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噛み合わない2人の会話

 この世で一番大切なものは?と聞かれると、僕は迷うことなくこう答える。「関係性」と。

 異動して約1ヶ月経つが、めちゃくちゃそう思うことが多い。みんな本当にいい人たちだ。わからないことを質問したら丁寧に教えてくれるし、「仕事慣れた?」って声もよくかけてくれる。

 だけど、物足りない。趣味の話ができる関係の人がまだいないから。1から関係を築いていくのはもちろん楽しい。共通の趣味がある人と出会うと嬉しいし、自分の知らない新しいことを知れると世界が広がって楽しい。
 だがまだ仕事に慣れていないため、どうしても仕事の話がメインになる。なかなか雑談をする余裕がない。
 それにコロナ渦ということもあって、本来なら関係性を構築できるチャンスの歓迎会もないし、休憩室はマスクを取るから会話すらできない。

 前の部署は隣だからちょくちょく仲良いい人たちに会うことがある。
 「おー、久しぶり!慣れたー?」とたった数口だが、癒やされる。もっと話したくなるが、時がそれを許してはくれない。
 まだ余裕のない僕はどの時間帯なら手を抜けるのか把握しきれていないからだ。ホントはもっと話したかった。

 こないだみた映画の話や仕事の愚痴、相手の近況だって知りたい。話題は何だっていい。楽しい時間を少しでも長く引き延ばしたい。あの頃は当たり前だった何気ない会話が恋しくなる。

 先輩は韓国ドラマ、僕は邦画をそれぞれおすすめしあっていた。お互い時間があったら観るねというが、観たことはまだ一度もない。
 それでもお互い「こないだ観たドラマめっちゃ面白かったんですよ」「私もこないだ観たドラマの主人公がめっちゃかっこよくてさ。韓国ドラマなんだけど」とお互い別々の話題を熱く語り合う。
 傍から聞いたら、噛み合っていない会話をしているなと思われるだろう。
 だけどその時間があったからこそ、仕事でミスしたり嫌なことがあったりしても先輩と話すことで気持ちをリセットできていた。

 あのときは当たり前だったことが、今ではとても価値のあったことだと気付かされた。だからこそ今、目の前にある小さなことを大事にしていこうと思う。

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