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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第34回「日向市の美味いものと愉快な酒場」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第34回「日向市の美味いものと愉快な酒場」である。

はじめに

今回は20年前のひとり旅の話を書く。行先は宮崎県。2泊3日の日程のうち、2日目の昼過ぎから。高千穂町を出発し、今は廃線となってしまった第三セクターの高千穂鉄道に乗って、温泉が併設された駅で途中下車したところから始めたい。

そのまえに高千穂観光で一杯だけいただいた「かっぽ酒」について記す。竹を割った容器から注がれる日本酒は、ほのかに竹の香りがして美味い。肌寒かったので、ほどよく燗がついていた酒はひときわ体に染み入った。

今日はなんだか、美味い酒が飲めそうな予感がするな。

日之影温泉~大広間で味わった極めつけのゲテモノ

高千穂鉄道は、台風で鉄橋が流されるなど大きな被害を受け、復旧が果たせないまま廃線になった。台風で不通になったのが2005年。その3年前に乗ることができたのは、運がよかったとしか言いようがない。

秘境駅で知られていた「影待」で駅探検をしてから、日之影温泉駅へと向かう。駅構内に日帰り温泉が併設している全国でも珍しい駅なのだ。鉄道を利用する旅行者にとって、これほどありがたい駅は無いだろう。

ひと風呂浴びたところで、軽く一杯飲む。大広間には軽食コーナーが併設されており、ありがたいことにアルコール類も用意している。風呂上がりの生ビールは定番として、おつまみは何にするかな。ハチの子のバター焼きか。これにしよう。

ウジ虫のようにも見えるハチの子を敬遠する人は多い。でも、信州人にとってハチの子は、メジャーな味だ。今では高級珍味にもなっている。食券の番号を呼ばれたので、カウンターへ料理を取りに行くか・・・っと、え?これか?

なんと、スズメバチのハチの子だった!

ハチの子を食べ慣れているとはいえ、さすがにこれには驚いた。信州の味覚は黒スズメバチと呼ぶ地バチで、幼虫の大きさはせいぜい1センチ程度。これは数倍以上ある。もはやハチの子というよりも芋虫だぞ。

だが、これで怯んでいてはゲテモノ食いの信州人の名折れ。芋虫のようなハチの子は、思ったよりも身が引き締まっていて、バターともマッチして美味い。見た目だけで敬遠してはいけない、この地方ならではの貴重な珍味だ。

生ビールとハチの子バター焼きを頂戴し、次の列車へ乗る前にお土産コーナーを見学。ここにはスズメバチの親バチが焼酎漬けで売っていた。滋養強壮のカンフル剤とか。その幼虫なのだから、当然効果はあるだろう。何だか活力がみなぎってきたぞ。

日向市「いこいの里」~地鶏のセットに大満足

高千穂鉄道の起点である延岡駅まで戻り、ここから日豊本線で日向市駅へと向かう。この日の泊まりは日向市内のホテルである。当然、夜の飲み歩きも日向市街地となるわけだが、実はちょっとだけ不安だった。

日向市の飲食店情報がほぼ皆無だったのだ。

インターネットも、観光ガイドブックも頼りにならない。あとは自分のカンを頼りに店探しをするだけ。でも、飲食店が立ち並ぶエリアには、予想に反して良さげな店がいくつもある。仮にカンが当たらなかったとしても、期待はできそうだ。

そのなかで、地鶏の店「いこいの里」に入る。店は小ぢんまりしており、女性2人で切り盛りしていた。ビールを頂戴し、店の看板メニューである地鳥のセットをお願いする。

最初に南蛮風の鳥皮、ほうれん草のおひたし、クラゲあえものの小鉢物。鳥皮も地鶏なのだろうか。さっぱりしていてビールに合う。小鉢でビールを飲んだら、メイン料理に備えて芋焼酎を所望する。九州に来たら、やっぱり焼酎だな。

メインの地鶏たたきは、さらし玉ねぎとニンニクが添えられていて、カツオのたたきの地鶏版という感じ。それから地鶏の炭火焼。モモの部分を豪快に焼いた一品は、さすが宮崎名物だけのことはある。サービスで焼いてくれたシイタケが巨大で、箸休めにピッタリだ。

合わせた芋焼酎の「天孫降臨」も格別だった。その名のとおり、本日観光した高千穂町の神楽酒造が醸す銘柄。地鶏との相性もよく、満足の一言に尽きるぞ。

日向市「焼酎道場」~注文を取らない酒場で飲む

地鶏で満腹となったが、酒の方はまだまだいけそうだ。こういう時にバーでもあればいいなと思いつつ、ふらふら歩いていると、地元御用達っぽいような赤のれんを発見。「焼酎道場」と書かれていたので、反射的にのれんをくぐってしまった。

道場とは名ばかり・・・焼酎はポピュラーな銘柄だけ。そもそも店構えからして、変わった焼酎を飲ませてもらえそうな感じはしなかった。だから別段期待もしていない。とりあえず芋焼酎「霧島」をいただくことにする。

店はオヤジさんが一人で切り盛りしており、酔客は私を除いてすべてご常連。オヤジさんもご常連とのおしゃべりに夢中で、料理の注文を聞いてくる気配もない。それどころか、付き出しすら無い。

まあいいや、満腹だから。とりあえず飲もう。

そのうち、隣に座っていたご常連のおっさんが話しかけてきた。たぶん、見たこともないような中年男がフラリと店に入って来たので興味津々だったのだろう。私が「旅の者です」と言うと、「よくぞ、この店、この地に来てくれた」と、いたく感激してくれた。

おっさんのポリシーは「酒の席で仕事の話をするのは無粋だ。酒は楽しく飲まなければいかん」。同感である。仕事の話をするとロクなことがない。旅先で、同じ考え方の人に出会えてうれしい。酒だ、酒だ、もう一杯、焼酎を飲もう。

途中から、おっさんの連れと思われるスナックのママ風の女性が加わり、よもやま話に花が咲いた。おっさんはカラオケを歌い出し上機嫌。旅先で地元ノリできて楽しいぞ。料理?・・・いらない。オヤジさんには申し訳ないけど、これでお腹いっぱいだよ。

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2002年11月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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