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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第42回「もう一度行きたかった超激安ディープ酒場」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第42回「もう一度行きたかった超激安ディープ酒場」である。

はじめに

大阪への飲み歩きもずいぶん数を重ねてきた。それに伴い、いろいろな酒場へと足を運んだものだ。ごく一部を除き、どの店も気安く、楽しく飲める酒場だった。新型コロナ禍で一人酒から遠ざかってみて、改めて実感させられる。

酒場も栄枯盛衰・・・いつの間にか無くなってしまった店も数知れず。その中の一つが、新世界の動物園前近くにあった超激安酒場「大万」。2015年3月、いつものように常連気分で立ち寄ったのが最後になってしまった。

思い出を兼ねて、その時の昼酒飲み歩き書いてみたい。

今池「おでん深川」~屋号も何もない吹きさらしの酒場

昼酒を始める前に住吉大社へお参りをした。私事であるが、この年の正月早々に父親の葬儀を神葬祭(神式の葬儀)で執り行った。その忌中明け最初の旅行が今回の春場所観戦で、せっかくの機会なので神社の参拝もプランに入れたいと考えたのだ。

住吉大社は摂津の国一之宮の由緒があり、大阪の人にとっては初詣スポットとして欠かせない神社。父親のこともあったので、腰を据えてお参りさせてもらった。

神社の真ん前にある住吉鳥居前駅から恵美須町方面行きの阪堺電車に乗る。あいりん地区を縦断するルートの路線である。飲み歩きには少々早いが、せっかくなので萩ノ茶屋商店街をぶら歩きしてみよう。

最寄り駅の今池。降りる人は私以外、誰もいない。

商店街にある酒場はほとんどが営業を始めている。もん家、なんばや和といったおなじみの酒場に入ってみるという手もあったが、今回は趣向を変えてみる。

訪れたのはスーパー玉出と大通りを挟んだ反対側。細い小路の中にある店。吹きさらしで、数人程度しか入れないような狭さ。あまりにもディープだったので、さすがにひるんでしまう。が、ここで引き返すわけにはいかない。

店の名は「おでん深川」。おばちゃんが大きなおでん鍋の番をしており、酒類は保冷庫から自分で取り出すシステム。小瓶ビールを持って狭いカウンターに陣取り、おばちゃんに大根、スジ、厚揚げを注文する。

おでんの汁は関西風の薄い色ではなく、関東風の濃い目。そのせいか、大根もしっかりと汁がしみ込んでいる。色が濃いのでしょっぱいか、甘くどいかと高をくくって口に入れてみる。ところが味はさっぱりしていて美味い。おみそれしました。

人は見かけによらないというが、酒場もまた同様である。

考えてもみれば、あいりん地区に店を構え、おでんだけで営業しているツワモノの店なのだから、おでんの味には自信を持っているのだろう。時折、住民と思われるおっちゃんが、おでんを買いに来ていたな。

新世界「福政」~マラソン中継で、ついついおかわり

おでん深川を出て大通りを北へ向かい、南霞町駅前から新世界ジャンジャン横丁へと歩を進める。ここまで来たのだから、超激安酒場「大万」に顔を出したい。営業開始まで少し間があったので、先に横丁内の酒場にでも行くか。

と、そこに「モーニングセット350円」の看板。

うたい文句に誘われて来店したのは立ち飲み「福政」。当然、モーニングセットを頼む。酒は生ビールかチューハイを選択でき、おつまみは塩昆布付きのゆで卵。リーズナブルには違いない。

チューハイを飲みながらテレビに目をやると、名古屋ウィメンズマラソン中継をやっていた。日本人トップを走る選手が2時間22分台でゴールを目指そうかというところだった。高橋尚子さんが「スゴイ記録ですよ」と解説していた。

選手がゴールする前にチューハイが空いた。せっかくなのでゴールシーンまでは見たい。ならばおかわりするか。モーニングセットはもう頼めないので、ここは日本酒とサバのきずしをいただく。きずしは締め方が浅めで美味い。

この選手が日本人トップの3位でゴールしたところで、おあいそとする。

動物園前「大万」~まさかのラスト訪問

「福政」で粘ったおかげで、お目当ての超激安酒場「大万」が店開きしていた。すでに先客も2人いる。ご常連気取りで早速カウンターに腰を下ろし、ビールの小瓶とホルモン2本を注文する。ふと値段表を見たら、ホルモンと串カツが50円になっていた。

10円値上げしていたのだ!

昨年(2014年)から消費税率が8%に増税となった余波なのだろうか。とはいうものの、1本50円という値段になっても、界隈屈指の安さには違いない。いつもどおり、鉄板にコテで押し付けたホルモン。味は変わらない。

もう少し何か食べたいと思い、串カツをお願いする・・・が、おばちゃんは「油を変えていないので、今日は作れない」との返事。さらにミノ焼きも「仕入れてない」とか。結局、ホルモンをもう2本追加することになった。

おばちゃんは御年83歳と聞いている。寄る年波には勝てないのか、少々お疲れ気味のようにも見える。いつまでも営業し続けてほしいと願いつつ、ビールを飲みほしたところで店を後にするのだった。

そして、これが「大万」のラスト訪問となってしまう。

おばちゃんが店を閉めたという情報をキャッチした翌年の7月、「大万」はシャッターが閉まっていた。しかもスプレーで落書きまでされていて悲しくなった。

思えば、初来訪は2007年の3月。想像を超えたディープさ、でもカウンターに座ればくつろげる雰囲気。まさに唯一無二の超激安酒場だった。通算8回の来店数では、ご常連と言うのもおこがましい。でも、私にとってはご常連酒場だった。

ありがとう「大万」!

今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2015年3月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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