『イン・アメリカ』~映画史上いちばん美しいシーンがあります~
1.観てもらいたい人は
この作品は、特に親しい人を失った人、生活が苦しい家庭、頑張っているお父さん、お母さんそんな方々に見てほしいです
すべてが上手くいっている幸せな家庭はほとんど無いと思います
皆さん何かしら問題を抱えていると思います
別離、病気、お金、教育、夫婦関係、恋愛、進路、将来、介護、転勤、価値観、地域、学校、職場等いろいろな問題があると思います
作品のサリヴァン家族は特に家族との別離、失業、見知らぬ場所での生活、貧困、出産という問題に苦しんでいます
あなたの問題は何でしょうか?
このサリヴァン一家の生き方を見て、感じるものがあると思います
彼らの成長を見て、考える事があると思います
家族とどう向き合えばいいのだろうと発見することがあると思います
苦しいけれど、子供の成長が見れた時、幸せな瞬間だなと’思います
頑張ってきてよかったなあ、家族がいっしょにいるってありがたいなと思うと思います
では、物語に入りましょう
2.アメリカに希望を抱いて
登場人物たち、サリヴァン一家は4人(5、6人)の家族です
()の人数は、物語が進むに連れて、分かってきます
舞台は現代のアメリカ、ニューヨークの貧困街です
アメリカとカナダ国境付近で、女の子が語りながら、ビデオカメラで撮影しています
最初は小さな光のような、木漏れ日のようなものが映し出されて、
その光はだんだん大きくなって、たなびく星条旗が映し出されます
とても希望に満ち溢れている感じです
やさしい光と風を感じさせてくれます
冒頭のシーンは、アイルランドからやって来た移民のサリヴァン家族がアメリカ国境のゲートで入国審査を受けている所です
若い夫婦の夫ジョニー、妻サラ、10才くらいのお姉ちゃんクリスティ、5才くらいの妹アリエルです
ジョニーは売れない舞台俳優なんです
それで失業して、アメリカに一家でやってくるんです
古いワゴン自動車に荷物を乗せてやってきました
3.お願い、アメリカに入国させて!
入国審査官に入国の目的を聞かれます
幼いアリエルはパパが失業しちゃったからと正直に言ってしまうんです
慌てて、サラが「バカンスです」と訂正します
怪しんだ審査官はもう一人の審査官を呼びました
つづけて審査官は質問します
ジョニーは間違えて言ってしまいます
実は、末っ子の男の子を亡くしているんです
ジョニーの心の中にはまだいるんです
ジョニーもサラもどことなく気持ちが上の空なんですね
この冒頭シーンがとても上手いんです
映画『チャップリンの移民』の中で、船でやってきた移民たちが、自由の女神像を見て、「これでぼくらは自由だ」と叫んで喜ぶんです
ですが、入国したとたん、審査官が鎖で入国を封鎖するというシーンがありました
すごい皮肉が効いています
そんなアメリカン・ドリームと厳しい現実とが対比したシーンがこの『イン・アメリカ』の中にもあります
よそ者への冷たさと一家の温かさとこれから引き起こす問題をそれとなく表現しています
審査官はこの家族を入国させるかを考えています
実は、お姉ちゃんのクリスティは3つの願い事を叶えることができるんです
アラビアの魔法のランプみたいで、詩的で面白いんですね
クリスティは、両親のあの自信無げな話し方じゃ入国できないと心配します
クリスティは、一家の未来がこの入国手続きにかかっていることを分かっているんですね
彼女は心の中で願い事を言います
審査官は不信感を顔に出しながらも、姉妹のかわいさに触れて、入国を許可します
4.初めてのアメリカ、ニューヨーク
クリスティは愛用のビデオカメラを持って色々と撮影しているんですね
作品の中にクリスティのホームビデオの映像がちらほら流れます
初めて見るニューヨークの電飾看板、高層ビル、人混み、フリスビーを投げて遊ぶ家族
お父さんは俳優なので、姉妹と遊ぶときは、ゾンビになったり、誘拐犯になったり、強盗で人質を取ったりし子供を楽しませるいいお父さんです
このクリスティのホームビデオが温かな雰囲気をいっそう醸し出しています
アリエルは無邪気にニューヨークの歩いている人に手を振ります
さて、ニューヨークでアパートを借りますが、この家族はお金をあまり持っていないんです
治安の悪いところの古いアパートしか借りることができません
アリエルがエレベーターを見つけ、はしゃぎます
ですが、このアパートのエレベーターは昔に壊れていて、階段しか使えません
上の階から男が叫んだりしていて、いかにも治安が悪そうなんです
ボロボロの階段と手すりと壁を、カメラは鉄のフェンス越しから写します
何個もの厳重な鍵を開けて、一家は新居にたどり着きます
新居の部屋に入るとそこにはたくさんの鳩が住んでいました
