hometown

アルバムのラストを締めくくるのはしみじみとしたバラッド。個人的には地味すぎて今ひとつなんですが。ただ熱いライヴ会場でふっとこの曲を演奏されたら沁みるだろうなとも思います。ビリー・ジョエルのAllentown同様、不況をテーマにしていることに加え、人種差別の問題も取り入れた重い曲。


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