他人の花園 【小説 #06】

※最後まで読んでいただけます。実質600字ほどです。


雨が降ると、都会の街路は傘でいっぱいになる。人はそれを、傘の花がひらくとたとえる。
行き交う傘を目前に、取り残されてしまうこともある。
建物の出口あたりで、雨宿りをすることになる。

運命が分かれるのだ。
 
美しい人と出会った。
運命のいたずらだろうか。傘を持たないその人こそ、まさに花のような美しさだと思った。
私は、つい立ちどまってしまった。

声が聞きたい。言葉を交わしたい。
そう思った。

ほんの一時、名前も知らぬ者どうしの、少しのふれあいでいい。
それでも、きっと輝けるだろう。
二人、ともにこの花の中を歩いてみたい。
思いがつのるのがわかった。

けれども、ためらいがあった。
本当に、とても困っていらっしゃる様子だったけれど、でも声をかけることなどできはしなかった。
この傘に、入ってくださることなどあろうものか。そんな風に、自分に言い聞かせたときのことだった。

胸の奥へと、冷たい雫が刺すようだった。
誰かが、差し向ける傘の手を見た。
その人には、少しのためらいもなかった。すぐにその中へと隠れたのだ。満面の笑みを浮かべて。舞うように。
花が、摘み取られた瞬間。
そう思った。

運命は分かれた。

雨の降る、昼下がりのことだった。
風があるのがわかった。
花々は、どこまでも揺れていただろう。私の髪も同じだった。
けれども、たった一人だと思った。

花ではない、私がいる場所。
胸に痛みを残し、その場所もまた遠ざかって行った。

今、雑踏だけがよみがえってくる。
 
-終-

今回も読んでくださったことに感謝いたします。


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反省の辞


やっぱり何か暗いというかブルーですね。まだまだ作者は性格をそのまま映したものしか書けません。

いつもながら作者による解釈など。
作中の「美しい人」は女性です。問題は「私」で、これを曖昧なままで書き進めていました。最終的には女性という感触があり、そのトーンで全体を直したつもりです。
美しい人に対する思慕が異性愛という狭い感情ではないと理解していただくことは可能と思います。
この「私」は、劣等感があるタイプの人かもしれません。彼女にとって、自分の世界ではないものの具現が「美しい人」だったのでしょうか。
では傘を差し出した手、それは誰のものだったのでしょう。やはり女性かもしれません。それとも・・・ 男性だったのでしょうか。
自分で書いておいて、分からないことが多すぎて変ですね。


小説の目次はこちらです 
https://note.mu/myoan/n/ncd375627c168 

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