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羅生門

黒澤明監督作品の「羅生門」を見たのでその感想を残しておこうと思います。


映像体験

まず第一に、1つの映像体験として映画を考えると、2時間ほどの時間に無理矢理に内容を詰め込んだような物語よりも、ストーリーに余裕があり、まったりと美しく、物語を引き立てる映像が流れるこの映画は、惚れ惚れするほどの体験を見る人に与えてくれるものだと思いました。

たまに見かける、見るものに何かを考えさせるような、作り上げられた極端に変わった映像ではなく、物語をつなぐ中で出てくるただただ美しい”間”は、今だからこそ味わいたい機会の性能などとはかけ離れた、素晴らしい体験を見るものに与えてくれるように思います。


事実と解釈

個人的にこの映画の一番の見所は、4人の登場人物がそれぞれ、自身の社会的立場を意識することにより生まれる「虚飾」を鮮明に描いてていたことではないかと思う。

その中に「事実」が含まれているのかどうかすら判断できないぐらいに、4人の証言が全く違う。

それぞれが自身に都合の良い「事実」を持ち合わせているわけだけれど、この映画を見ると、世の中で「事実」として語られていることにどれほどの個人的な解釈が含まれていて、語り手に都合の良く物語が書き換えられているのだろうと改めて考えさせられる。

まさにニーチェが言ったとされる「事実は存在しない。存在するのは解釈だけである。」を映像作品として残した作品かもしれない。

この映画とは関係ないことではあるが、「事実は存在しない」ということは個人的に最近よく思い知らされるところであって、様々な情報を自分なりに収集するにあたり、専門家であったり知識人の意見が人それぞれ全く正反対だったりすると、この問題は一筋縄ではいかないのかなと思ったりするわけです。

直近では処理水問題や、環境問題、なぜ日本でワクチンの接種が遅れているのか。などなど、多くの人が色々な意見を述べていて、本当にどこに落としどころをつけるのだろうと思ったり。
かと思えば、それぞれの専門家に「あなたの言っていることは正しいです。」というテンションで信頼を置く人物がいたりする。

本当にそれは信頼してもいい情報なのだろうか、と疑問に思う内容に対してもそのような反応が見受けられるのには本当に驚かされる。

大量の情報が世に溢れているうえ、大した知能のない一般人からすれば、意見の違う科学的なことをたくさん見聞きした後に、「反証可能性」なんて言われた時にはもうお腹がいっぱいで動けなくなってしまう。

こうなってしまうと、もはや事実ではなく解釈のみが優先され、「考えるのも面倒だし、自分が信じる意見を正解としよう。」となる気持ちも理解ができるし、それでいいのだろうなとも思う。

ただやっぱり自分の意見が事実ではない可能性もしっかり頭の中に残しておかないといけないな、という気持ちと、それが欠けている人が一定数いるのではないかという危惧のようなものがあったりもするわけだ。

よく考えると「人が情報を得る際、知らずのうちに自分の考えを肯定する意見を取り入れる。」

ということが正しいのであれば、その事実に対し常日頃から注意しなければいけないのは、あまり知識のない一般人ではなく、日頃から大量の情報を取り入れ、思考を凝らしている専門家や知識人と呼ばれるような人だろう、とこの文を書いていてふと思ったわけで。

実際に自分の意見に対して、反論された時に顔を真っ赤にして、何が何でもと反対意見を封じ込めようとするような光景を見たこともあるなと。

個人的には意見の似通った人を集めて「事実」として色々な情報を伝えるよりも、違う意見を持った人を集めて討論する。みたいな企画をNHKなんかが率先してやってくれたらいいなと思うけれど、あまり期待はできないかなというのが一般的な意見なんですかね。

どこかのメディアが対談ではなく討論を行う企画を積極的に行ってくれればなと願うのと、私が知らないだけでそのようなものが既にあるのであれば、ぜひ見てみたいなという思いがありますね。

とりあえず何よりも、自分の解釈を事実だと認めることほど怖いものはないのではないかなと。心に留めとかないとねと。


良心

この映画の最後で人の良心を描いていて、個人的にもやはり人間の根底にあるのは良心である。と信じているのだけれど、そうなるとどのようにして人は良心を覆い隠してしまうのだろうと思うことも多々あって、やっぱり1人の人間が外部から受ける影響は計り知れないんだろうなと。

「感情の劣化」が起きていると言われているけれど、やはりこの映画の最後のシーンのように、損得関係なく動ける人でありたいなと、綺麗事かもしれないけれど思うわけで、とっさに動ける人間でありたいなと。

読んだことはないけれど、三字経という作品で、『人之初 性本善(人は生まれた時は善性である)』という考え方が出てくるそうで、それを信じて生きていこうかと思いますね。


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