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緊張と緩和について

表現をする上で、それは作品なりライフスタイルなりで僕なりに気をつけていることがある。


「僕なりに」なんて言葉は批判を恐れ、防衛本能から発せられる言葉のような気がして思い切りが悪い。
「自分なりに頑張っている」と言えば受けては何も否定ができない。
受けてが踏み込む余地を残しておくのはこれもまた一つの礼儀かもしれない。


だから「表現をする上で、それは作品なりライフスタイルなりで気をつけていることがある」と訂正させていただく。


それは今回のテーマである「緊張と緩和」である。


緊張と緩和。この振り幅が大きいほど楽しい。どちらかに特化した作品も好きなのだけれど、大衆に受けるのは押すところと引くところの調和が整っているものである。
つまり侘び寂びである。

それは一つの作品自体にも当てはまることだが、そのアーティスト自身に振り幅がある方が魅力的である。
そして振り幅が大きいにも関わらず、どの作品にもその人らしさが備わっていれば尚のこと良い。

曲を作る上で考えていることを例に挙げてみる。

まず、一つの作品に見た場合。
曲で例えるとサビ前のBメロは少し抑え、サビで盛り上がりを最高潮に持っていく。
オーソドックスな構成だが、伝えるところが明確でありリスナーは聴き心地が良い。

次にアーティストで見た場合。
甲本ヒロト氏はブルーハーツの楽曲「すてごま」の中で開口一番、「おろしたての戦車でブッ飛ばしてみたい」と歌っている。
なんとも振り切った歌詞で聴いているこっちがヒヤヒヤしてしまう。

現に中学生の時、学校で掃除の時間にこの曲を流していたらブルーハーツを知らない友人にお咎めされた。倫理的に大丈夫かなと。とても刺激の強い歌。

一方で甲本氏は「レストラン」という曲も作っている。
「レストラン」はとても緩い曲調で、歌詞も「カツ丼 サラダ 冷やっこ お腹いっぱい」と並んでいる。
僕が一生かかっても思いつきそうにない歌詞だ。

この振り幅が良い。「すてごま」という曲があるからこそ「レストラン」が活きるのだ。

この「レストラン」という曲。
曲調はとても緩いのだが、サビでは「明日 どこかの交差点でひき逃げされちゃうかも」と歌っている。
一つの曲の中でも押すところと引くところが際立っている。
曲自体に緩急がある作品であれば、歌詞は振り幅が小さくても良い。しかし曲が最初から最後までポップに構成されている以上は歌詞で緩急をつけた方が面白く、飽きがこない。

そして、素晴らしいのがこの二曲は両極端にありながらも、どこか優しく甲本氏の人間性が表れている。


次にファッションで考えた場合でも緩急は使われている。
定番中の定番であるモノトーンはまさにそれである。白と黒といった色の明るさによって緩急をつけている。
また、服装のサイズ感にしてもそうだ。ボトムスを緩めにしてトップスで締まりを作るといった緩急も使われている。

実はこの緩急というのは対人関係でも有効である。


「ツンデレ」といったのはまさにそれである。分かっていてもドキドキしちゃうのだ。


また普段ニコニコしている人に本気で怒られるほど恐いものはない。
「この人がここまで怒るなんてよっぽどだな」といった見られ方もするから、相手はその人の要望を受け入れやすい。
普段から怒っている人が怒っていると、当然「またか」と思われるし効果は薄い。
しかしながら滅多に怒らない人に怒られると、本当に申し訳なくなる。そういった時、僕はこの人の意見を素直に受け入れようと思う。

僕は普段あまり怒らない。いつか来たるその時までニコニコしてやろうかなと思う。


そして、最後にコピーにおける「緊張と緩和」である。
この場合のコピーは「複写」ではなく「原稿」という意味において。
つまり、どういうことかいうと、一つのフレーズに緊張と緩和が同居しているコピーが面白い。


これは良い悪いの判断ではなく、単純に面白い。

例えば2001年に映画化にもなった作品「冷静と情熱のあいだ」や伊藤英明主演の「悪の経典」。
「冷静」と「情熱」は対比しやすい言葉であり、両者とも普段から耳馴染みのいい言葉である。
また「悪の経典」は「経典」という本来、正義の立場である人が説いたものとは真逆の「悪」というフレーズが冒頭にくるのが面白い。

このように一つのフレーズという限られた文字数の中に緩急があるとグッと引き寄せられる。


そういえば僕の友人に仕事を休業している人がいる。
彼は店長の職を一旦休憩し、今はニートだ。

そんな彼が最近SNSのアカウント名を変更した。

その名も「ニートてんちょう」である。

なんとも憎いネーミングセンスだ。この振り幅が面白い。


僕はと言えばどうだろうか。


「君野ユウ」

君 の you

君 ≒ you

振り幅の弱い私である。


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