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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第32回「大阪へ心身リセット、定番酒場ではしご酒」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第32回「大阪へ心身リセット、定番酒場ではしご酒」である。

まえがき

2011年は自他ともにいろいろあり過ぎた年だった。東日本大震災が起きたことは言うまでもないが、同じころ、好角家には極めて残念だった大相撲八百長疑惑が発覚。3月に開催される大阪の春場所は中止という事態に陥った。

観戦のために確保してあった休暇が宙ぶらりんとなった。「どうする家康」ではないが、どうしようかと悩んだ。震災で日本中が沈んでいる。それじゃあダメだろう。ならば、ささやかながら関西経済の活性化に貢献したい。それに4月は仕事が忙しくなる。今のうちだ。

行こう!大阪へ。落ち込んだ心身をリセットだ。

十三「十三屋」からの「吾菜場」~一日目の大阪昼酒

前夜に名古屋入りし、翌日は新幹線で大阪へ向かう。名古屋駅のホームに着くと、今まで見たことがない光景があった。連休中なので乗降客が多いことは想像でき、大阪など西へ向かう下りの新幹線は軒並み満席状態。一方、東京方面への上り新幹線はガラガラ。

この頃、福島第一原発の事故の影響で、首都圏では計画停電が実施されていた。もちろん余震も続いていた頃だ。用が無ければ誰だって東日本へは行きたくないだろう。それにしても上りと下りでここまで違いがあるとは・・・

満席を避けるため、各駅停車のこだま号でのんびり大阪入り。そのせいか、着いた時はお昼近くになっていた。ならば、このまま昼の飲み歩きをスタートさせたい。

新大阪の近くなら十三しかないだろう。

お目当てはしょうべん横丁のある西口側。昼から営業している店のうち、地名を屋号にした「十三屋」へと入る。昼間なのにカウンターもテーブルも酔客でぎっしりである。

座ると同時に小ビール、さらにガラスケース内に見えているフキとたらこの煮付けを注文する。ここでようやく、店内に貼ってある短冊を眺め、肴(あて)を探す。目移りしたが、結局頼んだのはおでん(筋、大根、糸こんにゃく)だけだった。

大阪と東京の酒場の違いに、客同士の距離感がある。東京では混んでいても、隣の人との距離は保てるが、大阪は体が触れ合うくらいに近い。満席であっても、客同士が詰め合って、もう一人、また一人とお客を招き入れる。

だが、誰も嫌な顔はしない。

続いては十三屋の隣にある「吾菜場」へと吸い込まれる。ここは二十四時間営業という驚異の大衆酒場。十三屋ほどではないが、満席に近いくらいの酔客がいる。ご挨拶代わりに、生ビールの小と串カツ三本セット、芽かぶを注文する。

この店の女性店員さんは、とにかく元気がいい。お客も常連さんが多いようで、店員と世間話に花を咲かせている。店員と客のハイテンションなノリには加われないが、やりとりを聞いているだけでも面白い。これも大衆酒場のお楽しみと言えるぞ。

萩ノ茶屋「酒のもりた」~二日目の大阪昼酒

二日目の昼酒を書く前に、一日目の夜酒に触れておく。本来なら、夜酒の方がメインになるところなのだが、十三の昼酒でしこたま飲んでしまい、気だるいまま夜酒に突入。そのせいか、どうにもパッとしない飲み歩きになった次第だ。以下省略。

二日目はお馴染みとなった萩ノ茶屋商店街に出向く。今回は入ったことのある店を選ばしてもらおう。その口開けは、立ち飲み「酒のもりた」。あいりん界隈価格で美味しい魚介類を出してくれる家族経営の店である。

日本酒、トコブシの刺身と、タイムサービス中の湯豆腐を注文し、カウンターで一献傾ける。客あしらいの上手な女将や大将と、ご常連との会話を聞いているだけで楽しい。店内にあるテレビからは、毎度おなじみの競艇や競輪中継を流している。

が、選手たちの様子がちょっと違う。

店内がワイワイしているので聞き取りにくかったが、選手たちは被災地へのメッセージを語っているようだ。そういえば震災発生からまだ日がたっていない。自分はこんなところで飲み歩いていていいのだろうか? いや経済活性化の一助だ。堂々と飲むぞ。

新世界「酒の穴」からの動物園前「大万」~二日目の昼酒つづき

酒のもりたを出てから、近くの「なんばや」で飲んだ後、ほろ酔い気分で新世界にやって来る。観光客の姿が多い。経済活性化のために、皆さん、大いにお金を使ってくださいな。

3軒目はこれも定番酒場である「酒の穴」。カウンターの一角に座り、ビールとおでん(タケノコ、スジ、糸コンニャク)を頂戴する。観光客の多いエリアから少し小路にはいったところにあり、地元のご常連でにぎわう激渋大衆酒場なのだ。

本日もカウンターはほぼ満席。店員の兄さんは、あちこちから飛んでくる注文に大わらわ。声を掛けるタイミングが難しいのだが、酒の穴に来たら絶対に食べなければいけない名物料理がある。兄さんが近くに来たタイミングで一声かけた。

「八宝菜お願い!」

酒の穴と言えば名物・八宝菜だ。とろみが少なく、中華風のシチューという感じである。もう1軒だけ行きたいので、とりあえず酒の穴のシメにしておこう。

中抜きにスマートボールで遊んだ後、いよいよ昼酒飲み歩きのラストへと向かう。新世界まで来たのなら、外せない店がある。ジャンジャン横丁を過ぎ、大通りに面した向かいにある超激安酒場「大万」。屋号の看板が見えてくるはずなのだが・・・

看板が外されている!よもや廃業したのか?

座って飲んでいるおっちゃんの姿が見える。どうやら店は開いているようで安心した。女将さんも健在のようである。早速カウンターに座り、小ビールと界隈一安いホルモン串、さらにミノ串を注文する。

なぜ看板がなくなってしまったのかわけを聞く。女将さんは「落ちそうになっていたんで、隣の兄さんに外してもらった」と笑う。そうだったのか。閉店前提でなくて安心した。女将さんは御年79歳とか。まだまだお元気で頑張っていただきたい。

滅入った気持ちがリセットできた。明日からまた頑張ろう!

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2011年3月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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