見出し画像

【取材記事】「世界一の履き心地」と「サステナビリティ」を両立。Allbirdsが発信するSDGs思想とテクノロジー

自然由来の素材にこだわり、カーボンフットプリント(製品ライフサイクルにおけるCO2の総排出量)を最小限に抑えたものづくりに取り組む「Allbirds(オールバーズ)」。サステナビリティのみならず、その柔らかな履き心地は米Time誌で「世界一快適なシューズ」と称され、世界中の著名人から絶大な支持を集めています。まさにSDGsを体現する同社の取り組みについて、マーケティングディレクターの蓑輪光浩さんにお話を伺いました。

【お話を伺った方】

Allbirds合同会社 マーケティングディレクター
蓑輪光浩(みのわ・みつひろ)さん
1974年生まれ。97年、ナイキジャパン入社。ショップスタッフ、ファイナンス、世界に1つだけのオリジナルスニーカーが作れるサービス「NIKEiD」のブランドマーケティング、広告戦略などに携わる。11年よりユニクロでスポーツ選手の広告起用や商品開発、各国のショップのオープンなどグローバルな仕事を手掛けた後、16年よりレッドブルに勤務。Z世代を巻き込んだイベント運営などを行う。18年にビル&メリンダ・ゲイツ財団プロジェクトマネージャーに就任。19年より現職。


■サステナブルと履き心地を追求したシューズブランド「Allbirds」

mySDG編集部:Allbirdsのブランドストーリーから教えてください。

蓑輪さん:Allbirdsは、元サッカー・ニュージーランド代表のティム・ブラウンとバイオテクノロジーの専門家ジョーイ・ズウィリンジャーが2016年に米サンフランシスコで創業したシューズブランドです。ティムはこれまでサッカー選手としてプレー向上のため、 足のフィット感やデザインを追求してきた人物。靴に対して強いこだわりを持っています。一方、ジョーイは化石燃料素材で作られた従来のビジネスに疑問を持ち、エコなマテリアルを開発してB2Cで販売したいと考えていました。そんな2人が手を組み、サステナビリティと快適な履き心地、洗練されたデザイン性を兼ね備えたAllbirdsが誕生します。

mySDG編集部:創業当初から環境負荷の低減を重要視されているのが、シューズブランドの中でも特に印象的です。

蓑輪さん:そうですね。Allbirdsは「ビジネスの力で気候変動を逆転させる」というパーパスを掲げ、パーパス達成のためにカーボンフットプリント削減を実践しています。そもそもカーボンフットプリントの排出量を減らすには実際にどれだけの量が排出されているのか知らないといけないわけです。そのためAllbirdsでは、カーボンフットプリントを算出できる「ライフサイクルアセスメント(LCA)ツール 」を専門家と共同開発し、測定したカーボンフットプリントを全製品に表示し、オープンソースにしています。そうすることで消費者も「同じデザインなら環境負荷の低い方を買おう」という意識と行動の変化が生まれるでしょう。今後Allbirdsとしては、素材や輸送方法、燃料・電力の使用についてさらに環境配慮を図り、2025年までにはカーボンフットプリントを2019年ベースと比べて半分に、2030年にはほぼゼロにする目標を掲げています。

素材調達から廃棄に至るまでのライフサイクルを5つの段階に分けて、各段階での排出量を測る

mySDG編集部:サステナブルなものづくりという視点から、プロダクトの魅力を教えてください。

蓑輪さん:一つは天然素材を使用している点です。石油由来の合成素材を可能な限り天然素材に置き換え、代替素材が見つからない場合は独自の素材を開発しています。例えば羊の毛である「メリノウール」は通気性・保温性に優れた天然素材です。主にアッパーやインナーに使用しています。一方、従来のソールにはEVAという石油由来の素材が使われることが多いため、代用品となるものが見つかりませんでした。そのためサトウキビから新たなミッドソールを開発し、誕生したのが「SweetFoam®(スウィートフォーム)」です。素材にサトウキビを選んだのは、光合成を通じて効率よくCO2を吸収する植物であること、雨水のみで成長し、化学肥料を使用しないという理由からです。そのほかにも再生ポリエステル、ヒマシ油、ユーカリの木の繊維を使用するなど、環境に配慮した素材にこだわっているのが製品の大きな特徴です。

