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マドンナ「ライク・ア・ヴァージン」:売れたアルバム検証シリーズ①

売れたアルバムが傑作とは限らないが…

私の好きな80年代のアーティストやアルバムってまともに専門誌などで評論されるケースが極端に少ないような感じがします。それどころかバカにされているような気さえします。80年代は音楽市場が爆発的に大きくなった時代でもあるわけですが、売れすぎるとsell-out(売れ線狙い)と言われるのはヒップホップだけでなく、とりわけこの時代の作品がそういう評価になるような。
もちろん売れたアルバムが傑作とか名作とかになるとは必ずしも言えませんが、売れるにはそれなりの理由があるわけで、マニア通ぶって「くだらね」というのは違うと思うんですよ。「王道」というのは普遍的な魅力を持っているのです。
というわけで、今回から売れまくったけどあまり評価の対象にされないようなアルバムを検証してみます。第一回はマドンナのモンスターアルバム「ライク・ア・ヴァージン」。ちなみにマイケルの「スリラー」は以前の記事で書き尽くしたので本シリーズではパスします。

マドンナの1st「バーニング・アップ」

マドンナのデビュー盤は言わずと知れた「バーニング・アップ」(原題「Madonna」。モノクロのジャケがカッコよくてですね。で、内容はというと「ラッキー・スター」「ボーダーライン」「ホリデー」などヒットを連発したアルバムで、まだ初々しさが残る声と一生懸命さが伝わる好盤だと思います。マドンナ自身もシングル含め8曲中5曲を単独で作曲(意外と見落とされている点ですが)しているところも注目ポイント。アルバムももちろんヒットし、次作への期待感が高まっていたと思います。実は私は「ライク・ア・ヴァージン」がリアルタイムでの初体験でして、このアルバムは後追いでしたが、「ボーダーライン」の甘酸っぱさが特に好きでした。

「ボーダーライン」は別の人の作曲ですが、本人作としては「アイ・ノウ・イット」のサビのメロディなどは素晴らしいと思います。

「ライク・ア・ヴァージン」のヒット状況

さあ、そんな中で登場したセカンド・アルバム。セールス状況を記載すると以下の通り。圧巻ですね。

  • ライク・ア・ヴァージン:米1位・英3位

  • マテリアル・ガール:米2位・英3位

  • エンジェル:米5位・英5位

  • ドレス・ユー・アップ:米5位・英5位

しかもこの間、映画「ヴィジョン・クエスト」からの「クレイジー・フォー・ユー」が米1位・英2位、「ギャンブラー」が英4位、本人も出演した映画「スーザンを探して」から「イントゥ・ザ・グルーヴ」が英1位とよく働いております。
アルバムは米英とも1位、日本でも2位と世界各国で大ヒットとなりました。特にアメリカでは1,000万枚超えのダイヤモンド・ディスクになっています。80年代でこういった短期間に本アルバム以外に売れまくったというとやはりマイケルの「スリラー」期(ロックウェル「ウォッチング・ミー」やモータウン時代のアウトテイク「フェアウェル・マイ・サマー・ラヴ」、USAフォー・アフリカ「ウィー・アー・ザ・ワールド」、ジャクソンズ「ステイト・オブ・ショック」など)、フィル・コリンズの「ノー・ジャケット・リクワイアド」前後期(映画「カリブの熱い夜」から「見つめて欲しい」、フィリップ・ベイリー「イージー・ラヴァー」、バンド・エイド「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス」、映画「ホワイト・ナイツ」から「セパレート・ライヴズ」など)と匹敵します。
ところが当時のマドンナはセクシー・シンボル、アイドルとして扱われ、アーティストとしてまともな評価はなかったと思いますし、それはこの時期については今もさほど変わらないと思います。マドンナがアーティストとしての評価を得だしたのは次作「トゥルー・ブルー」を挟んで89年の「ライク・ア・プレイヤー」からくらいだったように思います。では「ライク・ア・ヴァージン」は単なる人気者の作ったアルバムだったのでしょうか?

