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【取材記事】廃棄レザーが生み出すエコシステム 創業100年超 老舗ものづくりメーカーが挑むSDGs

今回お話を伺ったタカラベルモント株式会社(以下、タカラベルモント)は、2021年10月に創業100周年を迎えた老舗ものづくりメーカー。大阪・西成を創業の地とし、理美容室および歯科・医療クリニックに提供する業務用設備機器や化粧品を手がけています。

古くからものづくりに携わる企業として、SDGsが採択される以前からさまざまなサステナビリティ活動に取り組んでいる同社。なかでも近年は、理美容椅子やデンタルユニットなどのプロフェショナル用椅子の製造過程で生じる廃棄レザー(合成皮革)に新たな価値を与える活動「Re:bonis(リボニス)」を発足しています。

今回は、同社広報室の大田さんと久保さんに、タカラベルモントが注力するSDGs活動や、教育現場や地域と共創しながら循環型社会を目指す「Re:bonis」の取り組みについて伺いました。

【お話を伺った方】

タカラベルモント株式会社 広報室 大田彩乃(おおた・あやの)さん
2021年タカラベルモント入社。社内報作成やSDGs意識向上のためのイベントなどを担当。また社内のサステナビリティプロジェクトにも参画し、事業活動に落とし込んだサステナビリティ推進を目指し活動している。
タカラベルモント株式会社 広報室 久保直美(くぼ・なおみ)さん
1988年タカラベルモントに入社後、理美容事業部広報担当を経て、2013年広報室立ち上げに伴い異動。社外広報をメインに、パーパス「美しい人生を、かなえよう。」のもと、従業員や社会の「美しい人生」のための活動に取り組んでいる。


■創業100年超・大阪発ものづくりメーカーが取り組むSDGs

理美容室や歯科・医療クリニックで使用する業務用設備機器や化粧品を開発・製造・販売している

mySDG編集部:まずは事業内容について教えてください。

大田さん:弊社は、理美容室向けのスタイリングチェアやシャンプー台などの設備機器、プロフェッショナル用化粧品を手がけるほか、歯科・医療クリニック向けにはデンタルユニットや産婦人科検診台などを製造・販売する総合メーカーです。国内のみならず、12か国・地域に現地法人を持ち、120を超える国でも弊社の製品をご利用いただいております。

なかでも、フルフラットになるシャンプー台を開発し美容室の定番メニューとなっている「ヘッドスパ」。このメニューを開発したのが弊社です。他にも産婦人科検診台は、現在のような診察用の椅子がゆっくり回転・上昇・傾斜し、診察姿勢になる検診台を日本で初めて発売しました。これは産婦人科検診における患者さんの心理的負担を軽減するデザインとなっています。このように業界の新たなスタンダートを創出してきました。

mySDG編集部:確かに産婦人科の検診・診察は心理的な負担が大きく、それだけで足が遠のき、病気の発見などが遅れるリスクもあります。世の中への大きな貢献ですね。

大田さん:ありがとうございます。さらに私たちは設備機器の提供にととまらず、サロンやクリニック開業に向けた空間設計や経営サポートなど、開業からアフターサポートまで一気通貫して事業を支援しています。

mySDG編集部:御社はSDGsが採択される以前から、サステナブルな取り組みをすでに実践されていたとか。

久保さん:はい。弊社は古くから化粧品事業を展開していますが、化粧品業界自体、環境に負荷をかけないということに意識が非常に高い業界です。そのためSDGsという言葉が出る以前から、環境に配慮し、いち早く排水への配慮や節水に着目した商品の開発など、原料レベルから環境負荷や安全性に独自の基準を設けて、製品を展開してきました。

mySDG編集部:今では幅広い領域まで活動を広げていらっしゃいますね。御社のWebサイトでもさまざまな取り組みが紹介されていますが、特に力を入れているのはどの取り組みでしょうか?