とはいえ、サステナビリティだからといって、消費者は商品を買ってくれるわけではありません。結局は、自分のスタイルに合うか、さまざまなシーンで使える汎用性があるか、価格帯もお財布の中身と折り合うかなど、条件にフィットすることが優先事項。その条件が満たされてはじめて「サステナビリティであること」に着目するわけです。やはりデザイン性や履き心地も担保されないといけないので、シューズとしての質の高さは一切妥協していません。

■消費者にサステナブルな商品を手に取ってもらうためには?

mySDG編集部:Allbirdsの購買層はどのあたりになるのでしょうか?
蓑輪さん:平均価格が1万5,000円ということもあり、だいたい25〜40歳の年齢層ですね。学生の方にも購入していただきたいのですが、価格的に厳しい面もあるので、社会人になって経済的に余裕が出てきたり、それこそ年齢を重ねて次世代のことを考え始めたりする年代の方がコアゾーンになります。

メンズ人気No. 1の「Wool Runner Mizzles」。天然由来の撥水シールドで雨の日の歩行も快適
ウィメンズ人気No. 1の「Tree Breezer」。高いフィット感と軽やかな履き心地が◎

mySDG編集部:服や靴に限らず、サステナビリティを意識した商品は、素材や質にこだわって作られているがゆえ、手に届きにくい価格帯でもあります。いくらサステナブルで良い商品であっても、購入されないと意味がありません。その点、今後企業は消費者に対して、どのようにアプローチしていくべきなのでしょうか?

蓑輪さん:やはり「お買い物」というアクションが何かしらの問題に関係していることを社会が認識していかなければなりません。社会課題への意識とお財布事情とのギャップが埋まっていかないとなかなか解決できないわけです。ただ、現状の日本ではこのギャップを埋めるのは非常に難しい。というのも、僕が思うにそれは危機意識の問題だと思います。例えば住んでいる土地の気候が大幅に変化していると感じれば、環境に対する個人の意識やアクションはかなり変わってきます。Allbirds本社のある西海岸に住むスタッフと話をすることがあるのですが、「近くで山火事があって、最近街がすごく臭いんだよね」なんていう話が日常的に交わされます。もちろん日本にも台風や地震の問題はありますが、近くの森が燃えているわけでも、海面上昇して住む場所がなくなるわけでもない。雪も毎年それなりに降っています。実際に気候変動が生活を脅かしていることを体感している地域に暮らす人々と比べ、日本人はまだ恵まれた環境にある分、気候危機への意識を持つことが難しいと感じています。

ただ、人々の意識に変化を起こすには、ブランドの役目として、「SDGsのアクションはかっこいい」と思わせなきゃいけないと思っています。先日、サッカーワールドカップで日本人のゴミ拾いが話題になりましたが、これはまさに面白い事例ですよね。彼らがなぜワールドカップの会場でゴミ拾いをしたかというと、一つは日本人の道徳と美意識、そして日本代表だという意識。もう一つは、ゴミ拾いはかっこいいというレピュテーション(評価)が生まれているからだと思います。どうして海外でゴミ拾いをやるのかといったら、みんなからレピュテーションを受けてちょっと気持ちがいいからと思う人はいるはずです。それと同じように、環境に優しくて、人道的な取り組みを行うブランドやプロダクトを支持することが、当たり前にかっこよくて、称賛されるような世界を作り出していくことが今、企業に求められることだと思います。