無邪気にお父さんに言います
全然、悲壮感が漂わない所がいいですね
クリスティは両親の様子を気にしながら、部屋を撮影しています
ジョニーとサラで改装を始めます
その間クリスティとアリエルはスケートしながら楽しくみんなで我が家を作ります
「うるさい!アイルランド人!」なんて近所に言われながらも頑張ります
日本の映画のように「こんなに貧しいんだ。悲しいんだ。苦労しているんだ。」みたいな押し付けな所がないんですね。
悲しみもユーモアを混ぜて、楽しくさせているんです
5.悪戦苦闘!ニューヨークの猛暑
サラは教師なんですが、近くには職がなく、しかたなくアイスクリーム屋で働きます
ジョニーはオーディションを受けてまわるのですが、英国訛りがあり、なかなか受かりません
季節は夏、猛暑なんですね
ジョニーはオーディションの練習をしながら、姉妹の面倒を見ています
でもなかなか集中できなくて、シャワーに長く居すぎたアリエルは熱を出してしまいます
とてもかわいい表現ですね
サラはあまりの暑さで階段の途中で休憩を取ります
それを見たジョニーは一念発起して中古のエアコンを買います
50キロくらいのエアコンを汗だくになりながら、担いで5階の家まで運びます
さあやっと家族が涼めると思ってプラグを挿そうと思ったら、形が違うんですね
がっかりして、プラグを買いにいくんですが、24セントお金が足りません
たった24セントですが店主はマケてくれないんですね、よそ者ですから
サラのアイデアでジョニーは空き瓶を売って、プラグを手にいれます
と店主に言い放ちます
ジョニーは家族のために一生懸命ですね
コンセントにプラグを挿し、エアコンからは待望の冷風が出てきて、皆で涼みます
ですが、エアコンがショートしてアパート中のブレーカーが落ちちゃうんです
やけになったジョニーは預金を下ろして家族を連れて涼しい映画館に映画を見に行きます
その映画は『E.T』でした
アリエルは月に自転車で帰っていくE.Tを見ます
6.亡き息子を幻影を追って
フランキーって言うのは、数年前に亡くなった末っ子の男の子です
かわいそうに階段から落ちて、腫瘍が出来て亡くなっちゃうんです
家族はフランキーのことが忘れられないままで暮らしています
ジョニーが子どもたちと遊んでいます
ジョニーはゾンビのマネをして、姉妹を襲う遊びをしている途中、急に悲しみがやってくるんですね
涙が出てきて、フランキーを思い出しちゃって、もう遊べないんです
遊びを止めてしまったお父さんのことを姉妹はちゃんとわかっています
アリエルもクリスティもうつむいてしまいました
ジョニーは悲しみを押し殺して遊びを続けます
みんな寂しいんですね
サラもまた、フランキーのことが忘れられません
夫婦の会話の中で
でも、こんなに貧乏で、家族が死んで悲しくても、この作品はユーモラスなシーンを織り交ぜて、温かさを演出しています
やがて、慣れないニューヨークでも、姉妹はどんどん成長し、ニューヨークの環境になじんでいきます
アイスクリーム屋の同僚マリナが仲良くしてくれて、姉妹を預かってくれたりするんですね
7.初体験のハロウィン、マテオとの出会い
熱波の夏が過ぎ、落ち葉が道路を埋め尽くす秋が来ます
季節感を出して、観客に時の経過を思わせ、家族が続けている頑張りとこの家族どうなったのだろうと思わせる演出がうまいですね
アイルランド人のこの一家はカトリック教徒なので、両親は子供をカトリックの学校に行かせます
そのためにジョニーは夜、タクシー運転手のアルバイトをします
立派な立派なカトリック学校の服をクリスティとアリエルに着せてあげるジョニーとサラ
必死に働くことが、子供の幸せに繋がっていると感じる綺麗なシーンです
僕たちも子供の晴れ姿に日頃の疲れや苦労なんか吹っ飛びますよね
ついこの前まで、移民としてアメリカにやって来た姉妹たち
アメリカ国歌が流れ、アリエルは国歌に忠誠を誓うセリフを言います
二人はアメリカという国にすっかり馴染み、しっかり育っています
すり足で落ち葉の絨毯を歩くアリエル
昼寝をしているジョニーにクリスティは食事をつくってあげます
やがてハロウィン祭がやってきます
ハロウィンをはじめてアメリカで体験するクリスティとアリエル
手作りの衣装を来て、近所にお菓子をねだりに行きます
でも、住んでいる所の治安がとても悪いんですね
皆どこも警戒してドアを開けてくれません
とても残念そうなクリスティとアリエル
そこに、ドアに「入ってくるな!」と粗暴なペンキの字で描いてある家がありました
クリスティとアリエルは怖がりながらも、必死にドアを叩きます
ここは、マテオという絵描きの男の家でした
部屋の暗所で写真の現像をしていたマテオ
