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【取材記事】フードロスを削減するソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」。楽しくおトクなお買い物体験が社会貢献につながる仕組みづくりを実現

ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi(クラダシ)」を展開する株式会社クラダシ 。 フードロス削減を目指し、まだ食べられるにも関わらず、捨てられてしまう可能性のある商品をおトクに販売しています。さらに、売上の一部を環境保護・災害支援などに取り組むさまざまな団体に寄付し、SDGs17の項目を横断して支援しています。楽しくておトクなお買い物が、社会に良いことにつながる。そんな、全く新しいソーシャルグッドマーケットを創出しています。

今回は株式会社クラダシ・マーケティング部の溝口りりかさんに「Kuradashi」誕生の経緯やサービス立ち上げ時の課題、さらに2022年7月に実施したプランドリニューアルについてお話を伺いました。

お話を伺った方

株式会社クラダシ マーケティング部部長 溝口りりかみぞぐち・りりか)様
新卒で株式会社リクルートに入社し、人材領域のマーケティング業務に従事。社会課題をビジネスの力で解決するところに共感し、2021年に株式会社クラダシに入社。ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」のブランド戦略を担当しながら、現在はマーケティング部長も務める。

■“もったいない”を価値に変える。「日本で最もフードロスを削減する会社」を目指して誕生

mySDG編集部:まずはあらためて御社について教えてください。

溝口さん:2014年7月に創業して以来、「ソーシャルグッドカンパニーでありつづける」をミッションに掲げ、世の中に数ある社会課題をビジネスで解決するために設立しました。そのなかでもフードロスの問題に焦点を当て、「日本で最もフードロスを削減する会社」を目指して事業運営を行っております。

mySDG編集部:創業の経緯はどういったものだったのでしょうか?

溝口さん:創業の背景には、代表・関藤(せきとう)による2つの原体験があります。1つ目は、出身地の大阪で阪神淡路大震災を体験したことです。当時大学生だった関藤は、テレビで阪神高速道路がなぎ倒される様子を見て、困っている人をとにかく助けたいという想いからリュックに物資を詰め込んで現地に向かったそうです。しかし、一人でできることの限界を感じ、無力さを痛感します。そのときに、いつか困った人を助けられる持続可能な社会を創ろう、と強く感じたことがクラダシ創業のきっかけにつながったといいます。

mySDG編集部:たった一人の行動ではどうしようもできない現実があると知り、社会そのものの仕組みを変えることが必要だと感じられたのですね。2つ目の体験はどんなものだったのでしょうか?

溝口さん:2つ目は、関藤が商社マン時代に駐在していた中国での体験が元になっています。当時、中国は「世界の工場」と呼ばれ、世界中から安く大量に商材を輸入し、さらに安い労働賃金で大量に加工製造、大量に輸出するというビジネスモデルを確立していました。食品も含め、多くのものが廃棄されていく状況を目の当たりにして、いつか必ず環境面で大きな社会問題になると痛感したそうです。その際、“もったいない”をちゃんと価値に変えられるようなビジネスを作りたいという思いが強まり、時が来たらビジネスの力で解決しようということで、クラダシの設立に至ります。

■日本のフードロス量は年間522万トン。全体の約6割を占める事業系フードロスにフォーカス

mySDG編集部:「Kuradashi」では、通常の流通ルートでの販売が困難な商品を協賛価格で買い取り、お得な価格で販売するというビジネスモデルを確立されています。どういった背景から現在のビジネスモデルを発案されたのでしょうか?

溝口さん:まず根底には日本のフードロス事情があります。日本では年間522万トン(※1)のフードロスが発生しており、これは日本人が1人当たり、お茶碗1杯分のご飯を毎日捨てている計算になります。さらに日本人は、人口1人当たりの食品廃棄物発生量は世界で6位、アジアではワースト1位というところで、世界的に見てもかなりの量の食品を国民1人当たりが廃棄してしまっている状況です。

農林水産省データを基に株式会社クラダシが作成

mySDG編集部:なるほど。日本は世界的にもフードロスが多い国なんですね。

溝口さん:まさにそうなんです。しかし、日本はフードロスが多い一方で、子どもの貧困率は高く、7人に1人が相対的な貧困状態と言われています。さらに日本の食料自給率は37%(※2)となっており、6割以上を輸入しているにもかかわらず、その大半を捨ててしまっているという深刻な状況も抱えています。こういった背景もあって、昨今では「自宅での食べ残しはしないようにしましょう」「家庭で食べ切れる分だけ買いましょう」ということはよく言われるようになりましたよね。とはいえ、日本のフードロス量で実際に多いのは、家庭から出るフードロスよりも事業系のフードロスで、全体の約6割を占めています。

mySDG編集部:レストランや食品メーカーから出るフードロスのことですね。

溝口さん:はい。さらに事業系のフードロスの中でも6割程度を占めているのが、製造業から小売の卸のところで発生してしまうロスなんです。そのため、「Kuradashi」のサービスは設立当初から、フードロス問題がより深刻な製造業・小売業で発生してしまうロスを解消できるサービスを構想しました。

※1) 農林水産省 令和2年度推計値
※2) 農林水産省 カロリーベース総合食料自給率(令和2年度)

■ブランド価値の毀損を懸念する企業との100戦100敗の交渉。ブレイクスルーのきっかけとは?

mySDG編集部:現在「Kuradashi」の利用者数は35万人、パートナー企業数は累計990社にものぼるそうですね。順調にサービス拡大を実現されている中で、立ち上げ当初はどんな課題を感じられていたのでしょうか?

