酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第52回「ノーマークのまち布施にやって来た」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第52回「ノーマークのまち布施にやって来た」である。
はじめに
(つづき)前夜の天満一人酒は実に楽しかった。自分と同じ愉快な呑んべえTさんとも出会えた。今日は大阪での昼酒を予定しているが、教えてもらった「布施の立ち飲み」に出向きたいと思っている。きっと酒飲みがワクワクするような酒場に違いない。
気がかりだった台風は夜中に最接近して通過していったらしい。幸い、これといった被害も影響もなく、朝から天気は回復している。絶好の昼酒飲み歩き日和には違いない。少々、大阪の観光名所をぶらついてから布施に向かうとするか。
気分爽快、さあ出発だ。
コリアンタウンぶら歩き~でもアルコールは自重
天満駅から大阪環状線で鶴橋駅にやって来た。ここで近鉄に乗り換えれば目的地の布施に着く。だが、さすがにまだ早すぎる。せっかく鶴橋にやって来たのだから、大阪ならではの異国情緒あふれるまちを目指したい。
鶴橋駅東側商店街のコリアンエリアを通り過ぎ、10分ほど歩く。見えてきたのが「生野コリアンタウン」だ。ここは約500メートルの通りに面した両側に、ずらりとハングル文字の看板が並んでいる。キムチなどの食材、雑貨店や飲食店など様々な店がある。
まるで韓国に瞬間移動したかのようだ。
お店の人もほとんどが在日二世や三世といった方だろう。そちら系のお顔をしている。が、お客さんとの会話を聞けば関西弁。大阪なのだから当たり前といえば当たり前か。
コリアングルメの食べ歩きが楽しめるタウン。思わず「マッコリ1杯100円」の呼び込み文句に釣られそうになる。ここで飲み歩いてしまったら、本来の目的の「布施」が二の次になってしまう。それでは本末転倒だぞ。
実に惜しい・・・でも初志貫徹。コリアンタウンは次の機会に楽しむことにしよう。
布施「ひらた」~個性的なオヤジさんがいる立ち飲み
コリアンタウンから桃谷商店街を経て桃谷駅へ。大阪環状線で鶴橋駅に戻り、近鉄に乗り換えて布施駅にたどり着いた。鶴橋の次の駅だが、布施は東大阪市だ。厳格な言い回しをするならば「大阪市内以外で飲むのは堺市以来」となるな。
布施駅前の商店街を歩き、教えてもらった立ち飲み屋のうちの一軒、立ち飲み「ひらた」を口開けとしよう。通り過ぎてきたもう一軒は後ほど。
カウンターの空いているところに立ち、まずはビールの小瓶を注文。あて(肴)はどうするか。目の前にガラスケースがあり、中には170円から540円まで、値段別に料理が並んでいる。ではハモの梅肉あえでもいただくとするか。
ガラスケース内のあてには、ちょっとした工夫をしている。ハモのような単品もあれば、刺身の盛り合わせ、かまぼこと浸しの総菜セットも選べる。そして店の入り口には美味そうに煮込まれているおでん。あとでタケノコでもいただこう。
おでんの近くにデンと構えるオヤジさん。
店には次から次へと一人客がやって来る。するとオヤジさんは間髪入れずにカウンターの立ち位置を指示する。客が選ぶ間を与えぬ問答無用の素早さである。私は・・・というと、ちょうどオヤジさんが席を立っていたので、指示されくて済んだというだけ。
この店、腰を据えて飲めば面白そうだが、口開けなので軽く締めておくか。
布施「小西酒店」~まったり気分で一杯いただく
続いては先ほど通り過ぎてきたもう一軒に寄ろう。こちらも立ち飲み酒場「小西酒店」だ。どうやら角打ちっぽい感じである。カウンターの一角に陣取って早速、芋焼酎の水割りをいただこう。
この店ではガラスケース内の小鉢もの、もしくはケースの上にある大皿料理から選べる。手っ取り早く、ケース内の豆もやし、うまきを頼み、ちょうど焼きナスが仕上がったところだったので、それも追加する。
店を切り盛りしているのはおばちゃんたち。
そのせいか、どこかまったりとした雰囲気が漂う。さっきまで個性派のオヤジさんが目を光らせていた平田商店にいたから、余計にそう思ったのかもしれないな。
店の雰囲気は異なるが、ひらたも小西酒店もなかなかの酒場だ。さすがは大阪で飲み歩いているTさんご推薦だけのことはある。布施の商店街はさらに奥へと伸びており、まだまだ面白そうな酒場が隠れていそうだ。
今度は事前に要チェックしておいてから再訪してみるか。
京橋「岡室酒店直売所」~今日も笑いに包まれて
昼酒もそろそろ後半へとさしかかってきた。ノーマークのまち布施から勝手知ったる京橋に参上。京橋駅真ん前の立ち飲み「まつい」で串カツをぱくついてから、いつも立ち寄るお馴染みの酒場「岡室酒店直売所」へ向かおう。
相変わらず超満席である。が、岡室酒店は満席でも来店客を帰さない。マスターが「ちょっと空けてあげて」と声を張り上げると、お客が少しずつ移動。すると、不思議なことに一人分の立ち位置が出来上がる。「すんません」と言いながら入る。こんな塩梅だ。
日本酒とウニときずしを注文。マスターは相変わらずご陽気で「イワシの脂が乗ってるよ」と客たちにアピール。つられてつい、イワシの昆布締めを頼んでしまったのは、私だけではなかった。
お隣にいた先代からのご常連にお話を聞く。
50年来通ってらっしゃるそうだが、岡室が他の酒場と違うのは「客のノリのよさ」だと言い切る。店内には常に笑いが飛び交っている。まるで関西のお笑いをライブで見て、一緒に参加しているかのようである。
お客は基本的に個人客ばかりだが、店の雰囲気に乗せられて、ご常連だろうが一見だろうが、瞬時に馴染んでしまう。なかには、新幹線で東京からわざわざ通って来るという若い常連もいるそうだ。岡室酒店、やはりスゴイぞ。
台風の最中でも、大阪にやって来てよかったよ。ごちそうさま。
岡室酒店直売所の話は、第23回「大阪の串カツの名店とダークダックス状態の店」にもあります。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2017年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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