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フジ子・ヘミングに寄せて

今朝、メールで知った。
フジ子・ヘミングさんが亡くなられたと。
わたしの人生には無くてはならないピアニストだった。

海外暮らしで
泣きたくても泣けずに踏ん張っていた頃
いつもフジ子・ヘミングをかけていた。
イギリスのバンガロータイプの家の2階には
広い踊り場があり、
屋根に沿った三角形のそこは
大きな天窓があって
星降る夜が眺められた。
疲れ果てて備え付けの形も崩れたソファに横たわり
空と雲を眺めていた。
ラカンパネラが終わるとまた初めから聞き直し。
フジ子・ヘミングの悲しいけど深い慈愛に満ちた
キラキラした音がなかったら
どうやってどん底から這い出すせただろうかと
今思う。
たいして音色の良くない安物のCDラジカセは
いつもカタカタいいながら優しい音色を奏でていた。
部屋の絨毯は真っ赤で私が選ぶ色ではないが
あの古びた図書館みたいな匂いのする二階の踊り場が
当時のわたしのくつろげる空間だった。
赤い絨毯の小さな部屋とフジ子・ヘミングを
いつも思い出す。
フジ子・ヘミングが亡くなった。
わたしの一時代が終わったのだ。
さっきフジ子・ヘミングをかけた。
相変わらず力強いけどふんわりと優しい
そして許された気持ちになる音。

初めてのフジ子・ヘミングのコンサートは
ロンドンのSt.James’s parkの教会だった。
ロンドン郊外に住んでいたので夜の外出は久しぶりだった。
特にフジ子・ヘミング好きではない友人を誘ったのは
夜のヴィクトリアステーションから1人で列車に乗るのが怖かったから。
教会に着くと暗闇だった。
ポツポツと灯る蝋燭の灯りが室内を照らし
異国情緒に溢れていた。
着席しほどなくするとフジ子・ヘミングが現れ
英語だったと思う。
少し紹介されてからいきなり弾き出して
薄暗闇の教会に音が響き渡った。
あの様な美しいピアノの音色が
天高く踊りだし
教会中を駆け巡る夜をわたしは知らない。
都内のフジ子・ヘミングのコンサートにも足を運んだ。
パリのコンサートにも。
勿論、拍手喝采の素晴らしいコンサートだった。
涙を流す人も沢山居た。
わたしもだ。
しかし
あのロンドンの教会でのコンサートは
特別な物だった。
後にも先にもあの精霊と共にある
厳かな雰囲気の中
心に響き
全身を音が貫いた感覚は
未だかつて味わっていない。

フジ子・ヘミングが亡くなった。
時代が終わった。
享年92歳であった。
最後に行った紀尾井ホールのコンサートは
手押し車を押しながらそれでも舞台に立ち
2時間の美しい調べを凛と奏でて下さったフジ子さん。
貴方を忘れません。
わたしも生きていく。

フジ子・ヘミング

2024/4/21 永眠

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