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マイケル・ジャクソンの「スリラー」を聴こう

リアルタイムでの評価

昔、「ミュージック・マガジン」誌で4人の音楽評論家が毎月、ジャンルもバラバラな7枚のアルバムをレビューして点数(10点満点)をつけるという「クロスレヴュー」という人気コーナーがありました。

評者はそれはもう曲者ばかりでして、今も活躍されている方もいらっしゃるんですが、その中でも同誌の編集長だった故・中村とうようさんのレビューがやはり突出して面白いといいますか、点数のメリハリが強烈なんですね。

で、今回のマイケル・ジャクソン「スリラー」。言わずと知れたマンモスセラー・アルバムで、アメリカだけでも3000万枚を超えるセールスをあげた(歴代2位)作品ですが、なんと中村とうようさん、当時このアルバムに「0点」を付けたのでした。もっとも、とうようさんは他にも0点を付けたアルバムはあるんですが、おそらく既に売れまくってた時期に0点をつける所にとうようさんらしさがあるわけでして。で、そのレヴューはこんな感じ(笑)。

「テレビでコイツのCMが出るとあわててスイッチ切って、顔を洗いに洗面所へ走るってほどこの男がキライだ。黒人の最もダラクし果てた姿を見せつけられた気がする。いまの黒人音楽をぼくがキライなのはこういう手合いがエバってるから。こんなヤツの音楽聴くくらいなら、どカントリーのほうがまだガマン出来る。1980年という時代にこんなに安っぽい音楽が作られたことを後世の歴史家のための資料として永久保存しておくべきレコード。」(1983年3月号)

いや、もうクソミソですw。ちなみにこの時の他の方の点数は、小貫信昭さん(6点)、小嶋さちほさん(6点)、高橋健太郎さん(1点)と、このコーナーの点数の平均から見るとやはり低め。

ただ、当時の評価は一般的にもそこまで高いものではなかったように思います。ヒット曲は連発されていたので日本でも売れてはいましたが、どちらかといえば熱狂的ファンというよりポップスファンが買っていた感じでしたし、MVやダンススキルの方での注目の方が圧倒的だったように感じます。

最後までシングルカットされなかった2曲

さて、当時どれだけ売れていたかはシングルのヒット状況で確認してみましょう。

The Girls Is Mine (US.2 / UK.8)

Billie Jean (US.UK.1)

Beat It (US.1 / UK.3)

Wanna Be Startin' Somethin' (US.5 / US.8)

Human Nature (US.7)

P.Y.T. (US10 / UK.37)

Thriller (US.4 / UK.24)

凄まじい。9曲中7曲をシングルカットし、すべて全米トップ10に送り込んでいます。しかもこの間にポール・マッカートニーとの"Say, Say, Say"も全米1位・全英2位を記録しています。

不思議なのは最初のシングルであるポールとの”The Girl Is Mine"。曲としては弱く、ポールからも「こんなユルめでいいの?」とマイケルに確認したそう。実際アルバムの中では一番弱い曲なんですが、マイケルとしてはポールとの共演が嬉しかったんでしょうね(後にビートルズの曲の版権買ってポールと揉めるわけですが)。ちなみにマイケル、次作"Bad"でもやや弱い"I Just Can't Stop Loving You"を最初のシングルにするなど、よく分からないところがあります。

当時、私が好きだったのは"Human Nature"。美メロで人気の高い曲ですが、作者はTOTOのスティーヴ・ポーカロで、クィンシー・ジョーンズが最後にアルバム収録を決めた曲だそう。この曲はスティーヴによるデモも残ってます。

帝王、マイルス・デイヴィスもカバーしてましたね。

さて、9曲中7曲がシングルヒットと書きましたが、シングルカットされなかったのは前作"Off The Wall"で名曲"Rock with You"を提供し、"Thriller"でもタイトル曲を提供したロッド・テンパートンによる2曲。元ヒートウェイヴの人ですね。

カットされなかったのは"Baby Be Mine"と”Lady in My Life"ですが、どちらも名曲で前者は今私が一番好きな曲、後者はマイケルの作品中、"Man in the Mirror"と並ぶ名唱とされる曲です。ぜひ再度聴いてみてください。

やはり名盤です

ということで、当時はあまり音楽性といった面からの評価ってなかった気がします(その点は賛否両論あれど、プリンスの方がまともに語られていた)。音楽性で評価され出したのは彼の死後であり、日本では西寺郷太さんの評論活動が大きいでしょう。

私も彼の死後に改めて聴くことでその凄さを痛感したわけですが、とりわけこの"Thriller"はやはり別格的に「よく出来ている」し、発表40年近く経つ今でも「時代に耐え得る」音だと思います。ソングライターとしても伸び盛りだったマイケルがクィンシーとの邂逅で奇跡的とも言える傑作を生み出しました。その前の"Off The Wall"はクィンシーの力が強く、"Bad”になると逆にマイケルの力が強くなり、"Thriller"と比較してバランス感が微妙に崩れているようにも感じます。

あ、そのあとのテディ・ライリーやロドニー・ジャーキンスといった人たちは正直マイケルにはあまり合ってなかったプロデューサーだと私は思っています。過激に行くならビル・ラズウェルとか、完成度を狙うならデヴィッド・フォスターあたりとやって欲しかったかなぁ。

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