福島のこと(その2)
UFOとふれあった私が次に向かったのは二本松市。鬼婆伝説ゆかりの寺があるとのことで、それはもう行くしかない。
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鬼婆とは。
思えば、その詳細を知らないではないか。何の知識もなく伺っては失礼だろうと、事前にちゃんと勉強した。私はちゃんとしているのだ。
勉強した鬼婆伝説の概要は以下の通り。
以上。色々とやりすぎである。
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そんなわけで二本松駅から炎天下を歩くこと数十分、観世寺にたどり着いた。
こんな感じなので、鬼婆大フィーチャーのエンタメ寺かと思ったが、中では何かしらの法要が行われていた。私もちゃんとしているし、観世寺もちゃんとしているのだ。
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「みちのくの 安達ヶ原の黒塚に 鬼こもれりと 聞くはまことか」
短歌である。
ちなみにこれは、このあたりに住んでいた女性に平兼盛が送った恋歌とのこと。
要するにラブレターらしいが「安達ヶ原に鬼がいるってマジ?付き合ってください」はちょっとトリッキーすぎやしないだろうか。
表に出てこない高貴な令嬢を鬼になぞらえたという説もあるらしいが、それはそれでシンプルに失礼だろう。短歌、難しいネ。
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受付に人がおらずウロウロしていたところ、神職(という呼び方でよいのかは知らん)の方が気づいてくれた。拝観料(400円)をお支払いし、いざ。
この池で何が行われたのか一発でわかるネーミングだ。怖い。「血の池とも称しております」と炒に丁寧なのも怖い。「冷やしてもおいしく召し上がれます」みたいな(みたくはない)。
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鬼婆はここでターゲットの出現を待ち続けたらしい。開放的で素敵なお宅であった。渡辺篤史ならずともベタ褒めだろう。
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宝物館もあったが、残念ながら内部は撮影禁止。鬼婆が人を襲った包丁や、人肉を煮た鍋など激こわアイテムのオンパレードで最高だった。
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宝物館を大満喫しニコニコの私に、先ほどの神職さんが声をかけてきた。寺から徒歩1分のところに鬼婆の墓があるので、ぜひ行ってみてくださいとのこと。そんなの行くに決まっている。
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阿武隈川の脇、大きな樹の下に墓はあった。黒塚と呼ばれているらしい。いかにもという雰囲気である。
孤独な人生を送った鬼婆は、亡くなってからもずっとこんな場所で一人ぼっちなのだ。さぞ寂しかろう。
というわけで2ショット。霊障バッチ来い。
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福島へと戻り、ホテルへのチェックインを済ませてから、つるの湯へ向かった。福島市にある唯一の銭湯らしい。
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モダンで立派な外観だ。
ダイニングカフェ1010が併設されている。おしゃれ。1010。
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浴場は非常にこじんまりとしていた。
湯船は2つ。まずは右手の「ミネラル温浴泉」へ。
掲示されている説明書きには「遠くの温泉地に行かなくても働きながら疲労回復が可能」
とある。
「働きながら疲労回復」
人類の夢、永久機関だ。
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底にはミネラルの素(?)が沈んでいた。正体が何なのかはわからないが、とにかくミネラルだ。
地元・札幌の銭湯でミネラル温浴泉に出会ったことはない。北海道でこういった怪しげな、もとい、科学的万能健康風呂といえばほぼブラックシリカである。北海道がマイノリティなのかもしれない。
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左手の湯は電気風呂兼バイブラ。
バイブラには水まくらが設置されていて、ご丁寧に水まくらの説明もある。
「水まくら ほどよく頭を冷やしてくれます」
「ほどよく」がよい。「がっつり」でも「ちょっぴり」でもない。
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若かりし頃は何事も過剰だった。
過剰に塩辛い食い物を好み、過剰に低音が強調された音楽を聴き、過剰にグロテスクな映画を観ていた。
しかし加齢とともに「ほどよい」へシフトした。そんな私には大変ありがたかった。
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「冷やしてくれます」もよい。
「冷やされます」ではない。主語は水まくらなのだ。かといって「冷やします」でもない。冷やしてくれるのだ。その博愛的施しは、もはや宗教である。
とてもほどよく冷やしてくれた。
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ほどよくなったところで脱衣場へ戻った。素敵な休憩スペースが設けられている。表現の難しいところだが、一段ベンチ型サウナのような、東屋のような作りだ。
寛ぎ、着衣し、ロビーへ。
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絶妙なサイズの缶コーラ(深爪)。
ゴキュゴキュと喉を鳴らす私の隣には、一人の男性が座っていた。
女湯から赤子を抱えた女性が出てきて、彼に「お待たせ」と声をかけた。
刹那、田舎のヤンキーとしか言い様のない3人組がご来店。
改めてよい銭湯だ。
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翌日、仙台を経由して札幌へ戻った。
仙台では知らない老婆にかっぱえびせんをもらうという珍体験をしたが、タイトルを「福島のこと」としているので、詳述はしない。
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とても暑かった夏。とても熱かった湯。
はじめての福島、最高だった。
母方のルーツが福島なのだが、この年になってようやく行くことができた。
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もしかしたら私には宇宙人や鬼婆の血が流れているのかもしれない。
かっぱえびせんをつまみながら、そんなことを考えて少し笑った。
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