大田さん:3月8日国際女性デーと、のちほど詳しくお話しする廃棄レザーに新たな価値を与える活動「Re:bonis(リボニス)」です。国際女性デーについては、特に美容業界も医療業界も女性の働き手が重要になってきます。業界を盛り上げるためにも、女性たちをエンパワメントしたいという思いから、国際女性デーには、創業の地・大阪を拠点にトークイベントを開催したり、コミュニティーラジオでの特別番組を生放送したり、ジェンダーにまつわる情報発信を行っています。

今年の国際女性デーでは、トークイベントで放送作家の野々村友紀子さんをお迎えし、女性たちに向けて自分らしく生きるためのメッセージをいただきました。また、コミュニティーラジオでは大阪や世界で活躍する3名の女性たちをゲストに、自分らしく生きていくための秘訣や過去の経験から自分らしい生き方を考える2時間番組を放送しました。

今年は国際女性デーの前日に「ワタシらしく生きていこう!」をテーマに、放送作家の野々村友紀子さんをお迎えしたトークイベントを開催

■廃棄レザーに新たな価値を与える「Re:bonis(リボニス)」の誕生

約140種類の多彩なカラーの廃棄レザーを活かし、新たな役割と価値を与える

mySDG編集部:「Re:bonis」については、具体的にどういった背景で立ち上がったのでしょうか?

大田さん:「Re:bonis」は2021年6月に発足した、自社工場発の活動です。弊社は、理美容室向けのスタイリングチェアやデンタルユニットなど、プロフェッショナル用の椅子を手がけていますが、椅子のシート部分の製造時は合皮レザーを椅子1台分のパーツごとにレイアウトしてカットしていきます。その際にやむなく廃棄する端材が、1年間で約26トンも生じていたんです。そこで、大阪・滋賀機器工場の現場から「廃棄レザ―をアップサイクルできないか?」という声があがり、立ち上がった経緯があります。

久保さん:端材となるレザーは産業廃棄物として燃やしてしまうため、やはり環境にも良くないですし、廃棄費用もかかってしまいます。余剰部分が極力発生しないよう裁断のプログラムを設計し裁断を行っていますが、レザー面積の約20~30%が廃棄レザーとして発生してしまうんです。そこで創業100年を前に、ものづくり企業として次の100年に向けた持続可能な取り組みとして、「Re:bonis」をスタートさせました。

mySDG編集部:ちなみに「Re:bonis」という名前は、どういった由来があるのでしょうか?

大田さん:ちょっと大阪っぽくダジャレのような感覚でつけたものなのですが、「理美容椅子+再生(reborn)」を掛け合わせた造語から生まれています。「リボーンする椅子」だから「リボニス」みたいな感じですね(笑)。

mySDG編集部:なるほど、ありがとうございます(笑)。第一弾として、従業員向けネームホルダーを製作されたそうですね。

多彩なカラーバリエーションを生かし、一点一点のパーツカラーが異なるデザイン

大田さん:はい。創業100年を記念し、国内外約3,000人のスタッフに向けて製作しました。毎日身につけるネームホルダーにすることで、SDGsについて考えるきっかけになればと、企画しました。

今回は協業パートナーとして、大阪・阿倍野区に工房を構える、ものづくり集団「waji」さんをお迎えし、アイデア出しから伴走していただきました。wajiさんは、理美容師さん向けのシザーケースなどを製造・販売されています。私たちの業界とも近しく、今回お声かけさせていただきました。

その後、ネームホルダーの製作を皮切りに、社内外のノベルティとしてマルチケースや小物ケースを製作し、wajiさんとの協業で活動はどんどん拡大しています。2022年の活動では廃棄レザーを約1トン、削減することができたことは大きな実績です。

理容師、美容師向けレザー製品ブランド「aruci」などを展開するものづくり集団waji。全国の専門店やセレクトショップなどでオリジナル製品を販売している

■創業の地 大阪・西成発のファッションブランドと協業

「NISHINARI YOSHIO(ニシナリヨシオ)」を立ち上げた美術家の西尾美也(にしお・よしなり)さん(中央) 多彩なカラーの廃棄レザーを使って当社従業員がファッション作品に

mySDG編集部:2023年10月には、ファッションブランドさんと協業してイベントを開催されたそうですね。

大田さん:はい。2023年10月5日~16日に、大阪・西成発のファッションブランド「NISHINARI YOSHIO(ニシナリヨシオ)」と協業した企画展「最後のオプション」をTB-SQUARE osakaにて開催しました。

当社の廃棄レザ―を活用したTシャツやパンツなど、16点を制作し、展示しました。企画展初日にはミニファッションショーのほか、同ブランドの制作活動拠点である大阪・西成のkioku手芸館「たんす」という地域のものづくり拠点を運営する一般社団法人 brk collective代表・松尾真由子(まつお・まゆこ)さんと同ブランドを立ち上げた東京藝術大学准教授の美術家・西尾美也(にしお・よしなり)さんをゲストにお迎えしたトークショーも行いました。

「NISHINARI YOSHIO」を立ち上げた美術家・西尾さん(後列左から3人目)、一般社団法人 brk collective代表・松尾さん(前列左から3人目)、当社広報室の石川(同4人目)と、ショーモデルを務めた大阪工場従業員4名、作品を制作した6名の女性たち

mySDG編集部:どういった経緯から「NISHINARI YOSHIO」さんと協業されたのでしょうか?

