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今村夏子「ピクニック」で学ぶ虚言癖の行動①

■はじめに

たびたび、Xのおすすめや炎上ネタなどで、有名人と結婚したとか虚偽の発言をする一般人のポストが話題になりますよね。 

普通の人からしてみたら「なぜ、すぐバレる嘘を付くんだ」と頭を傾げたくもなります。

筆者は昔から、何故か「声優と付き合ってる」とか「元アイドルだった」とかのたまう人に、頻繁にエンカウントするんですが、こういう虚言癖のある人って別人なのに面白いくらい同じ行動をとるんですよね。最近話題の嘘つき、大谷翔平の元通訳、水原一平もそうです。

嘘つきは何故皆同じ行動をとるのか? 
空想虚言癖の女性を描いた傑作、今村夏子「ピクニック」を教科書に、虚言癖の心理と行動パターンを探っていきたいと思います。


■「ピクニック」とはどういう小説か

今村夏子「ピクニック」はちくま文庫「こちらあみ子」に収録されている中編小説です。
今村夏子さんは人間関係を俯瞰的に観察することに優れた作家です。「ピクニック」は感情表現を徹底的に排除しているので、行動と言動だけでキャラクターの心理を読まなければならず、読み手によって解釈が変わるのが特徴です。

なので「ピクニック」を読まれた人の中には、虚言癖の女性の話ではなく、恋愛、友情物語と受け取っている方もいるかもしれません。そういう方は、今のままで充分幸せな一生を送れているはずなので、ここでサヨナラです。

それでもいい、先を知りたいという方、人の悪意に苛まれて生き辛くなるかもしれませんが、責任は取りません。


■「ピクニック」よくある解説&あらすじ

けして難解ではな小説ではないのに、いろんな解釈ができるので解説されているブロガーやYouTuberの人も多いのですが、千野帽子氏の解説になぞらえている方が多い気がします。

よくある解説の一例とあらすじ

  • ビキニで接客がウリの「ローラーガーデン」で働くルミたち。鈍臭い年上の後輩七瀬さんは人気お笑い芸人の「春げんき」と付き合っている! 
    七瀬さんの恋愛を応援するルミたち。でもそんな七瀬さんに冷たい態度をとる新人が現れたり、春げんきがアイドルと結婚したり、彼女は散々な目に遭う。ルミたちは七瀬さんをなぐさめるために好物のピーナッツを持って彼女のアパートにお見舞いに出かける…。 

ではなく、解説では

  • なんと、ルミたちは七瀬さんを応援しているテイで、陰でいじめて笑いものにしていたのだった。かわいそうな七瀬さんは「ローラーガーデン」に来なくなってしまった。一見、七瀬さんをいじめているように見えた生意気な新人は実は常識人で、唯一まともな存在だったのに「ルミたち」に取り込まれ、ついには一緒に「ピクニック」に行く仲間に。

短くまとめるとこんな感じか。間違いではないですが、七瀬さんを水原一平の件に無理矢理当てはめると

「ギャンブルの胴元(ルミたち)にカモにされて、膨れあがった借金(春げんきとの関係)をなんとかするべく大谷選手の口座から現金を盗まざるを得なくなった(ドブそうじ)かわいそうな一平ちゃん」になってしまいます。

いやいや、七瀬さんは現実と妄想の区別がついていない、もしくは、ウソをついてまでかまってもらいたかった可哀想な人だよ? 一平はお金を盗んでるし立派な犯罪者だし、比較対象にならない。と思う人もいるかもしれません。

でも、嘘つきのナルシストという点でふたりは共通しています。
まるで七瀬さんがいじめの被害者に見えるというところに私は疑問を感じます。

■七瀬さんは被害者なのか?

ちゃんと読んでいけば、七瀬さんが現実と妄想の区別が付いていることに気づきます。その上で「ルミたち」を騙している。

一平のカモにされ続けた、大谷選手は優れた人格を持つ人間だからこそ結果を出し続けていますが、七瀬さんとルミたちは同じ穴の貉だったので「ピクニック」が始まったのです。

水原一平レベルの大嘘つきにはなかなか出会わないものですが、七瀬さんレベルの小者は結構な数日常に潜んでいます。関わったら厄介ですが、私たちには「ピクニック」という教科書があります。すぐれた文学は日常生活をサバイバルするのに大いに役に立ちます。なので、丁寧に読んでいきましょう。②に続く

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