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ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「スポーツ」:売れたアルバム検証シリーズ②

陽気なアメリカン・ロックの代表格

80年代を代表するヒット・アルバムの1枚がヒューイ・ルイス&ザ・ニュースの「スポーツ」。彼らのイメージは典型的なアメリカン・ロックのイメージですが、たまに見せる顔が哀愁を感じさせるメロディ。これは彼らの前身バンドであるクローバーの頃にエルヴィス・コステロやシン・リジィと関わった経験からではないかと。「スポーツ」以後のアルバムはそういったブリティッシュなイメージがどんどん薄れていった感じですが、「スポーツ」はまだその辺りが絶妙な感じで残っています。
1stアルバムはまだ彼ら自体の個性が未整理なところがありますが、2ndになるとヒット曲「ビリーヴ・イン・ラヴ」や「サンフランシスコ・ラヴ・ソング」に彼らのメロディー好きな面が表れてきます(ただしどちらもカバー曲)。
そして3rdアルバム「スポーツ」では最初のシングルカットが「ハート・アンド・ソウル」ですが、これはマイク・チャップマンとニッキー・チンというブリティッシュ・ポップ感覚のあるソングライター&プロデューサーチームの曲のカバー。アメリカン・ロックのバンドがこういった曲をカバーすること自体、彼らの音楽性がうかがえます。

「スポーツ」のヒット状況

さて前作「ビリーヴ・イン・ラヴ」で人気バンドの予兆を示した彼らが満を持して発表したのがこの「スポーツ」。リアルタイムではとにかく長いことヒットチャートの上位にいたイメージがありますがヒット状況は以下の通り。まずはシングルから。
Heart and Soul (米8位・英61位)
I Want a New Drug (米6位)
The Heart of Rock and Roll(米6位・英49位)
If This Is It(米6位・英39位) 
Working on a Thin Line(米16位)
先ほど指摘したようにブリティッシュな香りがあるにもかかわらず、意外にイギリスでそこまでヒットしていません。いずれにせよトップ10シングル4枚というのは普通に凄い。
一方アルバムは83年9月にリリースされ、84年6月にようやく全米1位を記録。160週にわたってチャートに入り、結果的にアメリカだけで700万枚を売り上げました。84年の年間チャートで2位、翌85年も14位を記録。

収録曲

ハート・オブ・ロックンロール
アルバムからの3rdシングルでロックンロール賛歌。心臓の鼓動音で始まり、あとはノリノリのロックナンバー。歌詞に全米の各都市名が入っているので、おそらく全米ツアーでは盛り上がっただろうなと。

ハート・アンド・ソウル
前述の通り、マイク・チャップマンとニッキー・チン作でオリジナルは81年にエグザイルというアメリカのバンドで、その後82年にバス・ボーイズというバンドがカバー、彼らはその後カバーしたということで、アメリカン・バンドには好まれるタイプの曲なのかも。シンセのリフが印象的なポップ・ナンバー。ラストでハンドクラップだけのバッキングが入るのもオシャレ。彼らのヴァージョンは割とオリジナルのエグザイル版に忠実。バス・ボーイズは黒人バンドだけあって、よりファンキー&ハードな出来、といったところで思い出したけれど、バス・ボーイズって映画「ゴーストバスターズ」に「クリーニング・アップ・ザ・タウン」という曲を提供していたあのバンドだったのか(後述の通り「ゴーストバスターズ」とは妙な縁がある)!

バッド・イズ・バッド
彼らのブラック・ミュージックからの影響が表れたコーラス・ナンバー。お気に入りの曲だったようで、シングルカットもされていないのにPVも作られ、ライヴでもよく演奏された曲ですが、おそらく日本ではあまり受けないタイプの曲。

アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ
ご存じ曰く付きの曲。レイ・パーカーJr .が「ゴーストバスターズ」でパクったとされ法廷闘争に至った曲ですが、実はこういう経緯。
元々映画「ゴーストバスターズ」にヒューイ・ルイス&ザ・ニュースが曲の提供を依頼されたが断られ、代わりにレイに依頼するときに「アイ・ウォント・ア・ニュー・ドラッグ」に似た曲をというオーダーで作られたらしい。確かにベースリフや曲の構成が両者はよく似ていますが、バンドの方がよりダイナミックなロック・ナンバーなのに対し、レイの方はダンサブルなイメージで作っています。いずれにせよレイのキャリアから見て彼の個性とは外れた異質な曲ではあります。

ウォーキング・オン・ア・シン・ライン
アルバムからの5枚目のシングル。「ハード・アンド・ソウル」もそうですが、この曲もアレンジにニューウェーブ的な要素がある曲。シングルとしては少し弱い感じですが佳曲です。当時の思い出がないなと思ったらPVは造られていなかった模様。作曲はかつてのクローバー時代の同僚である二人。

ファイナリー・ファウンド・ア・ホーム

イントロのギターが印象的なロックナンバー。典型的なヒューイ・ルイス&ザ・ニュース節の曲。こういうシングルカットもされていない曲にも佳曲があるところがアルバムが売れた理由かと。

いつも夢みて
彼らの全キャリアを通じてもトップクラスの名曲にして代表曲。テンポが彼らの得意な跳ねる感じのミディアム・ナンバーで、後の「スタック・ウィズ・ユー」あたりと似ています。切ない感じのメロディーがたまらない逸品ですが、どこかとぼけた感じのPVも人気があります。ビーチ・ボーイズの「ゲッチャ・バック」同様、浜辺でのドラマが展開されます。

ユー・クラック・ミー・アップ
珍しく作曲にベーシストのマリオ・シポリナが絡んだ曲。マリオはバンドでいつもサングラスをしてタバコをふかしている彼ですが、95年にバンドを脱退すると96年に覚醒剤で逮捕、2006年には強盗と覚醒剤で逮捕されるという問題児。といったバックグラウンドに関係なくこの曲はノリノリのロックナンバー。ライヴ映えしそうな曲です。

ホンキー・トンク・ブルース
カントリーの大御所、ハンク・ウィリアムスの代表曲のカバー。他にもカバー曲は多く、「ウィー・アー・ザ・ワールド」にも参加したウェイロン・ジェニングスや名門バンド、ニッティ・グリッティ・ダート・バンドも。
ヒューイらのヴァージョンはよりアップテンポでモダンなロック・ヴァージョンになっています。


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