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【取材記事】古着の新たなアップサイクル、ポリエステル培地ファイバーソイルで野菜が育つ 

「古着」というと、おしゃれ、ヴィンテージ、安い、リユースなど、多くの方が共通したイメージを持つのではないでしょうか?技術革新が進んだ近年、再び服としてリユースできない衣類が意外な製品に生まれ変わっています。
株式会社鈴六 は、愛知県岡崎市にて古着回収を行う企業。古着をもとに開発されたポリエステル培地の販売を請け負っています。同社は1919年創業から培かった『もったいないから始まるリサイクルマインド』を大切にしつつ、資源活用をした新しいビジネスを創出しています。今回は、回収した古着の用途、アップサイクルしたウエスやファイバーソイル、プロダクト開発の背景や広まって欲しいSDGs活動などを繩手様に伺いました。

【お話を伺った方】

株式会社 鈴六  営業企画課
 縄手ジョイセ(なわて じょいせ)様
2019年入社。選別ラインや国内販売業務の経験を経て、営業企画課に配属。Webマーケティング業務を中心に「古着回収ボックスの設置」「ファイバーソイル」「オンライン販売」業務を兼任、多様な可能性が秘められる古着の資源循環の取り組みを多くの人に伝えるため活動中。



■地元で創業100年越、地域密着のリサイクル企業 

mySDG編集部:創業の経緯からお願いします。

繩手さん:当社の創業は105年前になり、今年で106年目に入ります。1919年に鈴木六右衛門商店として創業し、1920年まではワラ・紙・布・綿・ガラス・ビンなどを各家庭から集め、販売していました。
現代表の鈴木は5代目となり、「地域に求められるリテンション企業を目指す」という理念のもとに、地元、愛知県岡崎市を中心に地域密着で古着回収を営み、リユースやリサイクル事業を行っています。

mySDG編集部:長い社歴ですね。創業時から中古品を扱う業種だったようですが、古着を扱うようになったのはどのような経緯からですか?

繩手さん:時の流れと共に徐々に扱う品物は変化してきましたので、時代のニーズによるものですね。1930〜40年代は、戦時中でもあり統制経済の中でリサイクル品を集め、戦後は朝鮮戦争の特需があり取り扱いアイテムも増えていきました。1952年には合資会社鈴六商店として法人化した後、1970年頃には古紙回収が盛んになり、徐々に古着が集まるようになったそうです。
現在は古着のリユース販売とリサイクルが主な事業内容ですが、当社は回収した衣類の95%以上の再資源化に成功しています。衣類をそのまま服としてもう一度使うリユースはCO2排出量が一番少ないので、なるべく再販売できるよう努力し、回収した衣類の50%以上をリユース品として再循環させることができています。その結果年間5,760トンものCO2の排出削減を実現できました。

回収された古着の一時集積所。素材別に選別された後アップサイクルされる。

mySDG編集部:リユース品として販売されるのはどのような衣類なのですか?

繩手さん:国内向けには、タグ付き未使用品などの比較的新しい衣類をメルカリBASEなどオンラインショップでリユース販売しています。東南アジアなどを中心とした海外向けには、現地でニーズのある衣類や小物を選別し、輸出商社を通して届けています。リユース販売するためには種類が豊富な服や小物をできるだけ細かく選別することが大切なので、当社では人の手で90種類以上のアイテムに分類し、適切なリユース経路に乗せています。

mySDG編集部:従業員の方々は、選別に迷いませんか?

繩手さん:私自身も選別ラインに携わりましたが、アイテムごとの仕分だったり、デザインや生地の種類だったり、選別する項目が多く判断がとても大変です。そこで当社では従業員の皆さんが悩むことがないよう、何年もかけて基本マニュアルをつくりました。今では比較的スムーズに選別作業ができるようになっています。

選別レーンでの作業風景。一品一品、人の手で丁寧に仕分けをされる。

mySDG編集部:リユースで回収の半数以上を占めておりますが、残り50%弱はどのようなリサイクル経路をたどるでしょうか?

