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「おもてなし」を守ろう

はじめに

先日、高めに泊まったホテルで、ふとこんなことを考えました。「この人たちはいくらもらっているのだろうか?」これは単に疑問に思ったことです。他のホテルでは気にならないのですが、高級ホテルとなると気になってしまいました。と言いますのも、普通の会社員と高級ホテルのホテルマンが同じ給与では問題だと思うわけです。その時感じことを書いていきたいと思います。

日本人の給与はアジアでも1番ではない

日本が先進国で唯一給与が横ばいの国で、手取りベースで見ると年々減っています。最近では大企業が中心となり、賃上げをする動きが出ています。ここに来てやっとその動きが目立つようになっていますが、増税も視野に入っている現状では期待しているほどの賃上げは難しいかもしれません。賃上げを促進するような政策を推し進めて、税収を上げる方が国民の負担が小さくなると思います。
各企業が賃上げをしようとしているのは優秀な人材の確保と頭脳の流出防止です。日本人は海外へ行きたがらないと言われますが、それは我々のような一般人に限った話です。研究者や優れた技術者の持っている能力は世界で通用し、日本と外国で同じ仕事をして、外国で日本の3-4倍以上の給料をもらえるのであれば、外国企業へ行くことも少なくありません。韓国に初任給を抜かれ、タイに部長職での給与を抜かれ、中国に完全にボロ負けになっています。欧米だけなくアジア諸国にも負けていて、この調子で行けば日本に来ていた出稼ぎ労働者は他のアジア諸国へ出稼ぎに行ったり、母国で働いたりするでしょう。現にIT業界ではそういう動きがあり、日本のデジタル化が他国とさらに差を付けられることも考えられます。研究者については今のうちに手を打たないと日本からノーベル賞は夢のまた夢になってしまいます。


日本ではバブル崩壊以降、いつ不景気になってもいいように企業がお金を貯めるようになり、社内投資、特に人への投資をおろそかにしてきました。その結果、30年間給与の上がらない先進国と言われ、生産性の低さでは先進国ワーストとなり、日本はすでに先進国ではないと言われることもある始末です。これは企業側の責任でもありますが、日本の産業を守ろうとしなかった国の責任でもあります。中途半端な規制緩和や相次ぐ増税が最たるものです。ジャパンアズナンバーワンと言われた時代は遠い過去のことで、もう日本は1番でもなく、他国の後塵を拝しています。この状況が危機的状況であると国や企業側が重々理解すべきで、日本が高度経済成長期を経て、経済大国になったことへの余韻に浸っているだけです。今はもうそんな時代ではありません。

サービス維持にはお金は必要

日本のサービスは世界トップクラスであることは間違いがなく、東京オリンピック招致の際に「オモテナシ」という言葉が世界で知られるようになりました。他国では日本のようなサービスを受けようものなら、日本の10倍以上のお金を出さないと行けません。これは日本の物価が欧米諸国より低いからという理由だけでなく、日本に元々根付いていた文化であるからと言えます。
旅館でおもてなしもそうですし、レストランでの無料のお水も日本特有のものです。欧米では食事の際に水をもらうにしてもお金がかかります。しかも、お店によっては日本のように綺麗でないお水がでてくることもあります。日本の水道水は世界トップクラスの厳しい基準を設けており、それをクリアしないと水道水として供給することができません。それを毎日いつでもどこでも飲めるのが日本で、それをどの飲食店に行っても無料で飲めるというのは世界的に見て非常にまれで素晴らしいことです。欧米であれば、日本の水道水ぐらい綺麗なお水を飲食店で提供すると1Lで1-2ユーロぐらいはかかるでしょう。お店によってはそれ以上、取るかもしれません。
日本のおもてなし文化は世界に誇るべき文化ですが、それらがその職に従事する人に還元されていないという問題点もあります。サービス業では低賃金重労働と言われ、人手不足が深刻化しています。サービス業の大半が人件費で人を増やしてところで売上が伸びなければ、人件費をカットするというようなことも起こっています。百貨店の従業員とスーパーの従業員は求められるものが違いますが、スーパーと百貨店の店員が同じ給料であれば、マナーが厳しくないスーパーへ流れます。質の保つにはお金が必要です。

サービス業に従事する人たちも生活があります。その人たちの生活を守ることができないような労働体系や賃金であれば自ずと人は離れていき、誰も来なくなります。裏を返せば、労働体系や賃金を見直せば人は来ます。業態上、労働体系が見直せない場合は賃金だけでも見直せばそれで人は集まります。
サービス業に従事する人たちは無償で奉仕している人ではありません。金持ちの道楽で商売をしているわけではありません。背負うものがある人たちです。サービス業の低賃金問題を放置し続ければ、いずれ、日本はおもてなしの国でなくなります。おもてなしの精神を絶やさないためにもサービス業に従事する人たちの労働環境の改善が急務です。そうでなければ、日本から一流料亭や一流ホテルなどが消えてしまいます。一流のレストランやホテルがすべて外資系になり、欧米スタイルでの提供が当たり前になってしまいます。外資系を否定するわけではありませんが、日本の高級料亭や高級ホテル・旅館を残しておくべきだと思います。日本のサービス精神を提供してくださる方への還元は日本を守ることにもつながると思います。

最後に

人生で初めて高級ホテルに泊まり、ホテルマンが部屋まで荷物を運んでくださり、部屋の設備の案内をしてくださりました。どんな時間であっても内線を掛ければ長くても2コール以内に出られました。値段が高いなだけでサービスが隅々まで行き届いていました。そのホテルで働いている人と出張などでよく使うビジネスホテルで働いている人の給与が同じであれば、ビジネスホテルに流れていくでしょう。宿泊者への対応がビジネスホテルと高級ホテルではまるっきり違います。ビジネスホテルで基本的にチェックイン後は宿泊者だけで部屋へ向かいます。フロントが混んでいれば、内線をかけてもつながらないこともあります。高級ホテルではそのようなことは許されません。高級ホテルの従業員の方は心配りが大切です。宿泊者も高い宿泊費を出しているのだから、その分を従業員に還元すべきで、それをすることがそのホテルの品格を維持する最短ルートだと思います。値段に見合った給与を従業員の方へ還元することが日本のおもてなし文化を守る手段であり、そのおもてなし文化を体験したいと思う外国人が日本へ来るきっかけにもなり、無形の観光資源となり得ます。文化の継承はなり手を育てることで、そのためにはお金は必要になります。サービスは無償ではなく、有償です。当たり前だと思っていることは当たり前ではないのです。

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