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軽くて深い

「俺らって死ぬんだってさ。」唐突に友達が言い出した。彼はいつも唐突で、ただ多くの場合は、彼なりにじっくりと考えた上で話す。
「俺ら?って僕も含まれてんの?』なんとも間抜けな返事を困惑しながら返す。
「そうそう!俺、自分が死ぬって知ってたけど、わかってなかったわ。
人ってみんな死ぬらしいよ。」

また訳のわからんことを言い出した。といつものように呆れる。
「大丈夫?なんなんいきなり!」とちょっと心配したふりをしつつ、彼の言葉を楽しんでいる自分がいる。彼はいつも答えを求めない。それでいて考え続けていて、答えなんか出ない問いの、答えが出ない状況を楽しんでるみたいだ。

「【失って初めて気づく】って言葉があるでしょ!あれなんて何回も見聞きしてるのに、実際にその立場になるまでわかってなかった。見ている様で、聞いている様で何も残ってなかったんだって気づいたんだよ。」
「そんなもんなのかなー。なんかあったん?」気のない返事をしつつも、次の言葉が少し気になる。

「失恋したんよ!あれは恐ろしい経験だったなー。無くしてすぐにメンタルがやられるだけじゃなくって、体調までやられちゃった。なんで誰も本気で「失って初めて気づくんだぞ!」って教えてくれなかったんだろうな。」
辛い経験を彼は割と楽しそうに話していて、それは何かを隠すためなのか、本当に楽しんでいるのか。
「なんやようわからんけど、それと死ぬ話はなんの関係があんの?」
彼と話しているといつも話が脱線する。いつもいろんなことをごちゃ混ぜで考えて、そのままの状態ではなしてくるから、こっちまで訳がわからなくなる。

「今までにさ、俺は多分数万人が死ぬところを見てきたと思うし、読んできたと思う。まあ、映画であり本の中でだけど、たくさんの人が死んできたよ。で、自分と深い関係ではない誰かが死ぬのは慣れちゃった。みたい。」
「映画や本の中での死ぬを、自分の体験に含んでいいん?」
「いいと思う。だって、自分が知らない誰かの死よりも、集中してみてる映画の登場人物や、読んでる本のキャラクターが死んだ方が自分の中の奥底に残ってるもん。」
この辺りで僕は話がわからなくなってくる。
「俺は、自分の大切な人を亡くした経験がなかったから、人が死ぬってことを深く考えることがなかったんだと思う。その割に、常日頃から死には軽く直面してる。さっきの【失って初めて気づく】がその状態になるまで気づかなかったように、【亡くなって初めて気づく】って状況がいつかくるんだろうなってふと思ったんだよ。」

あんまりしっくりこない中なんとなくわかるふりして「なるほどね」って。
「まあたださ、これも結局わかった気になってるだけで、やっぱり自分が当事者になってその辛さだったり苦しさを経験しないとわかんないんだろうな。とも思ったよ。俺アホだからな。」
「そんなんみんなそうやろ。僕らは何かをわかったふりすることで、自分の中の何かを保ってるんやろな〜」
なんとなくわからないなりにそれっぽいことを言ったら、彼は黙り込んだ。
なんとなくわかったふりをしていった言葉が、彼には刺さったみたいだった。


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