もっとも優れた純文学が決まりました。
第169回芥川賞は市川沙央さんのハンチバックでした(おめでとうございます)。
今回からは、文藝春秋9月号に掲載されている第169回芥川賞選評を紹介します。選評を通じて、作品を複数の異なる視点から見ることで感じられる多面性について考えてみたいと思います。
今回はまず受賞作の「ハンチバック」の選評からです。
それでは、どうぞ。
ハンチバック選評
芥川賞受賞作「ハンチバック」の各選考委員の選評で、時に気になったところは以下です。
松浦寿輝
そうですね、読み手の情動を激しく撹拌してくる、マウンティングしてくる1冊でした。問題のラストシーン、作者の本意と読み手の受け取り方にはどれだけのギャップがあるのだろう?!
小川洋子
釈華の行動は他人を見下すことが目的であると。社会での、個人のアンバランスさを調整するためではなく?!そうなのかもしれない💦
奥泉光
そうですね、力のある作品。構成的、技術的な側面よりも、言葉そのものの力に焦点を当てた選評です。
平野啓一郎
読者に対して挑戦的な問題提起。我々が生きるこの社会でこの作品がどう捉えられるか?どう消費されるか?
吉田修一
多様性というモンスターを、脆弱な我々の社会はどう受け入れるのか?もう時間も猶予もない?!
島田雅彦
島田先生のマチズモにはいつも楽しませてもらっています♪この作品の力強さの根源はこういう決意、覚悟というマチズモなのかもしれない。
山田詠美
チャーミングな悪態が芸術になるのも、この文学的技巧があるから。
川上弘美
個人と社会はまだ距離がある。その間を繋ぐのがこの「ハンチバック」。
堀江敏幸
作品の暴力性と小説が探求する未開拓の領域に焦点が当たる。
第169回芥川賞の候補作「ハンチバック」に対する選考委員たちの選評から、作品の強さ、テーマ性、技術、倫理、挑発、多様性など多岐にわたる視点が感じられる。各選考委員の視点は異なるが、それぞれが言葉にした感想は、作品を深く理解し、享受するための重要なヒントとなる。
優れた文学には明確な基準がないかもしれない。しかし、多角的な視点から作品を読み解くことで、純文学の真骨頂を感じることができるのではないだろうか。
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