収録曲のクォリティの高さ

結論から言えば、「ライク・ア・ヴァージン」は大ヒットするだけある中身のある傑作だと思っています。今聴いても魅力が落ちていない。
まず音作りが1stと比べ格段にクリアでキラキラした感じがします。これはプロデューサーであるナイル・ロジャースの特徴ですが、ボウイの「レッツ・ダンス」と並び、彼のアレンジ能力が光っています。1stはそれに比べるとアレンジに80年代っぽい軽さとスカスカ感があり、それゆえに逆に曲そのものの良さも際立っていた(曲自体は1stの方が上かもしれないくらい)のですが、総合的にみて2ndの完成度の高さが感じられます。では収録曲をみていきましょう。

マテリアル・ガール
アルバムからのセカンド・シングル。リズムの快活さとメリハリのあるメロディが印象的で、後にレベッカが歌詞も含めて「ラヴ・イズ・キャッシュ」がパク…オマージュしています。よく聴くとギターのカッティングがレゲエ調。マリリン・モンローっぽいPVも良かったですね。

エンジェル
アルバムからのサード・シングル。この曲がシングルになったとき、「え?この曲がシングル?」と思ったくらいやや単調なイメージが当時あったんですが、意外に今は好き。マイケルの「スリラー」でいうと「P.Y.T.」のように割とアルバムの中で埋もれている感じの曲ですが、それゆえに今聴いても新鮮な感じがします。なぜか当時PVが作られなかったシングル。

ライク・ア・ヴァージン
アルバムからのリード・シングル。当時死ぬほど音楽番組でPVが流されてました(ので聴き飽きた)。タイトルトラックがミドルテンポの曲というのが今思うと不思議な感じも。作曲は当時売れっ子のトム・ケリーとビリー・スタインバーグのコンビ。

オーバー・アンド・オーバー
マドンナと当時のソングライティング・パートナーだったステファン・ブレイによる作曲で、前述の「エンジェル」も同様。アルバムの中では唯一の捨て曲?のような。ナイル・ロジャースのアレンジ能力をもってしてもどうにもならなかったような感じがします。

愛は色あせて
当時のアナログA面の最後の曲。唯一のカバー曲で、オリジナルはロイズ・ロイスの78年のヒット曲。この曲をカバーしたのはレコード会社の人間からの提案だったからのようですが、感傷的なメロディーにマドンナの熱唱が乗った名演。後にバラード・コンピ「サムシング・トゥ・リメンバー」にも再録音版が収録され(出来はあまり良くない)、シングルカット(米78位)。

ドレス・ユー・アップ
これも当時よくPVが流れましたね。アルバムからの4番目のシングル。PVではライヴ映像が使われ、冒頭のマドンナの決めポーズが流行(本田美奈子もやってました)。今聞いてもアガる曲ですね。

シュー・ビー・ドゥ
流麗なバラード・タイプの曲で、アルバムの中でも印象に残る曲。マドンナの歌唱も抑え気味で1stからの成長を感じる曲ですが、何が驚くかと言えばこの曲はなんと彼女の単独作だということ。「アルバムの中の隠れた名曲」という称号が似合います。

プリテンダー
これも素晴らしい曲。マドンナとブレイの共作ですが、この曲の哀愁はシンセアレンジのリフレインによるもので、私がアルバムの中で一番好きなのがこの曲。いやあ、いい曲だなぁ。ぜひ再評価されて欲しい曲です。

ステイ
アルバムのラストを飾るシャッフル調の曲。これもマドンナ&ブレイのコンビによる作曲ですが、サビが印象に残ります。

こうやって改めて通して聴いてみると、曲調のバリエーションが意外とあり、アルバム1枚聴き通させる飽きさせない工夫がされていることが分かります。前述の通りナイル・ロジャースの腕が光っていますが、マドンナ自身の作曲能力とヴォーカル能力の確かな向上を感じさせる力作であり、最高傑作とは言いませんが、圧倒的なポピュラリティーを持った作品だと再認識させられます。ぜひシングル以外の曲も合わせて聴き直してみてくださいね。

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