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The Case for Israel――いま観ておきたいドキュメンタリー

 10年以上前に制作されたドキュメンタリー作品がある。アラン・ダーショウィッツというアメリカの法律家による「The Case for Israel」である。同氏による同名の書籍は2010年、邦訳版が発刊されている。

 英語の「case for~」という表現は、「証拠を挙げて論証する」といったニュアンスの裁判用語である。なぜイスラエルばかりが国際社会から非難されるのか。様々な疑問を32のケースに分類し、ケース毎に「告発」「告発人」「真実」「立証」という項目を立て、それぞれ論破していくという裁判形式に仕立てている。例えば第1章は「イスラエルは植民地主義、帝国主義国家か?」といった具合だ。上記の書影が詳細ページにリンクされているので、クリック/タップして目次だけでも読んでいただくと、何について論じられているかお分かりいただけるだろう。



カーター著書の内容を検証する

 ジミー・カーター元米大統領は2006年『Palestine: Peace Not Apartheid』(パレスチナ:アパルトヘイトではなく平和を)という著書を出版した。ダーショウィッツが「この偏見に満ちた書を、正確な史実に基づいて正していく必要がある」と語るところから、本ドキュメンタリーは始まる。

 カーターが「議論を促すために本書を出版した」と言っていることから、ブランダイス大学がダーショウィッツとの議論の場を設けた。しかしカーターは「議論はしたくない。独りで壇上に上がりたい」と主張し、「パレスチナ人の迫害と弾圧の原因は一部のイスラエル人の土地支配欲である」などと一方的に自説を述べ、逃げるようにその場を立ち去った

 ここからダーショウィッツの反論が始まっていく。

動画の構成

 本編は次のような構成になっている。

・糾弾(1:46~)
・歴史的史実(9:26~)
・民主主義と困難な選択(24:07~)
・正義(43:16~)
・脅威(57:02~)
・不屈の精神(1:09:38〜)

 考古学者によるイスラエルの正当性をはじめ、1948年5月14日に国連総会で決議された「パレスチナ分割案」、1975年の国連決議「シオニズムは人種差別」の映像など、歴史的なアーカイブを交えて歴史を紐解き、何が問題の本質なのかをあぶり出していく。

述べ30人にインタビュー

 法学部の生徒に授業を行ないつつ、ダーショウィッツは30人近い人にインタビューを行なう。インタビューで語るのは次の人々である。

デニス・ロス(元米国中東特使)
アムノン・ルービンシュタイン(イスラエルの法学者・元文部相)
ビンヤミン・ネタニヤフ(イスラエル首相)
ベニー・モリス(ベングリオン大学歴史学教授)
エイラット・マザール(ユダヤ民族考古学研究所所長)
イスラエル・キムヒ(イスラエル学エルサレム研究所)
ガブリエル・バルカイ(聖書考古学教授)
キャロライン・グリック(中近東安全保障政策センター)
ドール・ゴールド(元イスラエル国連大使)
ミハエル・オーレン(シャレム・センター上級研究員)
ダン・ギラーマン(前イスラエル国連大使)
ダニエル・ディカー(エルサレム広報センター)
アハロン・バラク(元イスラエル最高裁長官)
シモン・ペレス(イスラエル大統領)
アーウイン・コトラー(前カナダ法務相)
アレックス・サフィアン(中東報道正確度調査委副所長)
ナタン・シャランスキー(元イスラエル副首相・建設相)
オフェル・メイタル(イスラエル国防軍陸軍中佐)
エフード・バラク(イスラエル国防相)
エイタン・シュワルツ(人権活動家)
フィリス・チェスラー(作家・精神治療士)
ミッキー・ローゼンフェルト(イスラエル警察庁警部)
エリエゼル・シュケディ(イスラエル空軍司令官)
ジェラルド・スタインバーグ(バルイラン大学政治学教授)
ダビッド・ビンヤミン(イスラエル国防軍陸軍中佐)
アン・バエフスキー(ヨーク大学国際人権法教授)
ジョナサン・サルナ(ブランダイス大学ユダヤ史教授)
ツィッピー・リブニ(前イスラエル外相)

※登場順、肩書きは当時のもの

平和はいつ訪れるのか

 本作の結語として、1977年にイスラエルを電撃訪問したエジプトのアンワル・サダト大統領のメッセージを選んでいる。イスラエルで彼を出迎えた中の1人に、1973年のヨムキプール戦争(第4次中東戦争)でエジプトと戦った際のイスラエル首相ゴルダ・メイールがいた。

 彼女はこう語っている。

 何年も前に尋ねられたことがあります。
 「平和はいつこの地域に、この国に、近隣諸国に訪れると思うか」と。
 私の答えはこうです。
 「いつの日かは分からないが、どうなったら平和が来るか知っている。それは、偉大な指導者がアラブの国から出現する時、彼がある朝目覚めて、戦場で倒れた自分の同胞と息子に申し訳ないと思う時、その日こそ、私たちと彼らに平和が始まるでしょう」

ゴルダ・メイール

 これにサダトは呼応する。

 メイール女史と私が共に始めた和平プロセスが継続し、繁栄することを希求しようではありませんか。イスラエルとアラブ世界に住む全ての寄留者、婦女、人々が満足する平和を願おうではありませんか。

アンワル・サダト

 そしてダーショウィッツは次のように結ぶ。

 パレスチナ指導部が明確に表現していることは、自分たちの国家建設を願うよりも、ユダヤ国家撲滅を願っていることです。ユダヤ国家の破壊を願う以上にパレスチナ国家の建設を願い始めたら、その時こそ、ついに国家の解決となります。

アラン・ダーショウィッツ

 ハマスによる奇襲攻撃から2週間経ち、ガザでの地上戦が始まろうとしている今こそ、観ておきたい作品である。


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