サリヴァン一家が来た時から、部屋の中でわめき散らして叫んだり、部屋中の物を投げる凶暴な男です
マテオはドアを開けて、凶暴に言います
アリエルは驚き怖がりながらも、勇気を振り絞ってお菓子をねだります
マテオは自分の家にクリスティとアリエルを招き入れます
マテオは玄関のドアを閉める時に、周りに誰か居ないか確認します
不安を呼び起こす効果音が入っています
このシーンは意地悪ですね
ホントに入って大丈夫なの?って観客に思わせていますね
様子を見ていた、ジョニーとサラ
マテオとサラは目が合います
マテオは大丈夫だよとジェスチャーします
家に招き入れられたクリスティとアリエル
部屋の中は絵と画材だらけです
輪郭が黒くて太い暗い絵です
なんと、マテオはフランキーの話に涙を流して泣きます
マテオの肩に手を寄せるアリエル
マテオはアリエルを優しく抱きかかえます
マテオは冷蔵庫を開けます
そこには大量の薬がありました
しまった!と思ったマテオはすぐに閉めてクリスティと顔を合わせます
小瓶に貯めていた小銭を見つけました
そして、小瓶に貯めていた小銭をクリスティにプレゼントし、「ハッピー・ハロウィン!」と言って姉妹と仲良くなりました
この瞬間、マテオの心が救われたのだと思います
マテオは人との関わりがほしかったのですね
ジョニーとサラは、マテオを夕食に招待します
食べた食事の中に金貨を見つけたマテオ
パンを食べたマテオはまたその中に指輪を見つけました
マテオと姉妹たちはとても仲良しになりました
8.サリヴァン一家に赤ちゃんが!
マテオはお腹に子を宿した母の絵を描いていました
ジョニーとサラはお腹に子供を授かっていました
実はお腹の赤ちゃんがあまり動かないんです
病院での検診の時、ジョニーとサラは産婦人科医に告げられます
このまま赤ちゃんを産めば、母親の命の保証はない
サラはクリスティとアリエルに話します
クリスティはビデオカメラで撮影します
不安そうなジョニーの顔と後ろの家族のスケッチを写します
スケッチには『フランキー』と書いてありました
このビデオカメラの映像を通して、クリスティの意識や気持ちも乗せているんですね
クリスティはサラとジョニーをとても心配しています
ジョニーは悲しくてお腹の中の赤ちゃんが蹴ったと嘘をつけませんでした
サラの命が心配なジョニーは赤ちゃんを産もうとするサラと口論になります
そして堪らず家を飛び出したジョニーは、マテオに八つ当たりしてしまいます
マテオは心の底からジョニーたちを愛していたんですね
そこでジョニーはマテオの命が長くないことを知ります
ある日ジョニーはサラに言います
ある日、男が演劇のセリフを練習していました
9.ジョニーの葛藤
そんな折、マテオが階段で倒れ、アリエルとクリスティが駆けつけます
冬になり、クリスティのホームビデオには雪で遊ぶ家族とマテオが写っています
雪をジョニーに投げつけるマテオの楽しそうな笑顔に癒やされます
マテオは最後にいい思い出を残そうとしているのでしょうか?
疲れて息が切れるマテオにジョニーは寄り添います
マテオはどんどん病状が悪くなります
ある日、マテオのお見舞いに行ったサリヴァン一家
心配そうなアリエルを見て、マテオはアリエルを手招きして呼び寄せます
いよいよ出産の日が近づいてきました
病院の事務員は、「金曜日には5000ドル払ってください」と言います
アリエルが心配します
何とも健気ないい子どもたちです
就寝の時に
ジョニーはフランキーが死んでから、神を憎み続けているんですね
ジョニーにはいつも心の平穏がありませんでした
10.サラの思い
そしてついにサラが赤ちゃんを産む時が来ました
難産の末、赤ちゃんは生まれました
しかし赤ちゃんには輸血が必要な危険な状況でした
看護婦はすぐに赤ちゃんを集中治療室に連れていきました
出産後のサラは興奮し情緒不安定でした
サラはパニックのあまり、なだめるジョニーにひどいことを言ってしまいます
サラは今まで必死に堪えてきたんですね
出産で押し殺してきた気持ちをで一気に吐き出してしまいました
それがよく分かるシーンです
11.クリスティの思い
クリスティが赤ちゃんの輸血の血を提供をすると言いました
よく言ってくれたとクリスティを褒めるジョニーにクリスティは言います
クリスティも辛かったんですね
彼女も気持ちを押し殺していました
クリスティはみんなで乗り越える覚悟を人一倍持っていました
日本の映画で『ふたり』という作品があります
しっかり者で我慢強いお姉ちゃんと自由奔放な妹
周りの人は自由奔放な危なっかしい妹の方をとても心配するのですが、
実はしっかりものの姉の方が色々な悩みを溜め込んでいたんですね
姉の死後、それが分かってくるんです