大田さん:同ブランドの活動拠点である大阪・西成のkioku手芸館「たんす」という場所は、「ものづくり」を軸とした地域に開かれた創造の場で、元タンス店を改装し、<あるものを活かす>をコンセプトに活動しています。NISHINARI YOSHIOはここで生まれ、地域の女性たちの手により一つひとつ洋服が作られています。弊社の創業の地も西成であるということ、そして同ブランドでは古布を商品に再利用して洋服をデザインされている点に共感し、お声かけしました。

同ブランドのデザインアイデアを考えるのは西成の女性たちなんです。例えば酒屋で働いている女性がお店の奥さんのためにお酒の瓶にお花をいけるデザインを提案したり、焼き鳥屋で働く店員さんが腕を火傷しないようにと、袖部分に古布100枚使ったデザインをほどこしたり。彼女たちの生活空間から生まれたアイデアを盛り込み、洋服になっています。今回はそのアイデアをもとに、当社・大阪工場の従業員が実際に着ているユニフォームを使って廃棄レザーでデザインを施しました。

工場で働く職人のものづくりへの想いやこだわりを背中に刺繍した、“背中で語る”ベスト

mySDG編集部:イベントの中で、特に大切にされたメッセージはどのような点ですか?

大田さん:今回のイベントは、現在も工場をかまえる当社のものづくりの重要拠点「大阪・西成」をキーワードに、SDGs12(つくる責任つかう責任)を推進し、「Re:bonis」の活動を通じて地域社会へ貢献していきたいという思いから企画しました。創業以来、大阪・西成の方々に支えていただいたからこそ、当社はここまで成長できたという感謝の思いがあります。そのため、育てていただいたご恩をお返ししたいという思いも、「Re:bonis」の活動で大切にしていることです。

また、企業単体でサステナブルな活動を続けていくのはとても大変です。地域の方々の手で面白いアイデアを生み出しながら、みんなでアップサイクル活動を進めていこうというメッセージを発信できたように思います。

■地域のつながりを広げ、みんなでよりよい社会を作る

mySDG編集部:そのほか、「Re:bonis」の活動を通して、大切にしていることはありますか?

久保さん:アップサイクル以外にも、もう2点、大事にしていることがあります。ひとつは「教育」、もうひとつが「地域」です。教育に関していうと、中学校の生徒さん向けにワークショップを開催したり、美術の授業に廃棄レザ―を提供したり、教育現場でさまざまな活動を行っています。

なぜ教育に力を入れるかというと、まずは子どもたちに、ものづくりの楽しさを知ってもらいたいというのが一点。あとは、事業活動を通してゴミが出てしまうのは変えられない現実なので、その点をしっかり見てもらった上で、どうするかという具体的なアクションも考えてもらいたいという思いもあります。

mySDG編集部:先ほどのお話を伺った「NISHINARI YOSHIO」との協業についてもそうですが、「地域」というのは、「Re:bonis」の活動にとって大きなキーワードでもありますよね。

大田さん:そうですね。当社はBtoBの企業ですので、一般消費者の方々にはなじみのない会社だったりもしますが、当社の活動を知ってもらい、賛同いただく方が少しでも増えることを願っています。先ほども申し上げた通り、一つの企業だけでSDGsの取り組みを続けていくことはとても大変なため、地域の皆さんと手を取り合って、廃棄レザーをできる限り少なくする活動をともに続けたいと思います。

mySDG編集部:最後に、今後の展望をお聞かせください。

大田さん: 今回の地域との協業を通して、企業は産業廃棄物の問題に向き合う必要があり、ものづくり企業として、地域の皆様とともに社会課題と向き合っていきたいと強く思いました。そして私たちが大切にしている「アップサイクル」「教育」「地域」を意識しながら、単に廃棄物を減らすのではなく、地域をはじめ横のつながりを広げながら、みんなで手をつなぎ、サステナビリティ活動に取り組んでいきたいです。


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