溝口さん:2015年2月に「Kuradashi」が誕生した当時は、フードロスの問題は今ほど課題視されていませんでした。そのため、多くの食品メーカーからは単なる安売りと捉えられてしまい、「企業のブランド価値が毀損する」と言われることもあったといいます。出品の理解を得ることはもとより、一緒にフードロスを削減しようというムードを作ることさえ、ハードルが非常に高かったそうです。

mySDG編集部:そういった意味では、アパレル業界も全く同じ状況かと思います。価格を下げて販売することで、ブランド価値が下がるなら廃棄してしまった方がいいという判断ですよね。

溝口さん:そうですね。サービス開始当初は、ブランド毀損になってしまうのではないか、「余ってしまう」=「人気がない」と思われるぐらいなら廃棄した方がマシという考えが、どの企業にもかなり根強くありました。そのため、まずは意識改革を行い、食品メーカーをちゃんと巻き込んで、フードロス削減の大切さを伝える啓蒙啓発していくというところから始めなければなりませんでした。代表の関藤いわく、協賛企業との交渉は100戦100敗が当たり前で、最初は本当に苦労の連続だったと聞いております。

mySDG編集部:とはいえ、現在は990社以上にものぼるメーカーの商品を取り扱っていらっしゃいますよね。風向きが変わったのはどういったタイミングだったのでしょうか?

溝口さん:パートナー企業が増え、さらに利用者が増えた背景の一つには、ここ数年でSDGsの機運が高まり、フードロスの課題自体に焦点があたりやすくなったことがあります。さらに、新型コロナウイルスの感染拡大もありました。これまでは企業にとって「恥ずかしいこと」「隠したいこと」だったフードロスが、コロナ禍で飲食店も閉まり、その飲食店に卸すはずだった食材も行き場をなくし、努力ではどうしようもない事象があらゆるところで発生しました。

mySDG編集部:当時は、助け合いの機運がかなり高まっていたように感じています。

溝口さん:コロナ禍という苦しい状況の中で、利用者の捉え方も「安売りしている」ではなく、「助けたい」という気持ちに切り替わったんだと思います。ここ数年の間で、この苦しい状況ををなんとか皆で乗り切ろうという空気に変わってきたことが、ターニングポイントになったように感じています。あとは、コロナ禍によって外食できなくなったり、お店に買いに出掛けられなくなったりしたことで、食品の購入先として「EC」という選択肢が増えたという背景もあります。

■誰もが楽しみながら気軽に「社会に良いこと」ができる世界へ。ブランドリニューアルに込めた想い

mySDG編集部:2022年7月7日に「Kuradashi」のブランドリニューアルを実施されたそうですね。リニューアルの背景や具体的な内容について教えてください。

溝口さん:サービス開始から7年以上が経ち、あらためて「Kuradashi」がどのような価値を届けていきたいかを考えたときに、社会に良いことを「堅苦しくてハードルが高いもの」ではなくて、「楽しくて気軽なもの」という文化を醸成していきたいと強く感じました。その想いを元に、サービスの核となるブランドパーパスも「楽しいお買い物で、みんな得するソーシャルグッドマーケットを創る」と再定義し、サービスサイトやロゴのリニューアルも実施いたしました。「Kuradashi」はフードロス削減につながるサービスですが、まず何よりも利用者に毎日おトクな掘り出しものが見つかるお買い物体験を楽しんでいただき、結果としてフードロス削減や社会貢献団体への寄付など「ソーシャルグッド」につながる。そんな体験を届けたいと考えています。そして利用者だけでなく、企業・社会・地球みんながトクをする、新しい「ソーシャルグッドマーケット」をさらに拡大していくため、ブランドリニューアルに踏み切った次第です。

mySDG編集部:リニューアルしたウェブサイトを拝見したのですが、眺めているだけですごくハッピーな気持ちになりました(笑)。それこそ小さいなお子さんからお年寄りまでもが見やすく、すごく使いやすい設計になっていますね。そのあたりにも、気を使われたのでしょうか?

溝口さん:まさに小さいお子さん含め、ご家族で一緒に楽しんで見られるという点は大事にしています。今回からオリジナルキャラクター(「フー」と「ドロス」)を誕生させて、さらに親しみやすい印象にもなっております。フードロス問題を解消するためには、小さい頃から食やフードロスについて考える——いわゆる「食育」を推進することも非常に重要なので、クラダシとしても力を入れたいと考えています。ご家族で一緒に見て学んでいただけたり、会話のきっかけになったり、そんな体験すべてを通して「楽しくて、みんなトクするお買い物」を創っていきたいと思っています。

■目指すはフードロス削減のインフラのような存在

mySDG編集部:今回リニューアルされたばかりではありますが、企業としてさらに目指す方向性など、今後の展望についてお聞かせください。
溝口さん:現在は、ソーシャルグッドマーケット「Kuradashi」として、フードロス削減を目指していますが、中長期的には日本のフードロス削減のインフラとして、必要不可欠な存在になりたいと考えています。そのためにも、“ソーシャルグッド”を本当に楽しくて気軽なものに変えていけるような仕組みづくりを今後さらに生み出していきたいです。
mySDG編集部:今回お話を伺って、子どもたちに社会問題を教えることはハードルが高いと感じていたのですが、「Kuradashi」なら楽しくお買い物しながら家族で社会貢献できますね。わが家も早速、実践してみたいと思います! 溝口さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


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