酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第62回「思い出の高知で日本酒と魚を堪能」
「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。
withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第62回「思い出の高知で日本酒と魚を堪能」である。
はじめに
久々に土佐路へやって来た。高知県を巡るのは何回目だろうか。何度訪れても、また来たくなる土地・・・全国でもそうは多くないが、高知県はそんな土地の一つ。今回も美味い魚と酒に期待が膨らむ。
高知いや土佐には歴史もある。この時のひとり旅では、土佐を代表する偉人たちを巡った。坂本龍馬や岩崎弥太郎(三菱の創始者)は当たり前だが、中岡慎太郎や武市瑞山も忘れてはならない。酒好きで歴史好きな私にはたまらない。
今宵はどんな酒場に巡り合えるだろうか。
高知「たたき亭」~あの名酒場を思い浮かべながら
高知駅近くに宿を取った。今日は岩崎弥太郎や中岡慎太郎のふるさとを訪れるために、ごめんなはり線に乗った。沿線の駅名板には、アンパンマンの作者で高知出身のやなせたかしさんが描いたキャラクターが添えられている。それを見るだけでも楽しいよ。
丸一日どっぷりと観光した後は、腰を落ち着けて夜の飲み歩きといこう。高知駅周辺には良さげな酒場がたくさんある。そのなかから、まずは和食店「たたき亭」に入ろう。
たたき亭という屋号のとおり、たたき料理がウリ。ならば、藁焼きのカツオ塩たたきを注文しよう。迎え撃つ酒は田野町濱川商店の美丈夫。土佐といえば日本酒の宝庫であり、魚料理なら地酒を飲むしかないだろう。
塩たたきか・・・思い出すのは、あの名酒場。
6年前の2月も高知を訪れていた。そこで巡り合ったのが日本酒バー「MONK」だった。店に入って早々にマスターから言われた言葉が今でも忘れられない。
「塩たたき、無いですよ」。旬を大切にし、冷凍物は使わないマスターのこだわりを見た。そしてマスターと打ち解け、ご常連さんたちと大騒ぎをし、これ以上ないほどの楽しい夜をおくった。
実は今回のひとり旅を企画した時、「MONK」への再来訪も目論んでいた。が、それはかなわなかった。なぜなら、マスターが亡くなってしまったからだ。店はご常連が継いだと聞いたが、マスターがいないのなら訪れても仕方ない。思い出は胸に秘めておきたかった。
ちょっと湿っぽくなってしまったぞ。話を戻して、たたき亭の塩たたきを食おう。大将がさばいたカツオには粗塩が添えられている。独特の風味を感じるが、これはこれで美味い。
追加でウツボの刺身を頂戴する。あのグロテスクな風貌を見ると「食べられるの?」と思われがちだが、高知や和歌山では定番の魚。さっぱりとした白身とコラーゲンたっぷりの皮のコントラストは見事。珍しい胃袋や頭のコブもいただいたよ。
高知「米米くらぶ」~はちきんママさん自慢の日本酒
カツオとウツボを食って満足した足で2軒目を探す。だが、週末とあって「ここぞ」という店は満席状態。出だしの早い1軒目は何とかなるが、1軒飲んだ後となるとちょうどピーク時間になってしまい、なかなか酒場を探し当てられないものだ。
結局やって来たのは、日本酒バー「米米くらぶ」。本来なら3~4軒目くらいに寄りたかった店だが、まあいいだろう。店は女将さんが一人で切り盛りしている。もちろん高知の女性だろうし、たぶん「はちきん」に違いなかろう。
看板に「土佐の純米酒が飲める店」を掲げる。
早速、女将さんお勧めの美丈夫からいただく。さっき「たたき亭」でも飲んだが、どっしりした味わいの酒。肴の方はというと・・・「簡単なものしかできないわよ」と女将さん。土佐の珍味のれそれとウルメイワシを出してくれた。それでいいよ。
日本酒バーの看板を掲げるだけあって、女将さんの日本酒に対する蘊蓄ぶりはすごい。かく言う私も日本酒には少々うるさいつもり。ほかにお客さんもいなかったので、しばし日本酒談議に花を咲かす。そういえば、太田和彦氏もこの店を訪れていたなあ。
お酒はグラスに少しずつ出してくれる。久礼、土佐白菊、無手無冠、文佳人と、いずれ劣らぬ土佐の名酒ばかり。ちなみに無手無冠は四万十町の酒蔵で、栗焼酎「ダバダ火振り」の醸造元でもある。ダバダ火振りもうまいんだよなあ。
夜が更けてくると、徐々にお客さんがやってくる。ご常連さんもいるが、観光客も結構訪れるらしい。ガイドブックには一切載せておらず、口コミを聞いて来る方ばかりだそうだ。かく言う私も太田氏の「ニッポン居酒屋放浪記」を読んで知ったくらいだからな。
しこたま飲んでかなり酔った。そろそろ引き上げるとするか。
高知「松ちゃん」~屋台の餃子は美味いなあ
米米くらぶで日本酒はたっぷりいただいた。が、肴はちょっぴりだったので腹が減った。もう1軒だけ、どこかに寄るか。そうだ屋台にしよう。
高知の繁華街のなかに、屋台が居並ぶエリアがある。夜はだいぶ更けてきたけど、どの屋台もお客さんの数が多い。お目当てだった人気の屋台には外で待つ人がいるほど。当然だが「並んでまで飲みたくないぞ」と思う。
もう一軒、マークしておいた屋台が「松ちゃん」。
ちょうど店を出る客がいて、入れ替わりになって助かった。吹きさらしではなく、テントを張り巡らしているので冬場はありがたい。おまけにテント内も暖かい。それならビールといこう。相棒の肴はもちろん餃子だよ。
日本酒ばかり飲み続けてきたので、ビールののど越しが心地よい。そして餃子は、パリッとしつつモチモチ感があり、想像以上に美味い。屋台独特の和むような雰囲気にもどっぷり浸かり、これ以上ない飲み歩きの締めくくりになった。
最後に翌日の昼酒にも触れておくか。
昼飲みにピッタリのひろめ市場に入り、1軒目の「土佐凧」でちゃんばら貝とアオサの天ぷら、2軒目の「旬太郎」にて酒盗。もちろん併せたのは土佐の地酒。ラストの3軒目は高知空港内の「司」でどろめ、ちちこ、清水サバ刺しを酔鯨で流し込んだ。ごちそうさま。
〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2010年2月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。
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