■ノルディックスキー複合の渡部暁斗選手と立ち向かう気候変動問題

ノルディックスキー複合の渡部暁斗選手

mySDG編集部:サステナブルな取り組みの中で、特に広めていきたい活動について教えてください。

蓑輪さん:ノルディックスキー複合の渡部暁斗(わたべ・あきと)選手と今季よりパートナーシップ契約を結び、気候変動問題に共に取り組んでいく予定です。彼は試合のたび、ヨーロッパのアルプス、カナダ辺りを転戦しています。日本から飛行機で移動するため、非常にたくさんのCO2を排出してしまいます。ホテルにも滞在しますので、大体70tぐらいのCO2排出するわけです。我々はその70tのCO2を買い取って、彼のホームタウンである長野県に植林することによってカーボンオフセットを行います。

通常であれば、スポーツ選手はスポンサーからスポンサー料を受け取るわけですが、渡部選手はその代わりに自分のホームタウンに植林して気候変動の問題を喚起していきたいということでビジョンが一致して、契約に至りました。オフセットすることは究極の手段ではなくて、究極はCO2を出さないことです。しかし余儀なく出してしまうなら、オフセットして対策を打ちましょうと。今後は渡部選手とも色々と話し合い、例えば「この移動は飛行機を避けましょう」とか、「環境負荷が減りそうな再エネのホテルに泊まるようにしましょう」といった具体的な行動の変化が生まれると考えています。

mySDG編集部:数値で見える化して、行動に変化をもたらすことは重要なことかもしれませんね。

蓑輪さん:そうですね。見える化の一つとして今の時代は、カーボンフットプリントとカーボンオフセットがあると思います。オフセットだけしている場合ではなくなるので、企業としては環境に配慮された商品やサービスをどうやって消費者に提供するのか、一方消費者は価格の問題を含めてそれらをどうやって受け入れていくのか、さらに政府側は消費者をどう支援していくのか。若者の意識が変わっても経済的な事情で買えない実態は出てきてしまうので、そのあたりを個人と企業と行政、この3つをリンクさせることが今後求められると思います。

■次なる展開は「100%ヴィーガン素材」。自然の豊かさを巡らせる

mySDG編集部:2030年までにカーボンフットプリントをゼロにするという目標を掲げていますが、残された時間は10年をきっています。今後の展開はどのようにお考えですか?

蓑輪さん:直近の話ですが、2023年には100%ヴィーガン素材のレザーを用いた商品を発売します。マッシュルームやリンゴ、パイナップルなど、色んな植物性のレザーはありますが、実は石油系の接着剤をつなぎとして使用しているものが多いんです。我々としては石油由来の素材は避けなければならないので、今回は天然ゴム、柑橘の皮や豆、お米のもみ殻を配合して代替え品を独自に開発しました。

2023年は天然素材や自然のありがたさを伝えたり、自然を享受できるような場所でイベントを開催したり、自然が持つ豊かさを感じられる商品やサービスを展開していきたいと考えています。

mySDG編集部:かけがえのない自然の存在をあらためて理解することで、人々の環境へのアクションも変わってくるのかもしれません。今後の展開にますます注目していきたいです。蓑輪さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。


【店舗情報】
Allbirds 原宿(オールバーズ原宿)
東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森ビル1階 JR原宿駅竹下口より徒歩1分
営業時間:10:00 ~ 19:00 不定休

Allbirds 丸の内(オールバーズ丸の内)
東京都千代田区丸の内3-4-1 新国際ビル1階 105区
営業時間:11:00 ~ 20:00 不定休
※ 金土・祝前日は20:00まで営業

Allbirds 大阪(オールバーズ大阪)
大阪府大阪市北区大深町4-20 グランフロント大阪 南館5F
営業時間:11:00 ~ 21:00 不定休

【Online Store】
URL:https://allbirds.jp/
アイテム:シューズ、アパレル、ソックス、アンダーウェア
送 料:無料(日本国内のみ)
返品交換:30日以内であれば無料


この取り組みが参考になりましたら、ぜひいいね・シェア拡散で応援をお願いいたします🙌
mySDGへの取材依頼・お問い合わせは mysdg.media@bajji.life までお気軽にご連絡ください。


この記事が参加している募集

#SDGsへの向き合い方

14,720件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?