繩手さん:リユース品選別ではじかれた衣類は、汚れが染み込んでいたり、破損していたりしていて、服として再び着られないものです。そのような衣類は素材別に分類し、綿率が高いものを工業用「ウエス」として加工します。ウエスとはいわば雑巾のようなもので、何かを拭く目的の布になります。タオル生地のものは特に使いやすいので、建設現場などの水回り工事には欠かせません。建設工事や清掃業務をする事業者、一般家庭向けの水回り修理業者の使用頻度が高いですね。これが全体の15%です。

そして残り約30%がフェルトの原料になります。今度は綿率の低い衣類、ナイロンやポリエステルなど化学繊維が多く含まれる衣類を使います。反毛工場で再び綿状にほぐしてからフェルトメーカーでフェルトに加工します。そのフェルトメーカーが、今回ファイバーソイルを開発した株式会社清水フェルト工業さんです。

■リサイクル資源からできた、ポリエステル繊維培地「ファイバーソイル」

mySDG編集部:そもそも、ファイバーソイルはどういったものなのですか?

繩手さんファイバーソイルは「ポリエステル培地」ともいうのですが、野菜や花など植物の植え付けをする際に従来の土壌の代わりとして使用することができる培地です。原料はフェルトの端材で、もともとは当社が回収した化学繊維率が高めの古着です。

清水フェルト工業さんは、古着を再利用して自動車の車内に使用されるフェルト製品の製造販売をしています。その製造方法には型抜き方式を採用しておりますので、必要な製品部分を切り抜いた後には、どうしても端材が発生してしまいます。代表の清水さんの想いとしては、アップサイクルのフェルト製品を製造しているにも関わらず、製造過程で毎日大量に廃棄物が出てしまうことに疑問を感じ、端材を無駄なく使うため活用方法を思考錯誤しました。そしてやっとアースコンシャス株式会社さん、近畿大学さんと共に20年間の研究開発を経て製品化されたのがファイバーソイルということです。

mySDG編集部:「ポリエステルの培地」というものには耳なじみがなかったのですが、業者間では一般的なのですか?

繩手さん:いえ。一般的ではありません。土以外で植物が生育可能なものは『ココピート』と呼ばれるヤシ殻培地(ココナッツの殻の内皮にある繊維や粒を原料とした有機培土)はあるのですが、ポリエステル繊維の培地は初めて開発されたものですので、特許も取得済です。

ファイバーソイルは土の1/5ほどの重さ。80ℓも軽々と持ち上げられる。

mySDG編集部:ファイバーソイルが持つメリットを教えて下さい。

繩手さん:メリットはいくつかありますが、あえて二つあげると、一つ目は「軽い」ことです。野菜の栽培や園芸に必要な土を入れたプランターは重たいので、頻繁な持ち運びがつらく感じることがあります。その点、ファイバーソイルはとても軽く土の約5分の1の重さ。水を含んでも十分軽く、プランター移動時などの負担を軽減できます。二つ目に「汚れない」というのも大きなメリット。手が汚れることを気にせず作業ができますし、水やりなどで鉢の土が流れ出し、ベランダで排水溝が詰まることもありません。マンションのベランダなどの洗濯物を干すなど生活スペースと共有するような、限られた場所での植物管理には最適な資材だと思います。

mySDG編集部:とても手軽に植物の栽培ができそうですね。しかし、ファイバーソイルは、もともとの原料がフェルトなので土のような栄養分がないそうですね。上手に育てるにはどうしたらよいのでしょうか?