クリスティもそんなお姉ちゃんです
12.マテオと赤ちゃん
ジョニーはマテオの病室にやって来ました
昏睡状態のマテオが眠っています
ジョニーは神を信じないけれど、マテオには心を許しているんですね
家族には弱さを見せたくないつらいジョニーの気持ちがわかります
『イン・アメリカ』の登場人物は堰を切ったように心の中の感情が発露します
イングマール・ベルイマン監督の『秋のソナタ』のようです
苦しみか、うなされているのか、聖なる言葉かをマテオは口にします
すると、先程まで身動きしなかった赤ちゃんが元気に泣き出しました
赤ちゃんが元気になったのを待っていたかのように、マテオは亡くなりました
この作品ではマテオは生まれてくる赤ちゃんの身代わりなんですね
サリヴァン一家にお礼のプレゼントを渡すかのように旅立って行きました
病院の治療費は300万ドルまで膨れ上がっていました
しかし、何とマテオが全額支払っていました
赤ちゃんはマテオ・サリヴァンと名付けられました
アリエルはマテオが死ぬ時にさよなら言ってくれるって約束したのにと悲しみます
赤ちゃんの退院パーティーが開かれましたが、アリエルだけは寂しそうでした
13.悲しみを乗り越えるサリヴァン一家
ニューヨークのきれいな夜景を見ながらクリスティとジョニーは話します
ジョニーは涙を流しながら呼吸をしました
アリエルはジョニーの頭を撫でました
そこで、優しい表情のマテオや笑顔のフランキーがホームビデオに流れます
アリエルは幼いけれど、ちゃんとマテオの死に立ち向かいました
クリスティはお父さんにフランキーのことを忘れると約束させました
このクリスティのたくましい表情に心打たれます
クリスティは成長したんですね
家族はやっとのことで悲しみを乗り越えました
14.映画史上最も美しいシーン
カトリック学校の音楽祭の時に、クリスティはきれいな声でイーグルスの『デスペラード』を歌います
その歌声とともにクリスティが撮影した家族のホームビデオが挿入されています
僕は映画のシーンでこんなに泣ける所を今まで見たことがありません
クリスティの家族への愛情、クリスティが家族を見守ってきたと分かるシーンです
誰かを諭す歌、見守る歌、包み込むような歌です。
この歌詞がこの映画の作品の主題をすべて物語っています
クリスティは両親が心の奥底でフランキーのことを忘れないでいるのを感じ取っているんですね
そのことがこの家族の重荷になっていました
自分が家族のために頑張らなきゃと思い始めたんですね
だから、クリスティは3つの願い事を家族のために使うことで家族を支えてきた
クリスティはこの願い事を死んだフランキーのプレゼントと思い込んでいました
クリスティもまた、フランキーの死から抜け出せないでいなかったんですね
心の中で死んだフランキーと会話しているんですね
とても家族思いのいいお姉ちゃんです
そして、クリスティはホームビデオからフランキーの映像を消して物語は終わります
映画は終わりましたが、エンドロールがすべて小文字なんですね
僕ははじめて見ました
この作品は子どもたちが主役だよと言っているようです
子どもたちの両親への思いがつまったいい作品でした
15.終わりに
僕がこの作品をあなたにおすすめする理由は
一つは登場人物たちがアメリカではめずらしく下流階級なんですね
特別な才能がある人ではなく、特殊能力のない一般の人なんですね
何かを成し遂げて、成功したというものでもありません
その代わりに精神的な成長がくっきり現れて、いっそう感動を呼ぶんですね
観客に自分にも身近な出来事だと思わせてくれます
日常のよくありそうな苦労話です
リアリティがあり、人情的なイタリア映画のようですね
テーマだけで言うと、日本の映画に近いものがあります
もう一つは子どもたちの可愛さですね
この子たちのためなら、どんな辛いことだって頑張れると思わせる所です
お父さん、お母さん世代なら共感できますね
そして、その他には、アメリカが移民という存在をどう認識しているのかが分かる作品です
アメリカは先住民を除いては、アメリカン・ドリームを持って新大陸にやってきた人たちの国です
この作品では、現在住んでいる人たちは、異国から夢を持ってやってきた人たちを、どのように迎えなければならないかを、マテオを通じて訴えていると思います
夢を持ってやって来る移民にもっと寛容になれ!親切にしろ!夢、チャンスは平等であるべきと言っているようです
というわけで、『イン・アメリカ』いい作品ですよ
それではまた、次回の作品でお会いしましょう
サヨナラ
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