研究)「潜在看護師の復職支援」ー3-3.病院による対策 3-4.教育機関による対策

3-3.病院による対策

 病院では、新人看護職員卒後研修を行うとともに、独自の取り組みを行っているところも存在する。

 杏林大学医学部付属病院では、新人看護職員卒後研修が努力義務化された平成22年より以前の平成19年から、
独自の新人看護職員教育システム「アプリコットナースサポートシステム(ANSS)」(19)を導入している。

ANSSは、チームによる支援体制をとることで、
看護職員全員で、新人看護職員を育てていくことを重視しているシステムで、以下の4つを目的としている。

第一に、新卒看護師がいつでも聞きたいときに聞けるシステム。
第二に、新卒看護師が次の行為に自信を持って進めるシステム。
第三に、教育する側、受ける側も余裕を持てるようなシステム。
第四に、教育プログラムと評価に整合性があるシステムである。

 具体的には、「新卒看護師教育スケジュールパス」と呼ばれる年間計画を基本に、
新卒看護師の看護技術等の実地指導および到達目標の到達状況を定期的に評価し、
研修担当者以外の看護師も教育・指導にあたることを基本としている。
杏林大学医学部付属病院では、ANSSを導入してから、
新卒看護師のインシデント(ヒヤリ・ハット)件数や離職率の減少が見られている。

3-4.教育機関による対策
 教育機関における対策としては、聖路加看護大学の行っている「総合学習(チームチャレンジ)」(20)が挙げられる。  

 これは、4年次に行われる選択実習の1つであり、
「看護基礎教育課程で修得する看護実践能力と臨床で求められる看護実践能力とのギャップを縮める実習の在り方の探求」を目的としている。

 学習の内容は、看護学生が病院にて3週間実習を行い、
その間、複数の患者を受け持つというものである。
一般的に、看護学生の間に行われる実習は、受け持ちの患者が1人であり、
その人のことだけを最優先に考えておけばよい。
また、学生の間は無資格のため、できるケアが限られていたり、ケアのしやすい患者の担当となったりする。
しかし、実際の医療現場では少なくとも7人以上の患者を一度に受け持ち、
ケアのしやすい患者ばかりではないため、全ての患者に対して手厚いフォローをしたいと思っても、
なかなか現実的にはそれが難しいという、理想と現実のギャップに悩むこととなる。

 そのような、実際の医療現場で看護師として働く際のギャップを見据えた、
複数の患者を受け持つこの学習では、「優先順位の判断」と「時間調整」が課題となり、
「一人ひとりの患者へのケア内容を判断」していくことが求められる。

そのため、新人看護師が経験するリアリティショックの中核である「理想と現実のジレンマ」を
学生の間に体験することができるのである。
学生、実習先の病院看護師ともに高い満足度を誇るこの学習は、
働き始めると、このようなジレンマに遭遇するのだということが分かっていることにより、
実際に働き始めてからのリアリティショック緩和に繋がることが期待される。

(17)第171回通常国会 衆議院本会議(2009):保健師助産師看護師法及び看護師等の人材確保の促進に関する法律の一部を改正する法律案.

(18)厚生労働省(2011):新人看護職員研修ガイドライン.

(19)杏林大学「教育支援体制」,< http://www.kyorin-u.ac.jp/hospital/nurse/education/anss.html>2015年1月6日アクセス.

(20)松谷美和子、佐居由美、大久保暢子、奥裕美、石本亜希子、中村綾子、佐竹澄子、安ヶ平伸枝、西野理英、高井今日子、寺田麻子、岩崎寿賀子、井部俊子(2009):「看護基礎教育と看護実践 とのギャップを縮める「総合実習(チームチャレンジ)」の評価ー看護学生と看護師へのフォーカスグループ・インタビューの分析ー」,聖路加看護学会誌,Vol.13 No.2

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