繩手さん:そうなんです。ファイバーソイルには土のような栄養分が含まれていないので、肥料としてホームセンターや園芸店で販売されている固形肥料や液体肥料を使用していただくことになります。それに、一般の方にファイバーソイルを取り入れてもらうには、育てる植物に合わせた肥料をセット販売するなど、初期導入のハードルを下げる工夫が必要だと思います。

当社は回収ボックスから古着回収をしていますので、今後ファイバーソイルで野菜や植物を育て、消費者の方が楽しむことができれば、あらためて古着回収へのきっかけや促進に繋がり、良い循環を生んでくれるのではないかと期待しています。そのために、最適な肥料の研究開発を続けお届けできるように尽力していきたいと思っています。


ファイバーソイルで栽培したシソの葉(手前)とバジル(奥)

mySDG編集部:ファイバーソイルの使用期間についてなのですが、連続で10年使用できるそうですね。連作障害も抑えられるとか。

繩手さん:はい。当社でも同じプランターで花を育てたり、種を撒いたりして続けて同じファイバーソイルを使っていて、実験では連続10年使用ができる結果がでています。土ではないので連作障害も出ていません。共同開発されたアースコンシャスさんでは、地球環境に配慮したリサイクル製品として、壁面緑化用植生基盤材のアースグリーンマットとして壁面用に加工されたファイバーソイルが商品化されています。しっかり植物が育っていて、壁面緑化資材としてすでに実用化されています。農業生産用として超軽量リサイクル繊維媒地「生産革命」としての販売もしています。
このように、まずは一般消費者の方に土の代替品になる新しい資材があることを知っていただきたいです。その後、ファイバーソイルの活躍の場を増やしていきたいですね。

mySDG編集部:ポリエステル培地への理解や関心、ファイバーソイル認知の広がりはいかがですか?

繩手さん:おかげさまで最近、多くの方から興味を持っていただき、お問い合わせも増えています。ただ、新しい資材ゆえにわかりにくい部分があり、手に取っていただくには課題がいくつかあります。こうした部分も今後改善していきたいですね。

■捨てずにリサイクルへ、古着は役立つ原料となる

さまざまな色の古着を裁断したウエスは、さまざまな企業でこっそり活躍しています。

mySDG編集部:ファイバーソイルや御社の事業を通じて、広まってほしいSDGs活動はありますか?

繩手さん:繊維のリサイクルがさらに広まってほしいですね。アパレル業界のCO2排出量は世界21億6百万トン、日本は9千5百23万トンと、世界排出量の4.5%相当に値します。(※2020.3環境省調べ)まずは足元の繊維リサイクルが進むことで、日本のアパレル業界のCO2排出量削減へ貢献できると思います。そして、日本のアパレル業界が持続可能でいられるように、私たちのような消費者の先にある企業が、リサイクルという形で努力を重ねていることも広く知っていただきたいと思っています。

実は、私は入社して初めて古着の用途や流れを知り、リユース販売からポリエステル培地に至るまで、想像以上に幅広い活用方法があることに驚きました。一般の方からすると、服をリサイクルBOXに入れ、手放したあとのイメージしづらいと思いますが、古着は十分社会の役に立つ素材や原料になり得ていることを多くの方に知ってほしいですね。

mySDG編集部:今後の目標や展望をお願いします。

繩手さん環境省の調べでは、家庭から手放された衣類の64.8%が廃棄されているそうです。まだまだリサイクル率が低い要因には、古着を資源として提供する場所が少なく足りていないのではないかと感じています。ですから当社は回収BOXを増やしていく取り組みをしていきたいと思っています。

以前は当たり前だったビニールの買い物袋に代わり、今ではマイバッグが主流になったように、服を「捨てる」ことから「リサイクル」することが当たり前になる世の中を目指しています。
そのために、古着からアップサイクルされたファイバーソイルを広め、作物や植物を育てる際にふつうの選択肢としてファイバーソイルを手に取れるようにする。その製品の成り立ちを知ることで、古着回収への意識も上がり、リサイクルが当たり前になるのではないかと思います。

mySDG編集部:回収ボックスはどこにどれくらいあるのですか?

繩手さん:現在は地域密着で活動しています。安城市内にて回収を行っています。三角屋根の青色のボックスは、スギ薬局岡崎欠町店調剤薬局コーナーに設置してあります。お隣の安城市内では、屋外の空地スペースに古着の回収BOXを3カ所設置しています。屋外回収BOXは24時間365日いつでも受け入れ可能ですので、ぜひご利用ください。

【屋外用古着回収BOX】24時間365日受け入れ可能

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