すずめノート
北海道の冬は厳しいです。具体的に述べると、家を出た瞬間鼻毛が凍る毎日。氷水に足をつけるような鋭い寒さ。
毎日寒さ耐性をあげる訓練に参加しなければいけない状況に、どんな手を使ってでも布団から出ないぞと意気込んでいた朝も多いです。
もちろん、雪による交通遅延も日常茶飯事。普段1時間で着く場所も2,3時間かかるのは当たり前でした。そのため冬期間はいつもより早めに家を出て学校へ向かっていたのですが…
家の前で横たわるスズメ
いつもの如く早めに家を出ます。この日はギンギンに寒い日でした。玄関を出て数分、大きな和風家屋の前に茶色い毛玉が落ちています。
一時、ギャルがガラケーに着けていた球体のもふもふ。
最近はめっぽう見かけませんが、正しくあれが落ちていました。
もしかしたら持ち主が、この、ギャル玉を探しに戻ってくるかも。と思い、家屋を囲む塀の上に乗せようと思い掴みました。
「あったk……生き物じゃん!?!?!?」
躊躇せず、ぐにゅっと掴んだ後に、それが生き物だということに気づきました。
あったかいその毛玉は、もっふもふに膨らんだスズメでした。
「かわい〜〜〜〜〜〜」
正直、スズメをこんなに近くで見たのは初めてだったのですが、マジでギャルのケータイについてるやつそのものでしたし、こんなにふわふわに膨らむのかと、興味関心が高まり、にやにやしながら見つめました。
スズメからしたら、食われる……終わった……という気分だったと思いますが。
しかし、本来すずめは警戒心が強く、人間が近づけば飛んでいってしまうような存在です。それが手から離れる素振りを見せません。
雪の中では、振り積もって死んでしまうだろうと思い、
家屋の塀に載せることにしました。
最大の決断
塀に載せると、すずめの違和感に気づきます。
「こいつ…震えとる」
ふわふわに膨らんでいるとはいえ、さすがに堪える寒さだったのでしょうか。塀の上からジッとこちらを見つめながら小刻みに震えています。
今考えれば「ああ恐ろしかった、食われるかと思った」の震えのような気もしますが、当時高校生だった私は、
「寒いんかワレェ!?!」
と妙な心配をしてしまい、ポケットから泣け無しのカイロを取り出し、スズメが火傷しないよう、ティッシュをちぎってベッドを作り、その上に乗せましたが、相変わらず震えながらこちらを見てきます。
制服のポケットにシャープペンを入れて、手ぶらで学校に行くような女だったので、荷物は最低限しか持っていませんでした。今日はカバンの中に必要な教科書と、提出期限が昨日までだった社会のノートのみです。
ですが、その決断は想像よりも早く固まりました。
悴んだ手で
ここで手を差し伸べれば、今後寒さに打ち勝つことが出来ないかもしれない。しかし、スズメが何かを言わずともジッと見つめ震えているのも事実です。
今回だけやで…と言いながら、社会のノートを取り出し、ガムシャラにちぎりました。
傍から見れば、高校生が道端でノートをちぎっているシチュエーションに「ヤバい奴」と思われそうですが、
当時の私はスズメ救命士として、責任感に駆られていました。お構い無しです。
バレンタインデーの梱包に使うくらいの量まで、ノートをちぎり床材を作ってスズメに被せました。
スズメは首を傾げてこちらを見ています。
完全になんやこの人間……天使か?の眼差しです。
「達者に生きるんやで…」
と心の中で告げ、カバンを背負い直した次の瞬間。
雪がボウッと舞った………気がしたのです。
正確に言うと、丁寧にちぎったノートの破片を吹き飛ばし、スズメが塀に掛かっていた木に飛び移りました。
「飛べるんかワレェ!?!?!?!?」
飛べるなら、良かったよ……と木の上からこちらを見つめるスズメにウィンクし、朝からスズメを救って(?)気分が良い…と思いながら、学校へ向かいました。(もちろん遅刻)
当然ながら
学校に着くとまず遅刻で怒られ、次にノート提出期限が守れてないことで怒られました。当たり前です。
『ノート出せ』
「いやぁ〜その〜」
今日あった出来事を話しました。ピエンの眼差しで見つめてくるスズメに巣材を作ってあげたこと、そのためノートが犠牲になったこと、、、
話を聞き終えた先生は、しかめっ面のままこちらを睨み、大口を開けて笑いました。そして、突然真顔で
『よく分からんけど、ノート出せよ』
「ヒョ」
恐ろしさのあまり、キョロキョロし、ふと鏡に映る自分を見た時、完全に私に握られたスズメの顔を自分はしていました。
「あのー…友達に…見せてもらうので………ノート提出、今度でも良いですか………」
『いいよ、スズメ助けたんだろ、優しいなぁ、優しい白田ならノート提出できるもんなぁ』
「………ヒョ」
もはや間抜けな音しか発せません。体育会系の部活並に「失礼しましたァッ!」とお辞儀し、ダッシュで職員室を出ました。
その後、他クラスの友達からノートを借り丸写しをして、案の定1週間後くらいに提出したのは想像に容易いことでしょう。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?