見出し画像

読書記録 #05 「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ

「サピエンス全史」ユヴァル・ノア・ハラリ

読書の一つの楽しみは新たな視点や考え方を得られることだと思う。この本はまさにそういった種類の本。読む前と読んだ後では世の中や世界の捉え方が少し変わった気がして、とても面白かった。

ホモ・サピエンス誕生から現在までの歴史

サピエンス全史というタイトル通り、ホモ・サピエンスが誕生してから、いかにして現在のような世界となったか、順を追って解説されていく。ホモ属の誕生、アフリカ大陸からの移動、ホモ・サピエンスの進化、認知革命、農業革命、宗教、科学革命、資本主義、産業革命、そしてホモ・サピエンスの未来…と実に壮大なストーリーである。特に前半の認知革命や農業革命のあたりは、今まで考えたこともなかったような内容で、とても興味深かった。

認知革命

認知革命とは7万年前から3万年前にかけて見られた、新しい思考と意思疎通の方法の登場である。これにより、ホモ・サピエンスは新しい言語を獲得し、虚構をつくり、信じることができるようになった。虚構により、それまで集団の規模の限度は150人程度だったのが、それ以上の大規模な集団を生み出すことができるようになった。虚構は宗教や貨幣、現代の法人や国家などを作り出し、大きな安定した集団を支えている。

この認知革命を経て、ホモ・サピエンスは他の人類(ネアンデルタール人など)を絶滅に追いやっていく。ホモ・サピエンスが到達した土地では、他の人類だけでなく、多くの動物種、特に大型動物が姿を消していることが分かっている。例えば人類が元々いなかったオーストラリア大陸では、大型動物は初めて見る人類に警戒する能力を備える間もなく、捕らえられ、絶滅に追いやられたのだという。本書ではホモ・サピエンスを史上最も危険な種と呼んでいる。

農業革命

農業革命とは1万年ほど前に狩猟採集の生活から、農耕への移行が始まったことをいう。計画的に食料が手に入る画期的な方法に移行したように思えるが、作業において慣れない前傾姿勢が生まれたり、自然災害があれば深刻な食糧不足が発生したり、一部の者に富が集中し格差が生まれるなど多くのホモ・サピエンスにとっては辛い時代の始まりとなった。

人間は幸福になったのか

宗教や科学を生み出し、文明を発展させてきたホモ・サピエンス。第19章では「文明は人間を幸福にしたのか」と少しドキッとするようなタイトルがつけられている。進歩主義的な見方をすれば、狩猟採集時代より幸福になっただろうと考えるが、本当にそうだろうか。例えば化学的にみると、私たちが幸福を感じるのは様々な生化学物質から成る複雑なシステムによって生じる。そのシステムは幸福を感じてもそれが永遠に続くのではなく、元の設定点に戻るようにできている。自動車を買っても、小説を書いても、私たちの生化学的特性は変わらない。

一方、経済学者ダニエル・カーネマンの研究では、子育ては客観的には不快な仕事であるにも関わらず、大多数の親は、子供は幸福の一番の源泉だと断言する。幸せかどうかはむしろ、ある人の人生全体が有意義で価値あるものとみなせるかどうかにかかっているということが示されるのだ。

感想

以上、印象に残った章を自分のメモとしてまとめてみた(上下巻あり、かなり内容も多いのでほんの一部だが…)。

日本史選択だったこともあってか、自分の中での歴史は1万年前に日本で縄文時代が始まったことのイメージが強い。しかし、本書では当然ながらそのはるか前から人類の物語がスタートする。イメージをつかむのに、冒頭にある歴史年表を何度も戻って確認した。ちなみにアフリカでホモ属が進化したのは250万年前。そこからホモ・サピエンスが進化したのは20万年前である。

そう考えると人類史のほとんどの時代は狩猟採集民であった時代である。本書の中でも、ここ2,000年で文明は大きく変化したものの、人類は遺伝子的には狩猟採集民であったときから変化していないことに度々触れられる。そう考えると、古代ギリシャや古代中国で知の爆発が起きたことに対して、「そんなに昔の人なのにすごい。」とは思えなくなった。もちろん人類全体で見た知識の蓄積量は異なるかもしれないが、個人レベルで見ると、古代人と現代人に大きな差はないのではないか。

また、人間は幸福になったのかという問いに対して、明確な答えは提示されていないが、上記の内容や仏教における考え方など、考えるヒントが示されていた。個人的には「幸せかどうかはむしろ、ある人の人生全体が有意義で価値あるものとみなせるかどうかにかかっている」という箇所が印象に残った。今まで、進学して、就職して、結婚して、、と目の前のことばかり見て、人生についてあまり深く考えてこなかったが、いつか自分の人生を振り返ったときに、有意義なものだったと言えるかどうか、という視点が大事だなあと今更ながら思えるようになった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?